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街づくりにも表れるデンマークのデモクラチ

DAC・デンマーク建築センターで現在行われている展示、"Kids City" から、街づくりやデザインとデモクラチのつながりを垣間見ることができます。今回はこの展示で見てきたもの、感じたことについて紹介します。

BLOXとDAC
DAC・デンマーク建築センターは、2018年にコペンハーゲン中心部のウォーターフロントと呼ばれる地区に建てられた、BLOXという建物内にある施設です。BLOXはデンマーク建築センター以外にも、コワーキングスペース、フィットネスセンター、カフェ、屋上アパートなど、様々な機能が入り混じった施設。歴史的建造物の多い地区の中に建てられた、モダンな建物のひとつです。

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BLOX

現在DACでは、デンマークの人々が大切にしているものを日常の中から探っていくという展示 "Hello Denmark" と、子どものための建築展、"Kids City" の2つの展示が行われています。

"Kids City" は、素晴らしい建築が、いかに人々の暮らしを健やかで楽しいものにできるか、について知ることができる展示です。また、子どものための街づくりは、あらゆる人々のための街づくりであるという切り口から、コペンハーゲンとその周辺で、子どもの視点を建物や街づくりに生かした具体的な例が紹介されています。

子どもと街づくり

そもそも子どものための街づくりという視点は、昔からあったわけではありません。19世紀後半のデンマークは、産業革命に伴い、街には労働者があふれ、人々は狭いアパートにひしめき合って暮らしていました。子どもたちも10歳になれば、親の仕事を手伝うことが珍しくなかった時代です。そんな中、1876年に初めて、デンマークで児童公園が造られます。街中にあふれていた子どもたちにとっては、初めて大人の邪魔にならず自由に遊べる空間が誕生したのでした。

"Kids City" では、コペンハーゲン市とその周辺の都市で子どもたちの視点を取り入れて建てられた建築を紹介しています。そのひとつが、コペンハーゲンの中にある別の市、フレデリクスベア市に建てられた"Børnehuset Frederiksvej"(日本語訳:フレデリクス通りの子どもの家)です。

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Børnehuset Frederiksvej の模型

子どもが描く典型的な「おうち」の形をイメージし、それをいくつも連ねることで、小さな街のような空間を作り出しています。大小11の「おうち」が連なるこの建物は、フレデリクスベア市の保育園として使用されています。大きな建物は人間的な温かみを感じることが難しく、逆に大きさの異なる様々な建物を組み合わせることで、保育園に通う子どもたちにとって、ちょうど良い居心地の良さを追求した施設なのだそうです。

DACの展示では、この保育園を縮小したものがいくつか展示されています。様々な大きさとその中に置かれた家具を、展示会場では子どもたちが自由に入れ替えながら、物や建物の大きさを実感することができます。身体を通して建物とその居心地良さを体験することも、この展示の目的なのだとか。

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建物や家具の大きさが比較できる


ごみ焼却場、文化施設、自転車橋

このほかにも、ごみ焼却施設の屋上でスキーをしたり、欧州で最も高いボルダリングが体験できるCopenHill、図書館と屋内遊び場や文化施設が合わさったKU.BE、水の上を緩やかに走ることができる自転車専用橋 Cykelslangenなど、様々な建築が紹介されています。


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CopenHillの模型(レゴで作られています!)

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屋内遊び場と図書館のほかに、様々な文化体験や展示、グループ活動や学習ができる施設、KU.BE (kube.frederiksberg.dkより)フレデリクスベア市。

自転車専用橋・Cykelslangen
地上7メートルの高さを13kmに渡って走ることができる自転車専用橋、Cykelslangen (The Bicycle Snake)。コペンハーゲン市は自転車の街世界一を目指し、2025年までに、市内の通勤通学の50%以上を自転車で行うこと、また市民の90%以上が安心して自転車に乗れると感じられること、そして移動時間を15%縮小することを目標にしています。

だれにとってのデザイン・街づくりなのか

展示では、人々にとっての居心地の良さや、遊びの感覚を兼ね備えた建物や施設が、ほかにも多く紹介されていました。

デンマークでは、デザインは権力や潤沢な資金をもつ人々のためのものではなく、全ての人々にとって必要なものだと言われています。そして街づくりでも、社会で一番小さな人々にとっての居心地の良さを考慮することが、結果的にはより多くの人々にとって、健やかで暮らしやすい街づくりを実現することにつながると考えられています。子どもたちも社会の一員として建物や街を創っていく。その視点には、誰もが同じ立場として、対話を通し社会を作っていく、デンマークのデモクラチ(デモクラシー)が表れているように感じます。

Kids City, Dansk Arkitektur Center

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