『天気の子』で新海誠デビューしてきた

驚いたことに、あれだけぜんぜんぜんせ(ryが流行った時ですら、私はそれが『君の名は。』の主題歌であることに半年くらい気付いていなかった。

「入れ替わってる~~~?」の元ネタすら、しばらく気付いていなかった。

2016年の私は映画に興味がなかったのである。元々、私の地元には映画館はなかったので、札幌にきてからも映画を観る習慣がつかず、当時の私にとって映画1本の値段で買える漫画やラノベ2冊の方が価値が重かったのだった。

『君の名は。』も、何か一部のマニアにコアな人気を持っていた新海誠が、ジブリ並みに売れるアニメをっ作って時の人になったな、くらいしか思っていなかった。

私にとって新海誠は「とにかくやべえくらい背景美術が上手いアニメ監督」くらいの認識であった。

で、今回なんで急に観に行くことにしたかというと、東京に来てから映画を観る習慣が割とできたこと、クリエイターとして話題のアニメ映画くらいは観ておくべきでは?と思ったこと、そして「これは昔のエロゲ」というレビューが気になり過ぎたためである。

観終わった感想は…………


思い出していた……。

新海誠監督がまだ書け出しの頃……。

minoriという泣かせ系エロゲーのアニメを作っていたことを……。


全年齢移植版の10年前のエロゲだ……!

あと、本田翼の演技は前評判で言われていたほどは酷くない。(むしろジブリとかでずにーの吹き替えとかのがヤバイの多いと思う)


以下、映画のネタバレです。(スクロールしてどうぞ)













新海誠監督が「君の名は。でファンになった人に怒られるようなオチにした」とかコメントしてたけど、「君の名は。」を観ていないからなのか、別に怒られるようなこと何もなくない?ハッピーエンドじゃん?となってしまった私は感覚がやはり10年前のエロゲオタなのか。

と言っても、私、基本的にまともにプレイしてクリアしたことあるエロゲがよりにもよって『沙耶の唄』(わからない方は検索しない方がいいかもしれない)な人なので、私のいう「10年前のエロゲ」とは当時めちゃくちゃ流行っていた「何か泣ける感じのシナリオを売りにした美少女ゲー」である。

葉鍵系とかがまだ割と元気だったし、セカイ系が完全なる市民権を得ていたし、田中ロミオはラノベを書きだしたけどまだシナリオライターのイメージが強かった頃である。

親と折り合いが悪い家出少年と親を亡くしたワケアリ少女、ヒロインの弟に妙に頭のいいモテスキルがカンストのショタ。怪しいし悪い大人に見えるけど何だかんだで根がいいおっさん、むだにエロいけどこざっぱりとした性格のお姉さん。完全なる往年の泣かしエロゲ全年齢版の布陣だ。

エロゲで出た時に「これ、エロいらねーな?」って言われたタイプのエロゲでしょう???(偏見)

夏美さんルートに進むと、エンディングで空が晴れているけど、トゥルーエンド見た後だとそのエンドを素直な目で見られなくなるタイプのゲームのシナリオでしょ!!!

トゥルーエンドに到達するために、各ヒロインのルートを攻略している時のシュタインズゲート(無印)みたいな気持ちにさせられるタイプのゲームのシナリオ!!!!

主人公の帆高の行動原理が、完全に10年前のエロゲのそれ。

家出少年のわりに妙に純朴で、素直に知り合った大人を頼ったり、知り合ったかわいい女の子をイキオイで助けようとしてしまうまっすぐさとか。

偶然手にした拳銃を、ヤバいと思いつつ持ち歩き、それを最終手段として出してしまうような危うさとか。

ぜんぜんぜんせ(ryもしばらく映画の主題歌だと気づいていなかったくらいなので、RADWIMPSに特に愛着もなんもなかったんですけど「愛にできることはまだあるかい、僕にできることはまだあるかい」というフレーズは、帆高の純粋だけど正しくもなれない少年の性格とまっちしているなー、と思う。

純粋だけど正しくもなれない少年っていうのが、本当に10年前のエロゲ……!!!(偏見)

