見出し画像

吉祥寺酔舎 -Like A Hurricane-

吉祥寺駅北口から徒歩で12、3分のところ、女子大通り沿いに酔舎というロック居酒屋と言うべきお店がありました。この店は1990年にオープンした古い店です。

画像2

画像2

店に入ってカウンターで注文するのですが、その時リクエストカードを貰います。このリクエストカードに店でかけて欲しい曲名とアーティストを書いて渡すと、その曲があればかけてくれます。無い場合は同じアーティストの別の曲をかけてくれます。

画像3

※実際に使われたリクエスト用紙

ここは昔から日本のロックも海外のロックもかける、ちょっとレアな場所でした。ただ、ここのマスター(親しい人は徳さんと呼んでいました)は好みがはっきりしていて、嫌いなアーティストの曲のリクエストをするとかからないか、下手するとそのアーティストをdisるような曲がかかります。

でもここに来る人はマスターのそういったところも好きで来ていました。

画像12

店の中にはニール・ヤング、ジョニー・サンダース、ボブ・マーレー、村八分、カート・コバーン等のポスターが貼られ、テーブルは昔のEP版レコードのジャケの縮小コピーが敷き詰められていて、これもまた雰囲気が良かったのです。

画像9

トイレに行く通路の横にはEP版レコードを使ったジュークボックスがあり、数年前まで現役で動いていました。さすがにリアルに動いているジュークボックスは見た事無くて、何度もコイン入れて曲をかけました。

画像9

そういえば自分が何故ロックバーと言わずロック居酒屋と言うと、食べ物のメニューも豊富だったからです。

画像7

この料理は全てママが作っていました。僕の身内で一番大人気だったのがダブルキムチ焼きそばでした。

画像8

地味に野沢菜も好きだったな。ちなみに飲み物のメニューはこちら

画像10

安いですよね。昔からチャージなしだったので500円(税込み!)あれば一杯飲めたので、貧乏バンドマンにはすごい助かるお店でした。バンドのリハ帰りはメンバー全員でいつも寄っていました。そういえば最初はチケット制でした。途中からキャッシュオンになりました。

マスターは音楽の造形が邦楽も洋楽もめちゃめちゃ深く、いろいろな音楽を教えてくれました。

店が開店した直後に行くと客がまだいないので、聴いたことないようなノイズバンドやプログレバンドがかかっていました。阿部薫、村八分、ゆらゆら帝国、ニール・ヤングはここで教わったと言っていいでしょう。

自分達はマスターがいるところの近くの壁際の席に座り、知らない音楽で面白いものがあったりするとアーティスト名とか聞いたり、あるいはオススメのアーティストを教えてくれたり、こちらが好きそうな、だけど知らなそうな曲をかけたりしてくれました。

音楽やっているとプレイヤー達から音楽を教わる事は多かったですが、演奏者では無い人からたくさんの音楽を教わったのはここだけです。そういうマスターの知識と人柄とママの料理の腕のせいか、多くの音楽業界の人も来ていました。

また、微妙に音楽関係とは違うかも知れませんがクドカンこと宮藤官九郎さんも通っていたようで、週間文春2020年6月11日号でこのお店の事を触れています。一部引用します。

僕の、あまりに偏ったリクエストに、店主が呆れたように言った。
「なんだ、アンタ田舎のパンクスか」
それ以来、僕が来店するとクラッシュ、ダムド、ラモーンズ、邦楽だとスターリン、ルースターズ、じゃがたら等流れた。

「アンタ田舎のパンクスか」はいかにも言いそう。きっとカウンターから急に顔出して言ったんだろうと光景が目に浮かびます。

画像11

自分はここで大きな音でニール・ヤングのDown By The River(1970年のライブ版で12分くらいある)を聴きながらバーボンを飲むと最高に気持ちよくて、ここでしか味わえない幸せがありました。

しかし残念ながら2020年1月、突然マスターがお亡くなりになってしまい、ここの長い歴史が終わりました。

あそこでニールヤング聴きながらバーボン飲めないのも寂しいし、あそこの料理食べられないのも悲しいし、マスターから音楽教えてもらえないのも寂しいし、何よりあの店がもう無い事が寂しいけど、逆にそれだけのものをくれた事に対して本当に感謝しています。

最後にマスターのこんなエピソードをご紹介します。こちらのブログ記事なのですが、書かれたのが2005年です。

要約すると、筆者は取材する16、7年前(つまり1990年頃)初めてこの店に訪れ、「ニール・ヤングが ”blown away ~”って歌ってる曲」をリクエストし、その曲がかかり、その曲が「Like A Hurricane」という曲名だと知ります。

それからしばらく通ったのですが就職や引っ越しで10年くらい行けなかったそうですが、以下本文から引用

一昨年、ふらっと十年ぶりくらいで立ち寄ったときの私は、ハードロック少年だった面影もなく、立派な(!)社会人になっていたと思うが、店に入るなり ”Like A Hurricane” が流れてきた。
「・・・!マスター、分かった?」
「いや、スーツなんて着てるからアレ? と思ったけど、多分あの子だろうと・・・・」

容姿も変わった昔の客の一番好きだった曲をスっと流す。カッコ良すぎませんかね?

この記事を読んでマスターのテーマ曲はLike A Hurricaneと決めてしまいました。ニールヤング好きだったから問題無いでしょう。

徳さんママさんお疲れ様でした。そしてありがとうございました。

#ここで飲むしあわせ


頑張ります!