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インド一人旅したら死にかけた話 【第1回】

晴れて30代に突入した昨年11月、その記念と言っては難だが、ひとりでインドに行ってきた。

なぜインドなのかは自分でもよくわからない。とりあえず日本とかけ離れた街並みが広がる、変な国に一度行ってみたかった。

「インド行ったらすごい経験ができる」とか「人生観変わる」とかはよく聞く。
とはいえ、平々凡々生きてきた自分には大して何も起こらんだろ、という若干斜に構えた気持ちを抱きつつ、ちょっと珍しいもん見て帰って来られればいいや、ぐらいの感じでチケットをとった。

そんなこんなで5日間ひとりで放浪したインド。

普通に死にかけた。

折角無事に帰ってこられたので、この経験を書き残しておきたい。


出発

11月19日、昼の便で成田を発った。安さにつられ、取ったのは日本の航空会社ではなくAir Indiaという現地の会社のチケット。いざ搭乗すると機内がすでにカレーの匂いで驚いた。

ここから到着まで約9時間半、映画でも見て快適に過ごそう、そう思った矢先、なぜか自分の席のモニターだけ電源が入らなかった。CAさんに聞くと「壊れてますね」と微笑まれた。出国前にほんの少しインドの洗礼を浴びられたのでちょっとオイシイな、ぐらいに思っていたが、そのあとイヤホンも家に忘れてきたことに気づき、音楽すら聞けず本当に何もすることがない地獄の9時間半を過ごすことになった。

みんなはモニター点いてる


到着〜お守りの20ドル札

現地時間18時過ぎに首都ニューデリーの空港に到着。機内で寝られずちょっと疲れていたが、意外とすんなり入国でき、無事ATMで現金も下ろせたのでひとまずホッとした。

しかしのんびりはしていられない。次の日は早朝からタージマハルを見る予定だったので、夜のうちにその近くまで鉄道で移動しておく必要があった(ニューデリーからタージマハルのあるアグラという街までは200kmぐらいとそこそこ離れている)。

早々と空港をあとにし、無事ニューデリー駅に到着。ここからタージマハル付近へ向かう列車に乗らなければならない。ホームに入るゲートの前には、列と言っていいのかわからないような列ができていて、もみくちゃにされながら並んだ。

そしてあと少しでホームに入れるというところで、ゲートの目の前でごった返す人たちを整列させていた、ひとりの駅員に呼び止められた。

「乗車券持ってる?」

そう駅員に声をかけられた僕は、すでに取っていたオンラインチケットの画面を見せた。しかし駅員は「これじゃ列車は乗れない。紙の乗車券を見せてくれ。」と続ける。

無論オンライン上のものしかなかったのでその旨を説明すると、トゥクトゥクに乗って大通りの向こう側にある店舗に向かって、そこで新しくチケットを発行してもらってくれとのこと。

嫌な予感はしたが、ゲートの目の前で人を整列させているような明らかな駅員だったので、幾ばくかの好奇心も持ち合わせつつ、彼が用意したというトゥクトゥクのドライバーに付いていった。

ドライバーはニューデリーの少し肌寒い夜の空気を切りながら、颯爽とトゥクトゥクを走らせる。しかし、なかなか目的の店舗には着かない。街の喧騒は次第に消えていき、しばらくして連れてこられたのは暗い路地に佇む小さな旅行代理店?のようなところだった。

中に入ると怪しい髭ヅラの男がデスクに座っており、「君の乗る列車は行き先が変更になった。別のチケットを手配するから名前と電話番号教えて。」と言ってきた。やっちまったと思った。

お察しの通り騙されたのである。

最初に声をかけてきたニセ駅員からもうグルだったということだ。もう詐欺にあっているとはわかっているものの、全然知らない土地の全然知らない路地にある店で全然知らない髭ヅラ男と二人きり。下手なことを言えば何されるかわからない恐怖の中、ここをどう切り抜けようか必死に考えていたところ、こんなこともあろうかとインドの鉄道の運行状況がわかるアプリ(インドにしては割と情報が正確なアプリらしい)をインストールしていたのを思い出した。そのアプリを開くと、乗る予定の電車は行き先など変更になっておらず、普通に動いているとのことだった。

僕は黄門様の印籠のごとく髭ヤロウにアプリの画面を見せたが、彼はそれがどうしたという顔で、本当のことを言ってるのは自分だと主張してくる。ここで折れたら負けだと思ったので、必死に嘘言ってるのはあんただろと言い返し続けた。次第に彼の顔も曇っていき、「もうええわ出てけ!」とキレられ、店を追い出された。

助かったと安堵したのも束の間、ここから早くニューデリー駅まで戻らないと列車に間に合わない。僕をここまで連れてきたトゥクトゥクドライバー(結果的に詐欺師のグル)はまだ店舗の外にいたので、そいつに駅まで戻れと言うと、めちゃくちゃ渋い顔をしながら向かってくれた。

無事駅まで戻ってこられたが、トゥクトゥクを降りようとすると今度はドライバーが「時間を無駄にした。20ドル払え。」と言ってきた。いやこっちのセリフだよと思い拒否したが、ここで別のニセ警備員みたいな男も現れ、降り口を塞がれた。何度拒否しても押し問答で、列車の時間も迫っていた僕はもうカネで解決することにした。

とはいえ、インドの通貨はルピーだし、20ドルって一体何ルピーで渡せばいいんだと困惑していたところ、出国前に会社の上司が、「困った時に使えるから」と20ドル札1枚を持たせてくれていたのを思い出した。

これしかない!切り札のごとくそのお守り20ドル札をドライバーに渡し、なんとか降ろしてもらえた。
その後無事駅のホームまでたどり着けた僕は、定刻通り発車した列車に乗ることができたのだった。

ホームで出迎えてくれた野良犬

実際のところ、ニューデリー駅には駅員に変装した詐欺師がいるから気をつけろという事前情報はあったのだが、まさかゲートの目の前で人を整列させているのが詐欺師だというのは全く気づけなかった。インドでは誰も信用できない。そう痛感したできごとだった。

無事乗れた列車。車窓から見える真っ暗な田舎の街並みを見ながら日本から持ってきたみかんを食べた。いつもより少しすっぱかった。


第2回につづく


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