鬱屈したものを抱えつつ、女の子にドキドキしたりする程度には思春期で、だけど誰かのために何かをできる自分でありたいまっすぐさはある少年、っていうのが泣かせ系エロゲ(全年齢版)って感じ!(ド偏見)

ヒロインの陽菜が、母親をなくした後も弟と引き離されないように年齢を偽ってバイトしながら、弟とつつましく暮らしている(けどバイトをクビになって思いつめて売春しかけてしまう)ところも、泣かせ系エロゲの王道パターンじゃないですか??なお、エロゲなら設定上18歳以上になるのでこの設定が使えないのですが、これはエロゲ(概念)の話なので大丈夫です!!

スガさんの編プロと、陽菜と凪と帆高の晴れ女ビジネス組と、それぞれに疑似家族っぽさを作ってくるのもエロゲ(概念)ですね。いいぞ、その調子だ。

あと、刑事さんが悪役になりきれてない、本当にちゃんと刑事の仕事しているいい人なんだなぁ、というのがわかるのもポイントですね。

帆高が警察署を脱走するくだりは、本当「なんかすまんな、そいつエロゲ(概念)の主人公だからさ……」という申し訳なさと帆高を応援したさの狭間で揺れるような気持ちで眺めていた。帆高、ここに関しては本当にあかんやつなんだけど、彼の憎めないところは「連れ戻される」でも「拳銃のことで責められる」でもなく、ただ「陽菜を探しにいかせてくれ」というところなんだよな。自分が何をしたかわかってない子ではないんだよな。

現に、色々片付いた後は大人しく島に帰っているし、ちゃんと真面目に高校に通って卒業して、大学も合格しているので恐らくすごく気を付けて生活したんだろうし、親との不和も克服していると思われる。

学ランのシーンの帆高にも、頬に殴られた痕っぽいのがあるので、けっこうガチ目に親と仲が悪かったんだと思うんですよね、帆高は。だからこその「帰りたくない」だったはずで。憧れだけで東京まで家出したわけじゃなかろうと。そういうところも概念エロg(ry

夏美さんがバイクで助けにくるところとか、正直熱いよね……。王道だけどおばちゃんこういうの好きだよ……概念エr(ry

そして、娘に会いたいという気持ちを優先し、厄介ごとに関わってしまった帆高を解雇したスガさんが、最後には帆高を助けるところに回るのもね。

大人になれよ、とか言いながら、スガさんは割り切れていなかったし、帆高が大した悪いことなんてしていないのもわかって警察に一緒にいってやる、と論理的に説得するし、本当に陽菜に会いたいというだけでここまで来たという彼の思いを守って警察を止めるし。

あとツイッターでも『パーフェクトショタ』と名高かった凪センパイですよね。こいつはパーフェクト。本当にパーフェクト。ヒロインとの仲を邪魔せず、児相に連れていかれた時点で素早く夏美と連絡をとり、ガールフレンドに協力してもらって脱走し、女装でかけつけて間一髪のところで帆高を助ける。パーフェクト。パーフェクト頭脳派ショタ。

そこで凪が「お前のせいで姉ちゃんがいなくなったんだ!」というのがね、いいよね。帆高頑張れよ、とは言わないんですよ、彼。お前がやったことにお前が責任をとれよ、お前はできるんだろ、という背中押しですよ。

それは間違いなく帆高を「大人」にした一言ですよ。

本当は、あの三人の中で一番年上だった帆高が「自分が」と思って駆け出すための最後の一押し。

なるほど、これはエロゲ(概念)のトゥルーエンド。このエンドに行く前に陽菜バッドエンド、夏美ルートグッドエンド、バッドエンド、島に連れ戻されるバッドエンドくらいはやって、十分に心に傷を負って正解のフラグをきちんと見逃さずに丁寧に立てたプレイヤーが満を持してたどり着いたトゥルーエンドですね。

