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野党の政党支持率(2024)

野党の政党支持率
Saven Satow
Feb. 07, 2024

 「民主党政権には政権担当能力がない、公約を守っていない、と徹底的に批判しつつ、一方で地方議員を奮い立たせた。自民には地方組織があることが強みだった。地方の首長選挙や国政補欠選挙など一つひとつ勝つことを考えてきた」。
久米晃

 内閣や政党の支持率を始め政治的なトピックに関するさまざまな世論調査の結果がメディアから頻繁に発表される。時事的に政治について批評する際、こうしたデータは無視できない。複数のデータを照らし合わせて、全体的なトレンドや過去の傾向などを確かめて、そこから何が言えるか分析する必要がある。思いつきや思いこみによってそれを捉え、もっともらしく自説を開陳するのは床屋談義にすぎない。

 一般的に信じられている通説と異なる出来事が起きている。投票率が上がると、野党候補に有利だと言われている。ところが、最近、投票率が下がったのに、野党候補が当選する結果が生じている。2024年2月4日に投開票された前橋市長選挙で、野党系候補が与党系現職を破ったが、投票率は39.39%で、前回と比べて3.77ポイント下がっている。与党系には組織票が多いので、投票率が低下すれば、浮動票が棄権に回ったことを示し、それに頼る野党系が負ける。しかし、この選挙はこういった通説に反している。これを理解するためには、データを読みこみ、原因を分析する必要がある。

 もちろん、すべての世論調査の結果を自身で解析する必要はない。手間暇の理由もあるが、統計を理解するにはそのリテラシーが不可欠で、直観的な認知は誤解や曲解につながりかねない。批評はメタ認知であり、そこにはリテラシーが欠かせない。メディアは調査結果をめぐる担当者の解説や専門家による解釈を伝えている。加えて、そうした定量データを独自に解析したり、シミュレーションしたりしているサイトも開設されている。それらを参考に、データを自分なりに考える方が有意義だろう。

 メディアが公表する世論調査の結果を利活用できなければ、現在の政治的なトピックを批評することなどできない。ところが、残念ながら、それがいまだにまかり通っている。

 東浩紀は、『AERAdot.』2024年01月30日17時00分配信「自民党への怒りと失望が深くても、野党が民意を得られぬ理由」において、野党の政党支持率が伸びない一因について次のように述べている。

 自民党の支持率が急落している。時事通信の1月の世論調査では14.6%。これは野党時代を除き、1960年の調査開始以来最低の数字だ。
 裏金問題が響いている。問題は会計責任者らの起訴で幕引きとなった。国民の怒りと失望は深い。こうなると本来なら政権交代が見えてくる。しかしそうなっていない。野党に支持がないからだ。
 21日投開票の東京都八王子市長選では、自公推薦の候補が接戦を制した。八王子は裏金疑惑の中心である萩生田光一前政調会長の地元だ。結果的に禊となった。開票翌日、同氏は記者会見を行った。3千万円近い裏金が事務所の引き出しにしまってあったが、深く考えていなかったという。信じがたい言い訳だが、これが通用するのが今の日本の政治だ。
 野党が支持されない理由は明らかだ。維新は万博のゴリ押しで民意が離れている。能登半島地震後の幹部の発言でさらに信用を失った。しかしより深刻なのは左派だ。
 共産党は18日の党大会で田村智子新委員長を選出した。23年ぶりの党首交代でイメージ刷新を図ったが、同氏は同じ大会で、党見解と意見を異にする出席者の発言を厳しく糾弾し、早速物議を醸している。動画を見たが、時代がかった言い回しに首を傾げた。
 他方でれいわは17日に能登半島地震復興に関する「れいわビジョン」をまとめたが、全国のフェリーやキャンピングカーを借り上げ避難所にするという非現実的な提案に非難が集まっている。これでは党首の被災地入りも逆効果だ。
 今の野党第1党は立民で、次回総選挙でも左派連合に期待する声がある。しかし左派に勢いがあるのはSNSの一部においてだけだ。左派支持者の声は大きい。それは政権批判の局面では有効かもしれない。けれども政権を獲得するためには、穏当で常識的な生活者の支持を集める必要がある。立民はその現実を冷静に見つめるべきだ。
 政治は腐敗しきっている。打破するには政権交代の緊張感しかない。SNSの支持を背景に威勢のいい極論ばかり言う野党を集めても、緊張感は戻ってこない。

