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ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・カルテット』

ソニー・ロリンズは1953年に初のリーダーアルバム『ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・カルテット』をリリースします。マイルス・デイビスがピアノで参加した小ネタがあるアルバムです。

アルバムは13曲収録されています。セッションメンバーや録音年が異なる不思議な寄り合い所帯なアルバムです。

セッションと録音年を書いてみます

セッション①1953年10月7日の録音はロリンズのオリジナル曲が2曲、その他が2曲で合わせて4曲。ジョン・ルイス(ピアノ)、ミルト・ジャクソン(ビブラフォン)、パーシー・ヒース(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)のモダン・ジャズ・カルテットをバックに据えた演奏です。

セッション②1951年12月17日はロリンズのオリジナル曲が3曲、その他が5曲で合計8曲。ケニー・ドリュー(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)のワン・ホーンの演奏です。

セッション③1951年1月17日はマイルス・デイビスのオリジナル曲が1曲のみ録音。マイルス・デイビス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラム)とマイルスをリズム隊に据えた演奏です。

アルバムの収録順とCDの再生順は①から②そして③です。録音年代順にすると③から②そして①と逆さまになります。

CDや音楽ファイルは便利なもので再生登録しだいで録音年代順に聞けるため、私はときどきその順序で楽しみます。それにしてもこれだけのジャズの巨人達が参加したすごいアルバムだと感嘆します。

セッション③はマイルスのオリジナル曲「アイ・ノウ」のみです。曲はバッキング・ピアノから始まります。マイルスのピアノはリズムを出すことに徹した控え目な演奏です。この様子をマイルスは後年振り返っています。

続くソニーのレコーディングは、ジョン・ルイスが用事があって帰ったから、オレがピアノを弾く羽目になった。他はすべて、オレのセッションと同じだった。全部終ると、トランペットよりもピアノのほうが良かったなんて、みんなからからかわれたっけな。この日、ソニーは一曲、オレは四曲レコーディングしたと思う。終ってみると、なかなかいい気分だった。           マイルス・デイビス クインシー・トループ 中山康樹訳『マイルス・デイビス自叙伝1』宝島社文庫

マイルスは「ピアノを弾く羽目になった」ものの「終ってみると、なかなかいい気分だった」とご満悦。レコーディングよりも用事を優先させたジョン・ルイスの「用事の中身」を知りたくなるエピソードですが、当のロリンズはこの様子をどんな思いで見ていたのだろうかと、私は自伝を読むたびに思いを巡らせてしまいます。

それはさて置き「アイ・ノウ」はジャズ・ミュージシャンが頻繁に取り上げて録音した曲ではないはずです。そのため比較が難しく曲のどの部分がテーマでアドリブでと聞き分けしがたいのですが、オープニングのピアノの後にロリンズのテナー・サックス演奏がテーマ。ドラムのリズムブレイクの後にアドリブへ突入していく構成だと捉えています。

当時の録音技術の関係があってか、次のアドリブへ入るあるいは他の奏者に引き継ぐところで演奏が終わります。続きの演奏を聞きたいという余韻が残る曲です。

セッション②は「スロー・ボート・トゥ・チャイナ」が収録されています。本アルバムのこの1曲となると必ず引き合いに出されます。歌心があるロリンズと称される演奏だと思います。
このセッションにはロリンズのオリジナル曲が「スクープス」、「ニュークス・フェイドアウェイ」、「マンボ・バウンス」の3曲入っています。どの曲も聞きどころにあふれています。心地良いのはロリンズがフレーズを演奏すると他の奏者がそれに呼応しながら曲が進んで行くところです。聞いている私もロリンズにフレーズを渡された気持ちになります。

ピアノのケニュー・ドリューがロリンズにユニゾンで応じたり、揺れる伴奏で応えたりする。ロリンズのオリジナル3曲には聞くものを引き込み、ロリンズの演奏を中心にすべての楽器が追随する魅力があると思います。

このセッション②は、セッション①から11ヶ月後に録音されています。驚きは短期間での演奏の完成度の高さです。1年も経たないのに、という素朴な驚きです。天才ソニー・ロリンズだから変貌して当然、あるいはセッション①の時点でもすでにセッション②程度なら演奏が出来たが機会に恵まれなかった、どちらも確かめようがないですが、そのどちらも正しいという気がしています。

引き込む魅力は①のセッションに収録されたロリンズのオリジナル曲「ザ・ストッパー」、「ノー・モウ」にも引き継がれていると思います。ビブラフォンのミルト・ジャクソンはロリンズのフレーズに合わせてビシビシと叩きます。ピアノのジョン・ルイスも鍵盤を打楽器のように弾きます。どちらも粒立ちした音色です。両楽器の奏でる響きをバシバシ叩くことがかえってテナーサックスの流麗さが際立ちます。

ピアノの音色はいまどき耳にするような響きわたり空間を感じさせる音とは違い、現在の私たちの耳からすると生ピアノというよりもエフェクトをかけた電子ピアノのような音色に聞こえるという事情はあるかもしれません。

なおこのセッション③ではピアノのジョン・ルイスに用事がなかったのか、帰らずにレコーディングに参加しています。

マイルス・デイビスは自己のクインテット、アート・ブレイキーはジャズメッセンジャーズ、ミルト・ジャクソンはMJQを持ち演奏活動を続けてきたことに比べて、ソニー・ロリンズは周知の通り彼らに比肩する持続的なバンドを持たなかった。

自分の統一的なサウンド作りには固定メンバーが必要では?と感じるところですが、ソニー・ロリンズにあっては自己のバンドを持たずしてもセッションメンバーが誰であっても名演奏を創造する力が初リーダーアルバムのリリースの時点から備わっていることを感じさせるアルバムです。

ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・カルテット』(プレスティッジ・レコード、ビクター音産)

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