あと、空から陽菜を連れ戻す時のあのわーっとコーラスが入る感じすごいなーって。映像もすごいけど、クライマックスにふさわしすぎた。

二人が世界を変えてしまった、その結果として東京が水没した、でも東京は突然沈んだわけではなく、3年かけてゆっくりと沈んでいて、ラストでは府中市や武蔵野市でバイトを探していることからみると「案外周辺都市に移行しつつ何とかなってる」感がある。

一度は娘のために帆高を見捨てたスガさんは、結局見捨てきれずに帆高を助けたわけだけど、娘にもあえているし、身ぎれいになっているし、編集プロダクションは広くて綺麗なオフィスになって従業員も増えている。

その上で「世界をお前らが変えたなんて思うなよ」というのである。

スガさんも夏美さんも帆高をかばったせいで、実刑まではいかないにしろ、公務執行妨害でお咎めは受けているはず。帆高のせいで経歴に傷がついたと言ってもいい。

それでも、こういう未来になったのは、スガさんや夏美さんがめちゃくちゃ頑張ったからだろう。(でも恐らくスガさん娘と一緒に暮らしているわけではないようなので、やっぱり完全に上手くは行っていないのだろう)

「世界をありかたをお前らが変えたなんて思うなよ」というのは、スガさんなりの「お前らのせいで東京が水没したんだとしても、少なくとも俺はお前らのせいで悪くなったことなんてひとつもねえぞ、見りゃわかんだろ」という帆高への励ましでもあるのではないかと思う。ご都合主義的に上手くいったのではなく、スガさんの努力で上手くいったのだ。

元々、スガさんはものすごい努力ができる人なのだ。娘のためなら禁煙もするし、娘のために三輪車を買ってあげているし、亡くなった奥さんの分の結婚指輪も薬指にはめている。娘のことを思う時、結婚指輪を触っている。

帆高のことも本当に放っておけなかったんだろうし、多分スガさんは帆高を見捨てて娘と一緒に暮らしていたら、ずっと後悔をしながら生きていくことになったと思う。そしたら、あの綺麗なオフィスで働くスガさんの姿はなかったかもしれない。

世界が変わったわけではなく、昔に戻っただけ。

陽菜と再会してまず思うことが「大丈夫」なのは、この世界でも生きていけるということであり、「もう彼女が祈らなくてもいい」(天気を操る必要もないし、自分のために祈っていた彼女の願いがかなったから)というのが本当に概念エロゲトゥルーエンド。

私は映画を観て泣かせ系ノベルゲー(概念)を完全クリアした。



ところで、散々エロゲエロゲいっておいてなんですけど。

私は実は全然別のゲームを思い出していて。

その昔セガサターンとかPS2とかで出ていた『BAROQUE 歪んだ妄想』っていうゲームなんですけど。(一応アプリ版があって今でも遊べるんですけど、個人的には難易度が比較的低くて初期キャラデザのPS2版が一番いいです)

私「これ、現代もの青春ジュブナイル設定にしたBAROQUEですね?」

友「ああー、そういえばそういう話でしたね」

※BAROQUEは世界が『歪み』によって崩壊した世界で、創造維持神なる女神様と合体して世界を修復させるために、記憶喪失の主人公が塔の地下ダンジョンに放り込まれるという世界観のRPGです。

ゲームのネタバレを惜しみなく言うと(ネタバレを言っても、正直あのゲームに関してはプレイしなければ何もわからないところがあるし……)、BAROQUEって「世界のことなんかよりも僕は君のことの方が大切だ!」って主人公が世界よりも女神をとる、って話なんですよ……。

やばい、スガさんが娘のことを選んで帆高を見捨てていたら、新宿ダンジョンの最下層で新宿の目に埋まった状態で見つかってたかもしれない……(ゲームをやったことある人にだけわかるような強めの幻覚のお話です)

まさか2019年になって、『天気の子』を観てBAROQUEをやりたくなるとは思わなかった。どうすればいいんだこのパッション。


話のツッコミどころとかはまぁおいといて。ないわけではないけど、別に気にならなかったかな。凪パイセンはパーフェクトショタであるということを胸に刻んで生きていきます。


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