 この主張は床屋談義の域を出ない。全体的なトレンドや過去の傾向を参照せず、ほぼ直近の世論調査や選挙の結果から自説を述べている。東はそれを根拠に野党の課題と対策を語る。その際、ネット上の野党系支持者の行動を問題視している。もっとも、世論調査の結果にネットからの影響があるかどうか以前に、そのデータだけでも、もう少し掘り下げられる。

 まず、八王子市長選挙についてだ。この結果は野党が与党の批判票の受け皿になりきれなかったからではない。基礎票10万と言われているのに、与党系候補は63838票しか獲得できしていない。なお、2020年選挙の当選者の得票数は78372票である。しかも、次点の候補は57193票、3位が44913票で、合算すると当選者を上回る。投票率は38.66%で、前回よりも7.20ポイント上昇している。詳しく調べればさまざまな要因があるだろうが、票数を見る限り、与党への批判票が分散したことが理由と考えられる。

 東は、自民党の政党支持率が急落しているのに、野党のそれが上がっていないと指摘している。しかし、与野党を各々一まとまり考えれば、拮抗している。野党は多党化している。それは有権者の支持が分散することをもたらす。野党の支持を個別の政党から判断するのはこうした状況を無視している。与野党の支持率を合算して比較すると、両者の差はさほどない。

 また、ある政党に失望したからと言って、すぐに別の党へ乗り換えるとは限らない。政党の支持をやめることは既存政党への不信感がしばしば伴う。新党が登場して、そうした不満を吸収することはあるが、それがなければ、無党派になって様子見をするだろう。恋人に幻滅して別れた時を思い起こせばよい。自民党にがっかりして支持を取りやめても、野党にすぐさま向かうとは限らない。自民党の支持が急落した反面、野党の上昇は緩やかで、無党派層が増えることは不思議ではない。

 しかも、支持率はメディア露出をしばしば反映するため、与党に比べて野党は上がりにくい傾向がある。首相が外遊に出ると、テレビはその晴れ姿を繰り返し映し出す。その直後の内閣支持率は往々にして上昇する。政権を担っている与党と違って、野党はメディアの注目がさほど大きくなく、こうした効果を得られにくい。ただ、野党も国会会期中や選挙が近づいた時にはメディアの取り上げが増えるので、支持率が上がる。

 自民党の支持が急落したものの、各野党のそれは微増にとどまり、無党派層が多くなった理由は、直近のデータだけでも、このように説明できる。ただし、これだけだと、先に挙げた前橋市長選挙の結果の原因を明らかにすることはできない。

 そのヒントを示唆するのが善教《ぜんきょう》将大関西学院大学教授の研究である。彼は政治行動に関する計量分析が専門で、政治への不信をデータに基づき分析している。

 教授は、『朝日新聞DIGITAL』2024年1月25日13時00分配信「『またか』積み重なる政治不信 選挙の『自民大敗』にはつながらず?」において、自民党支持層に他党を投票先と考えない特徴があると次のように述べている。

 今回も政治不信が高まる可能性は高い、と善教さんはみる。ただし、それが09年のように国政選挙での自民党大敗につながるかどうかは、現時点では分からないという。
 自民支持層は、野党を投票の際の選択肢に含めない傾向がある――。自民党が大勝した22年7月の参院選後に、善教さんがインターネット上で実施した調査(回答数3万1千人)で、そんな実態が浮かんだからだ。
 調査では、10の国政政党について「次の選挙でどのくらい投票できる政党か」を、0~100(10ごと)で選んでもらった。支持政党別に「投票可能な政党数」を分析すると、平均値が最も低いのは、無党派層を除けば自民支持層(1・8)だった。自民支持層が他の選択肢として選んだ党の割合は、維新(33・1%)▽国民民主(15・3%)▽公明(15・2%)▽立憲民主(9・7%)――の順だった。
 善教さんは「いまの自民支持層は、野党第1党の立憲もそれに続く維新も、自民に比肩する政党とはみていない可能性が極めて高い」と指摘する。「今後の政治とカネをめぐる議論で、野党が自民に代わるオルタナティブ(選択肢)になれるかが問われている」

 自民支持層にとって野党は投票先として眼中にない。そういう有権者は自民党に失望したら、野党に投票するよりも棄権することを選ぶ可能性がある。それにより、投票率が低下して、与党ではなく、野党候補が勝つ結果が生じる。前橋市長選挙もおそらくそういう状況だったと推察できる。国政選挙と地方選挙で有権者が必ずしも同じ投票行動をとるとは限らないが、失望が棄権を誘引することは十分にあり得る。

