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裸の目


生まれてからずっと裸眼で生きてきた。
晴れの日も雨の日も、結婚した日も嫁が出て行った日も私の両目は裸であった。


具体的数値をあげるとすれば両目ともに1.5。世界がぼやけたりした経験はなく、見たくないものまでクリアに脳に映し出した。

そんな私の目に異変が起きたのは今年の1月、健康診断でのこと。
右目の診断を終えた際、看護師さんが口にした「0.7ですね」の一言。耳の検査かと一瞬疑った。

「え、前回までずっと1.5だったんですけど笑」とへらへら口にする私。

「そうなんですねぇ」と冷静な看護師さん。

そんなもんか、と思い帰路に着く途中に襲った猛烈な恐怖は今も鮮明に覚えている。


数字というものは残酷である。
目以上に見たくないものをはっきりと見せつける。
両目1.5の私がかつて持っていた得点は3.0。
そのうちの0.8を一瞬にして失った。
残りの持ち点は2.2でこれはつまり、約4分の1を持ってかれたことになる。

四肢に換算すると、腕一本いかれている。
髪の毛だとすると目も当てられない状況だ。

これを「そうなんですねぇ」で済まされてしまった。たぶんだめだ。

両目合算の数字なので、右目だけで考えると2分の1以上持ってかれている。

歯だとしたら上の歯全部
タカアンドトシだったら、トシ全部である。

下の歯は相対的に下の歯なのであって、下の歯あっての上の歯であると言える。もはやこれは、全歯いかれたも同然である。
タカアンドトシに関しても同様。

この日以来、私のすべての思考は視力と同居した。


そして迎えた今日。
健康診断が行われた。


結果は両目ともに1.5。


私は静かに狂喜した。心臓が高鳴り、魂が叫んでいるのが聞こえた。

それを証明するかのように、静かに興奮する私の血圧が異常値を叩きだし、静かなる赤面と共に測り直しが淡々とすすめられた。


いつだって数字は見たくない現実を目以上に見せてくれる。


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