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【『逃げ上手の若君』全力応援!】(126) ダンディな忠臣・春日顕国が図らずも語った北畠顕家の強さの理由とは?…「技」の背後にある人間力は「策」を凌駕する!

 南北朝時代を楽しむ会の会員の間でも話題騒然の週刊少年ジャンプ新連載『逃げ上手の若君』ーー主人公が北条時行、メインキャラクターに諏訪頼重! 私は松井優征先生の慧眼(けいがん=物事をよく見抜くすぐれた眼力。鋭い洞察力。)に初回から度肝を抜かれました。
 鎌倉時代末期から南北朝時代というのは、これまでの支配体制や価値観が崩壊し、旧時代と新時代のせめぎあいの中で、人々がそれぞれに生き方の模索を生きながらにしていた時代だと思います。死をも恐れぬ潔さをよしとした武士が〝逃げる〟という選択をすることの意義とは……?
〔以下の本文は、2023年9月29日に某小説投稿サイトに投稿した作品です。〕


 『逃げ上手の若君』第126話のタイトルは「絶技ぜつぎ」。ーーこのタイトルに該当する技を披露したのは、秕(シイナ)と北畠顕家はもちろん、正宗もなのだろうなと思いました。
 「泰家を人質は卑怯すぎるぜ ぼん最後の肉親だぞ」と玄蕃が言ったとおりで、家長には「」があるだけで、その策も顕家の「」の一撃で打ち破られてしまったのです。

北畠顕家が自分とは別次元の人間であることをよく理解して
策を献じている春日顕国……顕家とは違う人間力を感じさせますね。

 「顕家卿は私の策で戦を始めて」「最後は軽々と策を超えて行かれるのだよ

 春日卿は、顕家の人並外れた人間力と高い身体能力をともなう「」の威力を前にして、「」の限界をよく理解しているのですね。顕家は、登場以来かっこよさが毎号更新ですが、穏やかな物腰で顕家を支える春日卿にも魅力を感じます!

春日顕国(かすがあきくに)
? - 一三四四

 南北朝時代、東国で南党の糾合に生涯をかけた武将。世系に諸説あるが、村上源氏顕行の子と見るのが有力である。侍従・少将・中将と昇進し、のちに顕時と改名。〔国史大辞典〕

*****

南北朝時代の武将。
南朝につかえ,建武(けんむ)3=延元元年侍従となる。北畠顕家(あきいえ)にしたがい,常陸(ひたち)・下野(しもつけ)で活躍。のち常陸の小田城によった北畠親房(ちかふさ)をたすける。
〔日本人名大辞典〕

 顕家・父の北畠親房はなかなか強烈な人物なのですが、その父も顕家も支えたという春日顕国……保科党の門番である三十郎さんの父・結城宗広と違って、ダンディな「忠臣」感が漂います(笑)。

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 『逃げ上手の若君』で北畠顕家の名前が初めて登場したのは、魅摩が時行たちを連れて三十三間堂を案内した時でした(第52話「婆娑羅1335」)。華麗な伏線回収にも驚きですが、玄蕃と夏の訴えを聞き、瞬時に自分の技を組み込んでの作戦を立て、泰家との再会に涙する時行を見守る顕家の姿に心打たれました。ーー「」の背後には必ず、計算を超える人間性が存在している気がします。
 「戦闘狂」のシイナと「悪ノリ」の正宗は良いコンビで、思わず笑いがこみあげました。そして、正宗の「悪ノリ」があるからこそ、異形で最強の武器は生み出されると言えます。登場時のクールさとは打って変わって「バテるの早っ!」なシイナも同様です。人間的な弱点を持ってこその、「短時間のみどんな怪物とも渡り合える秘密兵器」、それこそがシイナそのものであると私は考えます。

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 さて、個人的には戦闘や武器については詳しくないのですが、ちょうど面白い本を読んでいたところでの、今回の『逃げ上手の若君』でした。ーーその本は、鎌倉北条氏研究の大御所である細川重男先生の『論考 日本中世史 ー武士たちの行動・武士たちの思想ー』です。
 「第十七話 太刀、あれこれ」から引用します。

 古代・中世の武士が戦場に行く場合、ヨロイとカブトを身に着け、馬に乗って、持っていく武器は、基本的に、次の三つです。
 
 [A] 弓矢 (ゆみや 弓と矢)
 [B] 太刀 (たち 長い刃物)
 [C] 刀  (かたな 短い刃物)

 この中で、一番恐ろしいのは、弓矢です。ナニしろ飛び道具ですから。
 だから、古代・中世の武士は、「弓馬きゅうば」と呼ばれたのであり、弓矢と乗馬の技術が、最も重視されたわけです。
 んで、太刀と後の日本刀は、「殺人用の長い刃物」という点で、見た目も用途も似てますが、直結しません。
 日本刀は、刀(短い刃物、つまり、ドス)が超大化した「打刀うちがたな」というモノです。
 で、太刀と刀は、用途が違います。
 一言で言えば、太刀は「打撃具」であり、刀は「刺突具」です。
つまり、簡単に言うと、太刀は「ブン殴る道具」であり、刀は「刺す道具で」です。

 〝そうか、そうなのか、弓矢は「飛び道具」、つまり拳銃なんかと同じジャンルの武器なのか!〟ーーこの分野に疎い私にとっては、まさに目から鱗の用語使いでした(こんな感じで、細川先生の『論考 日本中世史 ー武士たちの行動・武士たちの思想ー』には、鎌倉・南北朝ファン必読の51話が収められていています)。
 加えて思い出したのが、最近「元寇」に興味を持っていくつかYouTubeの動画を見た中で出てきた「重装弓騎兵」という語でした。これは、学術用語ではないのか、そんなあたりもよくわからず、ネット検索をして一番トップに上がってきたミリタリーショップのブログの記事を紹介したいと思います。

重装弓騎兵

〔「ミリタリーショップ レプマート」HPより〕

 顕家が第52話「婆沙羅1335」で、シルエットだけですが初登場した意味がわかりました。奥州武士を引き連れて優雅に爆走する最強の美青年貴族って、『逃げ上手の若君』の中でも、相当にレアで贅沢な属性の詰め込み振り、規格外すぎますね!?

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 「マジか

 先々週、家長の背後で晒される泰家の額に文字が無くて、〝これって生気がないってこと?〟と、私の妹がストレートな発言をしていたのですが、杉本寺の急坂を玄蕃と夏とともに猛スピードで滑り落ちる泰家の額には、文字が復活しました!
 策に対して策を弄することなく、あくまでも自分と部下たちを信じて即決、各自が持てる力を最大限に発揮するというのが、卑怯な手を用いた家長に対する、顕家の〝答え〟でした(家長、普通の男の子の悔しそうな顔でしたね……背伸びしすぎなのでは?なんて思っちゃいました)。
 この戦いの行方を知っている私ですが、それを教えた妹とともに、松井先生がどんな風にこの戦いの顛末を描くのかと、本当に楽しみにしています。

〔細川重男『論考 日本中世史 ー武士たちの行動・武士たちの思想ー』(文学通信)を参照しています。〕


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