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整い散らかす霜月

銭湯で湯船に浸かりながら、でかい家とか広い部屋はいらないけど広い風呂はあってもいいなぁなどと考えながら明るすぎる照明を見つめた。
広ければ広いほど良いのだろうか?と市民プールサイズの風呂のヘリでちょこんと座る自分を想像してみる。莫大な水道代に見合わぬ滑稽な姿であった。


一息つき、給水器で水を1口、体の水滴を拭いて階段状になったサウナ中腹で12分。明かりは濃い橙色。影も少し赤みを帯びた。
テレビに映る日本シリーズに目をやりながら、タオルで口周りを覆いひたすらに耐える。大の大人がタマッコロを必死で投げたり、棒で叩いたりしている。それを汗だく裸の大人達が固唾を飲んで見守る。中には、文句を付けたりアドバイスしている男までいる始末。知り合いなのだろうか。だとしても通話している素振りはない。
一方、私はへそに溜まった汗に名前をつけてかわいがったりして、暑さを耐えた。

気がつくと、久しぶりだから危ないという謎の自分ルールが作動しており9分後にサウナの外にいた。


水風呂に浸かり軽い頭痛、血管の収縮を感じながら2分。時計が見えなかったが多分2分。

露天に出て、木の枕と畳の休憩スペースに仰向けになり少し衛生面のことを考えながら(考えても仕方ないのですぐ忘れた)目を瞑る。全身が一定のリズムで鼓動する。鼓動がどんどん大きくなりうるさい。脈の振動で少しずつ頭の方向に身体がずれていく感覚を背中で感じる。背中の感覚が徐々に無くなり身体が浮く。足は踵方向、頭は空へ回転し体感は地面に対し60度。
ここで目を開けて気のせいだと安心する。
身体からはもうもうと湯気が立ち上り、肉まんを思い出した。蛇足だと理解しながらも止められずピザまんも思い出した。


寒さを感じ始めたのでゆっくりと起き上がり、壺風呂の一角へ。

3つある壺風呂の真ん中には先客がいた。恐らくその壺の主(ヌシ)であろう。凄い形相である。
刺激しないようにその前をひょこひょこと通り、全体がよく見える1番奥の壺に入る。私と同じ量のお湯が外に溢れる。ざざぁあという音が、私の豪快さを語りこの瞬間、この壺のヌシは私になる。湯の溢れる音は男の表情をヌシのそれに変えるようだ。

ひとつ長く息を吐いた後、左手首のロッカーの鍵を1回出して、またしまった。



よし壺風呂にしよう。

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