見出し画像

嘘とBBC(2016)

嘘とBBC
Saven Satow
Jun. 28, 2016

「嘘は嘘を呼ぶ」。

 2016年6月23日に実施された英国の国民投票はEUからの離脱の支持が多数を占める結果に終わる。けれども、離脱派がキャンペーンの際に虚偽な石根拠の乏しい情報を宣伝していたことが明らかになっている。

 一例を挙げると、離脱派は、EUを離脱した場合、英国が拠出している負担金が浮くため、財政難にある国営の国民保健サービスに週当たり3億5000万ポンド(約530億円)を出資できると説いている。この主張は離脱運動の公式団体の宣伝バスに大きくプリントされたスローガンである。ところが、英国独立党のないジェル・ファラージ党首は嘘を認め、保守党のイアン・ダンカンスミス元党首は言い逃れをしている。

 もっとも、安倍晋三政権発足以来、日本の政府・与党はこの手の詐称を繰り返している。『松の木小唄』の4番の歌詞さながらである。そもそも、今行われている参議院選挙にしても、メディアは与党が公約以外のことをもくろんでいると平然と報道している。事実、安倍政権がこれまで固執した政策は、事前の選挙の争点になっていない。英国民はこの実態を知ったならば、冷ややかに、こう言うだろう。”LDP means ‘Lair Demagogue Party’, just right?”

 何しろ、2013年に現役閣僚の麻生太郎財務相が改憲を進めるためにナチスの手口を参考にすることを解いた政権である。ナチスと言えば、プロパガンダを思い起こす。彼らは虚偽や歪曲、誇張などの情報を大々的に宣伝し、世論を誘導している。

 その宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスは、「小さな嘘より大きな嘘に大衆は騙される」や「嘘も100回言えば本当になる」、「嘘も毎日つけば真実になる」と言っている。彼は確信犯である。ナチスの宣伝が嘘だと承知しながら、それを国民に信じさせようとしている。

 このナチスに学ぶことを推奨しているのだから、麻生大臣は改憲派が嘘つきだと世論に教えたようなものだ。改憲をもくろむ安倍政権も、当然、嘘つきである。

 プロパガンダを駆使したナチスは、結局、連合国との戦争に敗れている。負けた勢力の手口を参考にして、麻生大臣はどのように将来的展望を開く気なのか不思議だ。嘘を他者に信じこませたいという願望は支配欲である。麻生大臣だけでなく、官民問わずナチスの宣伝戦略に惹かれる人がいる。電通を始め広告会社にも少なからずいる。しかし、それは支配欲を満足させ、自らの優越感を味わっているにすぎない。

 ナチスのプロパガンダに対して、イギリスは「マスコミュニケーション」を主張する。それを体現するのがBBCである。BBCの方針は明快だ。本当のことを伝える。ただ、これは嘘を言わないとは違うことに注意が要る。

 一例を挙げよう。イギリス軍が苦戦していたとする。それを優勢と伝えたら、嘘を言ったことになる。苦戦とも優勢とも触れなかったら、確かに、嘘をついていない。けれども、本当のことも言っていない。イギリス軍が苦戦と伝えれば、本当のことを明らかにしている。

 BBCは、戦時下、この姿勢を貫く。その堅持によりナチスのプロパガンダの得られなかった評判が国内外問わず広く浸透する。それは信頼である。

 BBCは、メディア・リテラシーが必須の現在の世界において、最も信頼される報道機関である。アフガン戦争の際、英国は多国籍軍に参加したが、現地の人々はBBCを聞いて情報を得ている。嘘をつかないと信頼しているからだ。

 情報伝達に際して学ぶべきはナチスではなく、BBCだろう。今、あらゆる方面で重要視され始めている概念に社会関係資本がある。これは、言わば、信頼鵜とお互い様の協力関係だ。社会がよりよくあるためには相互信頼が欠かせない。信頼がないから、人は嘘をつく。嘘がまかり通っている政治には信相互に頼がない。信頼を構築することが政治だと確認し、実践していかなければならない。

 もっとも、BBCも嘘をつくことがある。今から30年以上前、BBCはビッグ・ベンが売却されることになったと報道している。それを聞いた日本のジョン・レノン似の中学生がさっそく英語教師に伝える。教師は、マーガレット・サッチャー首相がさまざまな民営化を進めているから、その流れだろうと解説し、少年もすっかり納得してしまう。

 しばらくして、少年がBBCを聞いていると、ジョン・ニューマン日本語部長がビッグ・ベン売却のニュースに触れ、「みなさん、あの日の日付はいつでしたか?」とつぶやく。それを耳にするなり、少年は顔が赤くなるのを感じる。「4月1日だ!やられた!」と叫んだ後、ラジオが何を伝えたのかまったく記憶にない。

Like the FBI and the CIA
And the BBC, BB King
And Doris Day, Matt Busby

Dig it, dig it, dig it
Dig it, dig it, dig it
        (The Beatles “Dig It”)
〈了〉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?