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酔いどれ雑記 101 渡り鳥


101と言えば『101匹わんちゃん』ですかね?どんな話かは知りません。けどあのダルメシアンはクロアチア原産の犬だということは知っています。なのでクロアチアの話でもしようと思って地図を見つめていたら、全然関係のないことを思い出したのでその話をしようと思います。

高校生の頃、歴史の授業は世界史か日本史を選ぶことになっていました。当然わたくしは世界史。けれどうちのクラスで世界史を選択したのはたったの3人。いつぞやに書いた、花札を教室でやって怒られた話に出てくるKちゃんもいました。他のクラスでは世界史を選択する子は割といて、3クラス合同での授業でした。

その世界史担当の先生が一癖二癖あって、すごく面白い人でした。尤も、うちの高校は変な先生ばかりいたのですが。

世界史の先生は定年近くの男性で、高校の歴史の授業といえば暗記中心が多い中、そんなことは一切させませんでした。テレビのドキュメンタリー映像や芸術作品のスライドを用いたり、また今は一般的なのかは知りませんが当時は革新的?だった、テストには自筆ノート持ち込み可!高校の授業でですよ(しかも偏差値38とか39とかの......)。一番初めの授業で出された宿題はなんと「弓矢を作ってくること」。それも強制ではなくやりたい人はやって来いといった感じでした。みんなで放課後に学校の敷地内の草木が生い茂っている空き地で具合のよさそうな木の枝を拾ったり。楽しかったですよ。当時ネットなどなかったですから、作り方なんて分かりません。図書室に行って狩猟採集の本を読んで参考にしてみたり、みんなでああでもないこうでもないとやって。かなりの数の人が自作弓矢を作って来て、教卓にうず高く弓矢の山が積まれていて笑いました。先生はまさかこんなに多く集まると思ってなかったみたいで。そして先生はその日の放課後、グラウンドの隅で1つ1つ弓矢の飛距離や使い心地をチェックしていました。お茶目すぎませんか?

わたくしは「優等生」でしたがいい子ちゃんではありませんでしたので、授業中、隣に座っているKちゃんと私語をすることもありました。小声ですけど。時にはノートに先生の似顔絵描いて見せ合ったりもして。先生は授業中、私語などをしている子を見つけると「顔洗って来い」というのが口ぐせでした。私は常習犯でしたね。本当に洗いに行くんですよ、トイレ行って。そして戻ってくるともうお咎めなし。ネチネチ説教などしてきません。

ある日、いつものようにKちゃんと私語をしてたわたくし、また先生に見つかりました。先生に「おい!そこ何してる!」と言われた子たちはもうみんな分かってるので先生に「顔洗って来い」と言われる前に自分から「顔洗って来ま~す」と席を立つようになってましたが、Kちゃんは天然すぎる子なのです。そのときKちゃんは「はい!南さん(私)と地図帳見ながら、コルシカマフィアとシチリアマフィア、どっちが強いかなって話してました!」と無邪気に答えたのです。さすがの先生も笑いをこらえきれなかったようで、吹き出しながら「顔洗って来い 笑」と言っていました。

卒業アルバムに「いつまでも心若く美しく」と書いてくれた先生。卒業後は駅のそばでバスを待っている先生によく会いました。ああ、私もこのバスに乗ってまた授業受けたいなぁ、もっとよく飛ぶ弓矢を作って先生をあっと言わせたいな、「顔洗って来い」ってもう一度言われたいなって思いながら大学へ行く電車に乗りました。

しばらくして、某SNSの学校コミュの書き込みで先生が亡くなったことを知りました。退職後もアクティブにあちこち出掛け、趣味のスキー三昧だという話を他の先生に会ったときに聞いたばかりだったのに......。

先生、全然立派になれなかったよ、わたし。顔でも洗って、先生が楽しそうに話してた大航海時代の話を思い出しながら寝た方がいいかな。今のわたしは方位磁石を無くした渡り鳥。いや、最初から持っていなかったんだ、そんなものは......。

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