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全国自然博物館の旅【52】石川県ふれあい昆虫館

冬になって虫たちとの出会いが少ないなぁ……と昆虫マニアの皆様はお悩みではないでしょうか。もちろん冬期に活動する昆虫もいますが、総合的に見ると確かに陸上昆虫との遭遇率は低下します。
それならば、ぜひ昆虫館へ行きましょう。美しくパワフルな生体と至近距離で対面できますし、世界中の昆虫たちの膨大な標本を拝めます。今回は、北陸の大地に立つ大型昆虫館を全昆虫マニアへ推させていただきます。


日本海側地方における最大の昆虫館

石川県ふれあい昆虫館は日本海側の地域において最大級の昆虫博物館であり、マニアならば誰もが憧れる魅惑の学術施設です。所在地は白山市ですので、旅行者の方は金沢市内からお好みの手段でアクセスしてください。
基本的に車派の筆者ですが、今回は公共交通機関を選択。北陸鉄道石川線の新西金沢駅から電車に乗って、最寄りの鶴来駅へ向かいました。

北陸鉄道石川線。本線でアクセスする場合、新西金沢駅から乗車しましょう。
鶴来駅に到着。昆虫館までは徒歩移動だと少し遠いので、駅前からレンタサイクルに乗ることをオススメします。
スーツケースなどの大きな荷物は、レンタサイクルの事務所で預かってもらえます。身軽になって、ルンルン気分で昆虫館へGOです!

昆虫館への道のりはそこそこありますので、駅前のレンタサイクルを活用するのが吉。白山市の街並みへ山々の景観を眺めながら走ると、とっても気持ちいいです。ゆっくり走っても、10分程度で目的地に到着できると思います。

最後の方を除き、昆虫館への道は、ほとんど平坦なコースです。自転車で走ると気持ちいい!
スムーズに目的地に到着。大きな駐車場があるので、車での来館もオススメです。

やはり昆虫館を目の前にすると、マニアの血が滾ります。標本や生体展示の観覧はもちろん、新しい知識を学ぶことに高揚します。石川県と全世界の昆虫たちとの出会いが待ちきれません。

待望の昆虫館。どんな昆虫たちと出会えるのか、ワクワクが止まりません。
入口の広場では、昆虫モデルの立体造形やレリーフを見ることができます。入館前から来館者のハートは熱く燃えています。

北陸の園に、昆虫たちが舞い踊る!

超膨大な標本展示と美麗なる生体展示

入館・チケット購入を済ませて観覧順路に入ると、「自然の森」ゾーンの展示が始まります。精巧な昆虫の拡大模型とジオラマが織り成す空間によって、来館者は雑木林やサバンナの昆虫相を強くイメージできます。昆虫たちの世界への導入、たっぷり楽しみましょう。

里山の雑木林のジオラマ展示。オオムラサキやオオスズメバチが樹液を目当てにやって来ています。
サバンナをイメージしたジオラマ。野生動物のフンは、タマオシコガネ類(スカラベ)にとって重要な食糧となります。
アマゾンに生息するメネラウスモルフォの模型。アマゾン川流域のジャングルに棲むチョウの種類数は、世界のチョウの約半分に及ぶと言われています。

そして昆虫館の醍醐味と言えば、やはり膨大な標本展示。本館においても、国内・世界中のあらゆる分類群の昆虫たちにお目にかかれます。マニアにとって至福の空間の中で、幸せなひとときを過ごしていただきたいと思います。

ずっと奥の方へ続く昆虫標本の展示。とてつもない数ですので、全てご覧になりたい方は、ぜひ昆虫館を訪れてみてください。
リノケロスフタマタクワガタ。海外産のクワガタのパワフルさには惚れ惚れします。
アフリカサイカブト。一口にカブトムシと言っても、角の大きさは種類によって様々です。
大型のチョウ類トリバネアゲハの仲間たち。ちいきによって、翅の模様に差違が見られます。
ムクゲコノハ。もふもふで可愛らしいガの愛好家は、全国・全世界にたくさんいます。

まだまだ昆虫標本展示には底が見えません。当然ながら、本記事で全てご紹介するのは不可能なので、ぜひとも現地にて展示をご覧になっていただきたいと思います。きっと、自分だけの推しの昆虫が見つかると思います。

インドネシア産のオオツチバチの一種。いかにも強そうで超かっこいい!
トビクビナガカマキリ。筆者はカマキリが大好きなので、海外種には大興奮します。
オーストラリアに生息するハラブトゼミ。ぜひ野生の姿を見てみたい!

