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気後れ【掌編小説】

母のタンスに、ウールのロングコートがある。真っ白で、ギャザーとリボンがついてる可愛いものだ。
でも着たのを見たことがない。着ればいいのにとうながすと、綺麗すぎてもったいないと逃げる。
それが数年続いた。

今年、季節の衣替えでタンスの中身の入れ替えをする時、あのコートがないなと思ってたずねると、母は「処分した」と答えた。
「どうして? 気に入ってたんでしょう」
「……」

実は一度着たという。それで街を歩いたら、女子高生が振り返ってクスクス笑ったと。
「イタいよね」
「若いつもり」
母は50台。まあフリルやリボンはあまり着ない年代にはなっているが、15歳はサバを読んでもイケる母のこと、きっと着こなせたはずだ。
「きっと似合ってたと思うよ」
なぐさめたが、母はしょんぼりしたままだった。

「よし」私は自分のコートと、車のキーを出した。「デパートに行こうよ」
「これから?」
おどろいてる彼女に、ピンクのマフラーを渡す。
「そう、今から」
時計は2時をまわったところ。まだ午後はたっぷりある。
「これから素敵なコートを見つけに出かけよう」



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こちらはTwitterの 140字小説( https://twitter.com/asakawario/status/1346800286896062464?s=19 ) を、追加修正して再掲したものです。

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