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ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ・プレイズ』

本アルバムはシンプルでキャッチーな魅力を備え、BGMにならず自然と聴き入ってしまう美しいメロディに溢れています。

ソニー・ロリンズはアルバム『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』を1957年11月3日に録音し、翌日の11月4日『ソニー・ロリンズ・プレイズ 』(ピリオド)を録音します。

メンバーは
・ソニー・ロリンズ(テナー)
・ジミー・クリーブランド(トロンボーン)
・ギル・コギンズ(ピアノ)
・ウェンデル・マーシャル(ベース)
・ケニー・デニス(ドラム)
編成はクインテットです。ジャズレーベルはピリオド、監修はレナード・フェザーです。

🔵レコード基準の収録曲

A面は 
① ソニームーン・フォー・トゥー
②ライク・サムワン・イン・ラブ
③ 交響曲第6番“悲愴“のテーマ

B面は
①ラスト・フォー・ライフ
②アイ・ガット・イット・サド
③バラードメロディ

A面はソニー・ロリンズのオリジナルナンバー、スタンダードナンバー、チャイコフスキーの交響曲抜粋からなります。B面はサド・ジョーンズ(トランペット)の吹き込みです。アルバムはソニー・ロリンズ名義ですが、サド・ジョーンズの録音も合わせてリリースされます。

🔵不思議な組み合わせ

ジャケットを手に取り思うのはソニー・ロリンズとサド・ジョーンズとの奇妙なA面とB面の組み合わせです。

ロリンズが駆け出しのジャズミュージシャンであれば、知名度の低さから他の誰かと組んでアルバム制作やリリースも考えられますが、1957年の当時はすでに人気と実力を兼ね備えたテナーサックス奏者です。

アルバムの裏面を見ると「レナード・フェザー・プレゼンツ・ソニー・ロリンズ・クインテット.サド・ジョーンズ・アンド・ヒズ・アンサンブル」とあります。プレゼンツとは提供するという意味ですので、フェザーが監修し組み合わせて提供するソニー・ロリンズとサド・ジョーンズのアルバムと捉えられます。レナード・フェザーに主導権があったと。

さらにギリシャ神話のアポロ?と思われる人物がサックスを吹いているジャケットデザイン、馴染みのないクインテットメンバー、ジャズレーベル、監修者、スタジオ、レコーディング技師、B面のサド・ジョーンズの演奏。

🔵謎おおきアルバム

いちいち知りたくなり、いろいろ調べたりお勉強をしたくなるアルバムです。その中で特に気になるのは監修者であるレナード・フェザーです。

ソニー・ロリンズはプレスティッジ時代はプロデューサーのボブ・ワインストックとアルバム制作し1956年12月『ソニー・ボーイ』(プレスティッジ)の録音により同社と契約満了後、翌年より
・コンテンポラリーのレスター・ケーニッヒ
・ブルーノートのアルフレッド・ライオン
・リバーサイドのオリン・キープニュース
と仕事をします。4つのレーベルとプロデューサーです。

リーダーアルバムをリリースしたジャズの巨人のなかで短期間でジャズレーベルとプロデューサーを横断しレコーディングしたのはソニー・ロリンズぐらいです。ジャズ評論家のレナード・フェザーもそのひとりです。

🔵レナード・フェザーとは?

レナード・フェザーは1914年にイギリスのロンドンで生まれました。1939年からイギリスの音楽雑誌『メロディ・メイカー』の特派員としてニューヨークに赴く。ジャズの世界ではジャズ評論家として多くの評論とライナーノーツを残しています。また活動は評論にとどまらずピアニスト、作曲家、プロデューサーとしての顔を持ち合わせていました。1994年に永眠しています。

ミュージシャン視点でフェザーの評判を拾うとマイルス・デイヴィスはこう言っています。

「彼(ラルフ・J・グリーン)とレナード・フェザーとナット・ヘントフだけが馬鹿みたいなことを書かない例外的な音楽批評家だ。残りの連中はどうでもいい」(引用①)

辛口のマイルスが高評価を与えています。

🔵司会者としてのレナード・フェザー

私の場合、レナード・フェザーと言うと評論家というよりも司会者の姿が耳に焼きついています。

1954年の冬にビリー・ホリディのヨーロッパ演奏旅行に帯同し、ドイツのケルンでのライブを録音したビリー・ホリディのアルバム『レディ・ラブ』にドイツ語で司会をする声が録音されています。

ジャムセッションを伝える様子。この演奏にはソニー・クラーク(ピアノ)が参加しています。

ユタ・ヒップを紹介するレナード・フェザーです。

司会はとてもスマートな立ち振る舞いのように感じます。

🔵センスの良いメンバーとのセッション

フロントにソニー・ロリンズのテナーサックスとトロンボーンのジミー・クリーブランドを据えたクインテットです。

このクインテットの編成で思い出すのは、『ソニー・ロリンズVol.2』(ブルーノート)ですが、同じサウンド志向を狙っていません。ここにレナード・フェザーの狙いがあります。

『ソニー・ロリンズ・プレイズ』はジャズクラブでのホットな演奏をスタジオに持ち込み録音するというよりも、楽器の美しい音色を引き出し安定したスマートでハードバップな演奏を柱とします。

メンバーは後年においてジャズの巨人として名を連ねはしないものの聴く者を魅了する腕前の持主達です。ジミー・クリーブランド(トロンボーン)、ケニー・デニス(ドラム)はマイルス・デイヴィスのオーケストラ録音に参加したり共演しています。

ギル・コギンズ(ピアノ)はマイルスの初期ブルーノート作品に参加し録音を残しています。マイルスのセッションに呼ばれて、レコーディングできる実力者です。

マイルスの語りがあります。
「オレ(マイルス)は、奴(ギル)の弾き方が大好きだった。もし続けていたら、最高のピアニストの一人になれただろう。初めて紹介された頃は、まるでいいとは思わなかったが、<イエスタデイズ>の、オレのバックでの演奏を聴いた途端、本当にまいってしまった」(引用①)

ウェンデル・マーシャル(ベース)はデューク・エリントン楽団で活躍し、50年代はモダンジャズの巨人らと活動しています。60年代はブロードウェイ・ミュージカルのビックバンドで演奏しています。

🔵聴後感

「ソニームーン・フォー・トゥー」はアルバムでは『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』でも聴けますが、ライブに比べてワイルドさを抑えています。『夜』ではピアノレストリオのためロリンズがメロディの大半を担っていましたが、本アルバムではクインテットのメンバーに分担されます。武骨だった演奏が流麗な演奏になり、曲自体の懐の深さを味わえます。

心地よいハーモニーから始まるのが「ライク・サムワン・イン・ラブ」です。ロリンズとクリーブランドとのハーモニーから、ロリンズがソロへ移る躍動的なサウンドやクリーブランドのパッセージの入れ方にセンスの良さがあります。

「交響曲第6番“悲愴“のテーマ」はロリンズの一息の長いフレージングが聴きどころです。曲の終盤でギル・コギンズのピアノソロがあります。コードトーンを鳴らす時の力強さとシングルトーンを弾く時のワンテンポ遅れ気味がつくる繊細さが絶妙です。
 
なぜ、この素晴らしいメンバーで活動をしなかったのか?と考えてしまいます。ロリンズにとってはマンネリ感があるのか、と推測しますが、ファンからすると美しい演奏路線も捨てがたいのではと考えます。

引用
①マイルス・デイビス/クインシー・トループ『マイルス・デイビス自叙伝1』2000宝島社文庫

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