『失業中に村上春樹を読むことについて語るときに僕の語ること』①
失業中に村上春樹を読むことは実に理にかなっていると思うのです。
3回に分けてお話したいと思います。
一つ目は
圧倒的に自分にフォーカスするヒントを得られる
ということについて。
☟
失業している以上、何かあって仕事をしていないのだと思います。
起業準備であったり、メンタルを病んだり、いろいろな事情があると思います。
ただ、仕事をしているときに増して自分と対峙するような時間は増えたのではないでしょうか。
僕は増えました。というかそういうことを考えるために仕事を辞めた側面があります。
本質的には意味のない文学ということに対峙して自己を洗い出す作業こそ、仕事をしていない人の特権だと思うんです。
だから、僕は失業中の人にこそ村上春樹は読まれるべきだと思うんです。
彼の小説には失業中という身分の人が結構出てきます。
そしてとても抽象度の高い悩みとぶつかります。
自己とか、社会とか、悪とか正義とか。
大学生のときは、村上作品の主人公たちはよく分からない行動をしているように思いました。
まず、やたらパンを焼いたり、やたらシャツにアイロンをかけたり、意味なく掃除をしたりする(笑)。
そこまで暇ではない大学生活だったので大人になって何やってんだろ、と思ってました。
が!実際仕事を辞めるとかなり暇なんですね(笑)。自分もわけも分からず掃除とかしていることに気付きます。
主人公に対する感情移入の度合いが爆上がりしました。
あのハードボイルドな主人公たちが感じているかわからないけども、焦りとか遣る瀬無さとか、大学生の時にはできなかった感情移入ができるようになりました。
具体例をあげると、仕事をやめて羊探しの旅に出る男が主人公の『羊をめぐる冒険』。
この作品の主人公はまさに今の僕の年齢と重なるため自分にとっては結構パンチーな作品です。仕事を辞めてから一番初めに読んだ本でした。
仕事、友情、妻、若さなど今まであったものから急に切り離されて、世界(歴史)と直接対峙することになってしまった主人公が、全て失った先に何かを獲得して立ち直る「予感」までが描かれます。
僕は読後の余韻の中でどんな「感じ」を得たかというと、自分にとって最も大切なものは「友人とのあったかい交友」だと言うことに気付いたのでした。
今ルームシェアしていることもそのうち書こうと思います。
失業して街に座ってただ道行く人を観察する男が出てくる『ねじまき鳥クロニクル』。
街行く人を見る目が変わりました。みんな何かを求めてそこに存在しているんだと、ただ立っている人はいないんだと。
物語はこの不思議な体験を経て重要な局面へと向かっていきます。
☟
無職、失業、無産者、何もしないこと。
これらは村上さんにとってデタッチメントとかコミットメントとか、社会に対峙する個人の振る舞いを語るのには必要な装置になるのだと思います。
つくづく仕事をやめて実感しますが、生産を伴う経済活動からなるべく遊離しているということは自己にフォーカスする上で必要なのかもしれないと感じるのです。
「自己の存在自体に問いを投げかける」という抽象度の高い問いに対して思考の純度を保つには、僕は正直「仕事はしていられないな」と思ってしまいました。
こうした問いが必要なのか否かに関しては今は置いておくとしても、「そもそも」なことは実社会ではお金にならず不要なので、失業状態とかでないと考える暇も与えられないのです。やれやれ。
自分の記事ですが↓
仕事における「そもそも」的問いはマネタイズできないから不要なのか
僕の場合、本当は大学生位のときに考え抜くべきテーマなんだとは思うけれども、延長戦に突入してしまった感じです。
確かにこうした社会から遊離した存在はアナーキーだし、クレジットカードもつくりにくくなります(笑)。
ただ、自分のためにだけ時間を使えることで、問いの純度は爆上がりしているなぁ、と感じるんです。
これは単に時間が増えたこともあるけど、雑音が極めて少ないと言うこともあると思います。やっぱり仕事をしていると勿論業務やらストレスやらで気が散るというか。
あまり仕事をしないことは自慢できたことではないけれど、僕は少なくとも今内的なものと向き合いたい気分なんだ、と言いたい状態なんでしょう。
もしかしたらこういう問いは気にならないと言う人もいるかもしれませんが、そこは自由です。
まとめ
というわけで、失業中に村上春樹を読むことは、自分自身の存在や振る舞いを考えることに主人公からヒントをもらえます(役立つかは置いておいて)。
恋愛、労働、人生、家族、友情……。
レトリックの森をくぐり抜けながら、木の葉の下や草木の中に巧妙に隠された多様なテーマを拾い集めることで、自分の中に気付きを得られる体験が多分そこにはあります。
読んでみてください。
次回に続きます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?