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ここ数か月のデンマークのニュースからみえてきたこと

デンマークでは2週間ほど前に確認されたオミクロン株の急激な増加のために、昨年に引き続き今年も多くの職場で忘年会 (Julefrokost)の中止が決定した。パンデミックが始まって以来2年連続で、クリスマス前の様々なイベントが相次いで中止されている。

今回の記事では、最新のコロナ禍の状況と、秋以降、デンマークでどのような出来事が話題になったのかをいくつか簡単に紹介したい。

一言でいうなら、この数か月もまた、人々の意見が政治やマスコミ業界に大きな影響を及ぼした時期だったといえるかもしれない。11月の地方選挙、メッテ・フレデリクセン首相の違法のミンク殺処分指示を調査する委員会の開始、そしてまだまだ火が消えないMeToo案件など、さまざまな出来事があった。そして現在はオミクロン株が急増するなか、政府が新たな規制を導入し始めている。

オミクロン株感染者の増加と規制

デンマーク政府は前回のような強制的なロックダウンはなるだけ避けたいため、忘年会の中止も強制ではなく自粛要請に留めている。人々は家族や親戚と過ごす一大イベント、クリスマスに感染者がでないようにと、自主的に忘年会をキャンセルし、年が明けて落ち着くまで様子をみようとしているようだ。

オミクロンの感染力はうわさ通り強い。デンマークでもこの2週間に感染者数がうなぎ上りに増加している。12月10日のオミクロン株の感染者数は1280人。前日から484人の増加だ。コロナウイルスの新規感染者は同日付けで6599人に上る。12月に入ってからのこの急激な感染者数の増加により、デンマーク政府は、公共交通機関、スーパーなどの量販店、飲食店などでのマスクの着用を義務化、レストラン・バーの営業時間の短縮(深夜0時まで)、深夜から午前5時までの間の酒類の販売禁止など、新たな規制を決定した。

これと並行して、3回目のワクチン接種も50歳以上を対象にすでに始まっている。さらに欧州で認可された子ども(5歳から11歳)向けのワクチン接種も始まった。

オミクロン株増加に伴い、自宅勤務が可能な人はなるべく出勤しないこと、そして小・中学校に相当するFolkeskoleでは、全学年で12月15日(水)から1月4日(火)までオンライン授業が再び導入されることも決まった。子どもたちはもともと今月18日から1月2日までクリスマス休暇だったが、その前後をオンラインに切り替えることが決まったということだ。

デンマークではこのような規制が導入されるのは大きく分けてこれが3度目。そして書き入れ時である12月の大きな規制ということもあり、政府による規制が導入された翌日には、飲食店や業者への補償が確定した。非常に素早い対応だ。最低でも30%以上の売り上げ減が確認できる場合に適応され、購入されていた飲食料品への補填や、営業停止を余儀なくされた飲食店への給与補填なども約束された。


デンマークはそもそもコロナを「これ以上社会に重大な脅威はない」として9月10日にあらゆる規制を撤廃していた。死亡者数や重症患者数が欧州の他国に比べると比較的少なく、また国民の75%以上がワクチン接種を終えていたため、感染者数が大きく減少した夏にこの決定がくだされた。人々はこの決定により、夏から秋のあいだ、コロナ禍前とほぼ同じような自由な生活を楽しんだ。10月の秋休みにはこの時期、過去最大の海外旅行者数が記録され、スペインやフランスなどの欧州の国々へ旅立った人々も多かったそうだ。自国ではマスク生活から完全に開放され、人々は久しぶりに友人たちとバーやレストラン、コンサートに出かけ、コロナはもう過去のものになりつつあった。政府もデンマークは世界でもコロナウイルスへの対応が非常に上手くいった国だと自信に満ちて語っていたほどだった。それでも、コロナはじわじわとこの国へ舞い戻ってきたのだった。

ミンクの違法殺処分と調査委員会

コロナ感染が比較的落ちついていた時期には、パンデミック以外のさまざまなニュースに人々の関心が集まった。そのひとつが11月半ばの地方選挙。デンマークでは4年に一度、全国の地方選挙が一斉に行われる。今年はパンデミックの影響か前回より少し投票率が低下したのだそうだが、それでも投票率は全国平均で67%。国政選挙に比べると投票率も女性議員や若手議員の数も減るのが地方選だが、今回の選挙では地方議員の36%が女性となり、過去最大数となったのだそうだ(国会議員の女性の割合は39%) 。

そしてもうひとつ人々が注目したのが、ミンク事件とそれに続くSMS削除事件。ミンク事件とは、昨年秋に毛皮生産用に農家で飼育されていたミンクから変異した新型コロナウイルス見つかり、メッテ・フレデリクセン首相(社会民主党党首)が国内の全てのミンク1700万匹を殺処分する命令を下したが、それがのちに違法であったことが発覚し、廃業に追い込まれた多くのミンク農家は激怒したという事件だ。この違法な指示がだれによって、どのように出されたのかを詳しく検証される調査特別委員会が設置され、2か月にわたって現在も調査が行われている。

