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インド一人旅したら死にかけた話 【第2回】

第1回はこちら

ホテルにチェックイン(したかった)

タージマハルの最寄り「アグラカント駅」へ向かう列車は発車こそ定刻通りだったものの、到着は1時間以上遅れ、気づけば深夜2時を回っていた。

インド初日から夜中に出歩くのは怖かったが、この日のホテルは駅から歩いて10分ほどのところにとっていたので、急ぎ足で向かった。

着いたのはお世辞にも綺麗とは言えない小さなホテルで、フロントは薄暗く人影はない。勇気を出して入り口のドアに手をかけた。

鍵がかかっていた。

深夜ということもあり申し訳ないとは思ったが、何度かノックをすると、奥から眠たそうな従業員が出てきた。僕はその人にホテルの予約画面を見せ、中に入れてほしいと英語で頼むと、彼は不機嫌そうに

「No English!」

とまくしたて、僕を追い返そうとしてくるのだった。とっていたホテルは間違いなくそこで、スマホの画面にも確実に予約が完了している旨が表示されている。おまけに備考には「24時間フロント対応」「ヒンディー語・英語対応」とも書かれていた。

しかし、半泣きになりながらどれだけ説明しても従業員は全く取り合ってくれない。というか英語が通じないんだから当然である。一度は追い返されまた鍵を閉められるも、めげずにもう一回ノックし、再度必死に説明してみたが、やっぱりダメだった。文字通り門前払いだった。

時刻は午前3時になろうとしていた。異国の地で夜中に宿無しになると笑いがこみ上げてくるんだとわかった。

泊まれなかったホテル


早朝のタージマハルへ〜真夜中のインドを歩く

タージマハルは日の出とともに門が開くので、そのタイミングで訪れようと計画していた僕は、今から新しくホテルを探して取っても大した時間寝られないだろうと思い、明かりがある駅まで戻って時間を潰すことにした。 

とはいえ深夜3時過ぎ。売店もやっておらず、駅に着いても本当にやることがなかった。かろうじて駅構内にいたチャイ売りのおじさんからチャイを買って飲み、1時間ほどぼーっとしたところで、駅からタージマハルまで歩こうと思い立った。

距離にして約6km。普通に考えればトゥクトゥクやタクシーを使うところだが、この時点で24時間寝ていなかったこともあってか、正常な思考が働いていなかった僕は、さらなるスリルを求めて暗い夜道を歩き出した。

道中はカオスそのもので、しゃがみこんで何かを燃やしている人、ゴミだらけの歩道、大通りを猛スピードで爆走してくる装甲車みたいなトラック、道路のど真ん中を我が物顔で歩く野良牛など、枚挙にいとまがないほどの目がくらむ光景に圧倒された。

そんな中やっとこさタージマハルの門に着いたのは朝5時過ぎ。まだ日は登っていなかったので、世界遺産といえど周辺は驚くほど暗く、どこからか聞こえる不穏な音楽と野犬の遠吠えが不気味さに拍車を掛けていた。

タージマハル周辺の路地
街灯はほぼなかった


30分ほど門の前で待った頃だろうか、やっと空も白み始め、観光客の数も増えてきた。そして無事チケットを買い入場。広大な庭園の奥に鎮座するタージマハルは世界史の教科書で見たよりもずっと巨大で、真っ白な大理石造りの外観は、到着からインドの闇の部分しか見ていなかった僕の目に痛いぐらいに眩しく映った。

バカでかい


一通りタージマハルを見終わったが、早朝の開門直後に入場したため、まだ時刻は朝8時前。その日は昼ごろに特急列車に乗って早々とニューデリーに戻る予定だったが、出発時刻まではまだ3時間以上ある。特にすることも休めそうなところもないのでふらふら散策しながら駅まで歩いて戻ることにした(どんだけ歩くんだ)。

世界的観光地として有名なタージマハルだが、その周辺は観光地らしからぬ汚さで、路地にゴミは散乱、おまけにドブには鼠色に濁った水が流れており、一部はさながらスラムのようだった。

声をかけてきた仲良し三兄弟
強く生きてほしい


夜歩いている時には気づかなかったインドのさらなる無秩序ぶりを感じつつ、機内食から何も口にしていなかったのもあってお腹が減っていた僕は、現地の人しかいないような、小さくてものすごく汚い露店で売られていた、よくわからない揚げ物を買って食べてみた。

死ぬほどうまかった。

汚いドブの前で謎の揚げ物を食うのはなかなか珍妙な体験だったが、一生忘れられない朝ごはんになったのは間違いない。

謎の揚げ物〜ドブ川とゴミを添えて〜


ニューデリー帰還〜ガンジスの街へ

タージマハル周辺を離れ、駅までの道を歩き始めると、夜とは打って変わって人通りは増えており、通勤・通学する人から、マ○ファナを勧めてくるおじさん、普通に壁に立ちションする警察官までいろんな人たちを見かけた。そんな人々を横目に無事に駅まで戻ることができた僕は、拍子抜けするほど時刻通りに動いていた列車に乗り、無事ニューデリーに帰ってきたのだった。

アグラカント駅前の大通りにて
大丈夫なのだろうか


この後は夕方に国内線に乗って、ガンジス川付近にあるバラナシという街に向かう予定だった。それまではニューデリーの中心街を散策した。所狭しと並ぶ屋台で、これまたよくわからない揚げ物や、謎のフルーツの生搾りジュースを買った。どれも美味しかった。

ジュース屋のお兄さん


その後ニューデリー空港に戻って飛行機に乗り、夜の8時前に無事にバラナシの街に到着。

バラナシに取っていたホテルにはタクシーで向かった。着いたホテルは寂れてはいたものの、スタッフはいい人そうでひとまず安心した。しかし案内されたのは貧弱な鍵と、当たり前に水しか出ないシャワー、そして極め付けは、血だらけ(?)の洗面台が備えられた小さな部屋だった。ただ、日本出国から40時間以上寝ていなかった僕にもはやそんなことを気にしている余裕はなく、ブルブル震えながら水シャワーを浴びた後、それはそれは深く眠ったのだった。

血だらけの蛇口


第3回につづく



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