 この研究は、自民党に失望しても、自民支持者が野党を投票先に変えることは難しいことを語っている。それを踏まえれば、野党、特に立憲は自民支持層を取り込もうと、保守的な政策を打ち出すことは無駄である。右傾化しても、彼らはなびかないし、自身の支持者が離れる危険性さえある。そのような路線は政党支持率を上げるどころか、下げるる可能性がある。

 善教教授は「今後の政治とカネをめぐる議論で、野党が自民に代わるオルタナティブになれるかが問われている」と言い、投票行動の分析にとどめ、野党への提言はしない。教授と違い、東浩紀は「野党が支持されない理由は明らかだ」と断言する。その上で、維新や共産、れいわなどの問題点に言及している。しかし、そう言いながらも、野党第一党の政党支持率の上がらない原因について触れていない。「左派に勢いがあるのはSNSの一部においてだけだ。左派支持者の声は大きい。それは政権批判の局面では有効かもしれない。けれども政権を獲得するためには、穏当で常識的な生活者の支持を集める必要がある」。こう語りながらも、東は、れいわと違い、具体例を挙げていない。立憲が左派系のSNS世論に振り回された行動をとっている実例を示さず、すべきではないと主張する。彼がそうした声に否定的なことはわかるが、実際に立憲がそのように振舞っていることを提示しなければ、それが支持率の上がらない理由にならない。

 維新に関しては万博をめぐる世論調査でも同党に厳しい結果なので、政党支持率下落の一ンであることは確かだろう。ただ、共産党やれいわについては自身の印象やネット上の反応が根拠に東は伸び悩みを説明する。両党の支持率はもともと5%以下で、加減ではなく、比率で見た方がよい。支持率1%が2%になったら、ポイントは倍増で、大躍進だ。

 「SNSの支持を背景に威勢のいい極論ばかり言う野党」は東がSNSを見て抱く妄想と思わざるを得ない。こういった床屋談義を歓迎するのは、SNS上の左派系の極論を嫌う人たちだろう。振り回された実例を示さないこういった意見は政党支持率上昇に何のアドバイスにもならない。

 政党支持率が注目されるのは、それが有権者の投票先を推測させるからだ。ただし、比例代表では、野党は政党支持率以上に得票することが少なくない。無党派層の一部が与党への批判票を野党に投じるからである。

 国政選挙後にしばしば指摘されることだが、与野党の議席数の差ほど総得票数に開きはない。場合によっては、小選挙区や比例代表などで総得票数が与野党で逆転している。与党が野党に比べて制度の特徴を利用して選挙戦を戦っているからである。自民党が今よりも高い政党支持率の時でも、得票数では野党は必ずしも与党に見劣りしない。それは選挙になると、無党派層が与党より野党に投票するからだ。

 野党の政党支持率が伸びていないという意見は、与党の下げ幅に比べて上昇が緩やかだということだ。確かに、自民党から離れた有権者は野党に行かず無党派層に流れている。だが、その無党派層は、選挙実施の現実味が増した時、態度を明らかにする。失望していたけれども、憤怒や希望に変わることもある。あるいは、政党に距離を取っているものの、シンパシーを抱いていることもある。世論調査で支持政党なしと答えるとしても、潜在的な野党支持者は少なくない。

 こうしたデータを見てくると、普段の政治活動は言うまでもないが、地方選挙を含めて、目前の選挙を一つ一つ勝つことが野党にとって支持拡大には重要だとわかる。選挙に勝てないと、東のような揶揄が野党に対してなされることは確かだ。しかし、政党支持率が低くても、投票率が低くても、野党系候補が与党系に勝てる。選挙の勝利は報道量を増やし、有権者に改めて政治について考えることを促す。どのようにすれば選挙に勝てるか検討することが政党支持率向上につながる。「アマは和して勝つ、プロは勝って和す」と三原侑は語ったが、政治も同じである。
〈了〉
参照文献
二階堂友紀、「『またか』積み重なる政治不信 選挙の『自民大敗』にはつながらず?」、『朝日新聞DIGITAL』、2024年1月25日 13時00分配信
https://digital.asahi.com/articles/ASS1S77CMS1QUTIL021.html
東浩紀、「自民党への怒りと失望が深くても、野党が民意を得られぬ理由」、『AERAdot.』、2024年01月30日17時00分配信
https://dot.asahi.com/articles/-/212645?page=1

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