この調査では、事件の全容を把握するために数多くの文書や電子メールが押収されたが、中でも委員会が求めた首相のSMS、携帯のショートメッセージが収集不可能であることが判明。その理由は、昨年夏から首相のショートメッセージが安全対策のために30日後に自動的に削除される設定になるように官僚が助言していたからだった。

実際には、数多くの具体的なコミュニケーションが首相の携帯のショートメッセージを通じて行われていたことが明らかになり、それが復元できないことが国内では大きく批判された。フレデリクセン首相は証拠隠蔽をしていると批判され、”Slette Mette” (「消去」の意味を表す Sletteと首相の名前Metteを掛け合わせた言葉)と揶揄される事態にも発展。またこの情報が地方選挙の時期に明らかになったこともあり、社会民主党への支持も後退した。首相はこのショートメッセージ削除に関して会見を開き、何も隠蔽する意図はなかった、一刻も早い対応が必要だった、ミンク農家の皆さんには大変申し訳ないことをしたが間違いが起きることは避けられない、受け入れてほしいと渾身の説明をしたが、人々の怒りや批判はおさまらず、現在も連日、この事件はメディアで報道され続けている。

鳴りやまない叫び―MeToo

昨年8月、コメディアンでタレントのソフィ・リンデが、テレビ業界の大物から受けたセクハラ行為についてコメディアワードショーで語ったことがきっかけとなり、デンマークでも本格的なMeTooが始まった。彼女の告白は始めこそ信ぴょう性がない、もう時効ではないか、売名行為だろうと様々な批判があったが、その後、マスコミ業界、国会議員、ミュージシャン、俳優らがソフィ・リンデの勇気ある告白を支持しはじめ、彼女と同じように声をあげ始めた。さまざまな女性たちが自ら体験した性的嫌がらせを言葉にして語るようになったのだ。そして国会議員や党首、市長や有名なアナウンサーなどが相次いで辞職に追い込まれている。

そして昨年秋には、国営放送局の女子合唱団のメンバーが、指導者である男性から性的な言葉がけをされたり、身体的な接触、それを拒否した場合のいじめなどが20~50年間に渡って続いていたことが発覚。今年春には同局が第三者機関に調査を依頼し、指導者を含め6人がこれに関与していたことが明らかになった。

さらに別のテレビ局(TV2)でも、2000年頃から性的な嫌がらせや、身体的な接触、採用のために性的な関係を強要するといったことが日常的に男性社員から女性の実習生や若い女性社員におこなわれていたことも明らかになった。今年11月、このテレビ局の元社員を含む11人の女性アナウンサーが、自らの体験を語ったドキュメンタリー番組が他局で作成され、当時報道局長であった男性の名前が明らかになる。この男性はデンマークのニュースメディア界では影響力が強く、よく知られた存在であった。ドキュメンタリー番組が公開されると、男性は謝罪文を発表し、しかし過去の出来事であることから現在の勤務先である新聞社の編集長を続けると言い張った。それに対して業界内外の多くの人々が批判。さらには同新聞社の元実習生らが昨年同社で経験したセクハラを発表し、この男性の責任能力を問う記事を発表した。世論も強く後押ししたことから、この男性はドキュメンタリー番組が公開されてからわずか2週間ほどで辞任に追い込まれた。

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新型コロナウイルスの状況と、デンマークでここ数か月特に人々の関心が高かったニュースを簡単に紹介した。

今回紹介した2つのニュースと人々の反応から導きだせるのは、デンマークでよくキーワードとしてあげられる「信頼」だ。首相の判断がどのようにして行われたのか、過ちが起きたとしてもその過程を含めて信頼できるのかどうかが問われている。そのためには証拠隠滅は許されない。MeTooの告発についても、マスコミ業界で影響力のある人物が自身の行動や責任を証明できないのであれば、メディア人として、またこの業界全体としても信頼に足りないのではないかという批判にさらされる。「信頼」が維持できない場合、人々は黙っていない。あらゆる方面から大きく批判され、職を追われる場合もあるということだろう。

今回紹介したニュースは、人々が権力に対する批判というかたちで声を上げ、それが大きなうねりとなった例だが、あらゆることがすぐに改善に向かって動くわけではない。デンマークでは看護師たちが古い給与体系の改善を求めて夏に長いストライキを決行したが、そのことを今回は伝えられなかった。この状況は現在も改善されていない。コロナ禍の大変な状況で働きながら、かれらの闘いはまだ続いている。

問題は起こる。そして無関心では何も変わらない。声を上げ、おかしいと言い続けなければいけない。いつもそう言われているような気がして、人々の動きに目が離せないでいる。

写真:folketidende.dkより


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