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12分トランス 〜 考える日編 〜

 まずは1分

ー 体温が少しずつ上がっていくのが分かる。

最近は何か釈然としない。
なぜかは分からないが胸に つかえ がある。
この つかえ が何者なのかは分からない。
胸の つかえ を取りたいが、漠然とした感情が気を塞がせる。
塞ぎ込んだ気持ちをどうにかうやむやにしようと今日も蒸気に身をつつむ。

ところで今日は空が曇って星が見えなかったな。

 2分が経つ

ー 嫌な汗で塞がった身体中の毛穴からポツポツと汗が滲み出す。

見えなくなっていた小さな悩みごとや考えごとも共に顔を出す。

他人に頼ることが苦手な性格が、また僕に瞑想の一時を与える。

今日も考えることが沢山あるな。


 秒針は5周ほどしただろうか

ー 肌の表面に浮かび上がった水の粒が一つまた一つと合流し流れ出す。
  暑い。気分がいい。

今ある考えごとに手当たり次第 向き合う。
怒り、喜び、哀しみ、幸せ。反省、後悔、同情、恐怖。
いろいろな感情が吹き出す。寄り道、休憩しながらも頭の中を軽くする。

頭の掃除は順調に進みうやむやにするはずだった塞ぎ込んだ気持ちも
いつの間にか開放的になってきた。

しかしいくら考えても解決しようのないことだけが胸に つかえ として残る。
また気が塞いでいく。

その状況をどうにかしようと八つ当たりのようにサウナストーンにアロマ水をかける。

乾き切ったサウナストーブがそれを勢いよく蒸気へと変えていき、テント内の温度をぐっと上げていく。
後に続けと言わんばかりに身体中の毛穴から汗が噴き出す。

 ー「熱い。」

肌を流れるものが汗なのか蒸気の集合体なのかももう分からない。

頭がぼんやりとする。熱い。全身がゾクゾクする。気持ちいい。

10分経っただろうか。いや何分経ったかなんてもうどうでもいい。

ー とにかくアツい。


さっきまで考えごとでいっぱいだった頭の中も「生存」という一つのテーマで
持ちきりになる。

生存本能を無理やり押さえ込み限界寸前まで我慢する。

「あと2分、あと2分。」

永遠にも刹那にも感じられる2分間。

自分を鼓舞することも忘れ、何も考えない時間。

目を閉じてただそこに存在するだけ。


「さあ、出よう。」


勢いよくテントを開け、熱をまとい真っ赤になった身体と冷んやりと澄んだ外気が再会する。

長いダイエットが終わりを迎えたような強い開放感。

一目散に水風呂へ飛び込む。

開ききった毛穴がキュッと閉まる。心臓が強く脈打つ。

鼓動が落ち着くにつれ生暖かい羽衣が身を包むみ、水風呂の中でも不思議と寒くない。

水風呂の淵に頭を預け空を見上げると、曇っていた夜空は無数の輝きを放ち頭上を何度も廻り続ける。

言葉で形容しがたい美しさがそこには広がっていた。


ずっと水風呂に入っていたい気持ちを押し込み千鳥足になりながらも外気浴用のイスになんとか辿り着き横になる。

体からは絶え間なく蒸気が立ち込める。蒸気は親元を離れ徐々に薄く透明に近づき夜空に消えていく。その先には星々が今も回り続けている。


ーそういえば悩み事がどこかに消えている。

さっきまでの悩みや考えごとがまるで蒸気となって消えっていったかのようだ。


「ととのった。

きっと悩みごとは何も解決していない。
ただ悩むほどのことではないと思えただけかもしれない。


 それでいい。


「今日もよくととのった。」


星空は廻ることをやめ今日も優しく瞬く。


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