昆虫館には、専門的な学術解説資料もいっぱい。新しい知識を得たい人には、本当にたまらない展示だと思います。
標本や写真資料と組み合わせによって、複雑な現象や生態を視覚的に理解することができ、わかりやすく濃密な内容となっています。余すところなく学び通し、昆虫学への理解をどんどん深めていきましょう。

寒冷地に生きるチョウたちの展示。なんと、北極圏にも昆虫が生息しているのです!
昆虫たちの異常型について写真資料で解説。体の左右でオス・メス両方の特徴が現れている個体は、専門的に「ギナンドロモルフ」といいます。
希少昆虫についての解説資料。私たちに環境に関わる問題なので、仔細に学んでおきたいと思います。

お次は魅惑の生体展示「昆虫ウォッチング」のコーナーです。珍しい子、かっこいい子、可愛い子ーー本当にたくさんの魅力的な昆虫たちが目白押し! 改めて、本館に来てよかったと心の底から思いました。

ニジイロクワガタ。あまりにも美しくて、驚嘆の声を上げてしまいました。
イリオモテモリバッタ。西表島の固有種であり、森林や林縁に生息しています。
とてもファンの多いハンミョウ。かっこよくて美しい捕食者なので、昆虫マニアから大人気です。
アフリカに棲むタガメモドキ。生態や形態はタガメのりもコオイムシに似ています。
希少な水生昆虫シャープゲンゴロウモドキ。法律により、野外個体の採集は禁止されています

どの子も生体展示は最高に素敵ですが、本館において昆虫マニアの関心を強く引きつけるのは、ヨーロッパからやってきたオウサマゲンゴロウモドキだと思います。ラトビア共和国と日本の研究者の方々は協力して本種の保全活動に取り組まれていて、本館では域外保全されているオウサマゲンゴロウモドキの生体を拝むことができます
2つの国の昆虫学者たちが守り続ける世界最大のゲンゴロウ。その気高く力強い姿を、ぜひ現地でごらんください。

本館で域外保全されているオウサマゲンゴロウモドキ。大きくて強そうで、めちゃくちゃかっこいい!
オウサマゲンゴロウモドキの繁殖保全の経緯。2つの国の研究者が助け合い、希少昆虫の保全計画が実施されているのです!
オウサマゲンゴロウモドキの成虫と幼虫の標本展示。数多いゲンゴロウ類の中でも、本種は世界最大のサイズを誇ります。
飼育展示の年表。石川県ふれあい昆虫館は、オウサマゲンゴロウモドキの飼育繁殖に日本で初めて成功した施設なのです

昆虫たちを守るための濃密環境学習

多くの昆虫館で人気の展示エリアと言えば、たくさんのチョウが放し飼いにされている温室です。1年を通してチョウたちと出会える空間「チョウの園」は、昆虫マニアにも家族連れにも大好評です。
本館では、羽化したチョウを毎日「チョウの園」へ放されています。常時約10種1000個体ものチョウが飛び交っており、妖精のごとく可憐な彼らの魅力を至近距離で味わえます。美しくたくましいチョウの姿を間近で観察すれば、生命の尊さが強く感じられますね。

広大な「チョウの園」。ここでは、華麗なるチョウたちが1年中飛び交っています。
頭上にも、枝葉の上にもチョウたちがいっぱい。至近距離での対面に、マニアも子供も大興奮です!
チョウたちのレストラン。中央部のスポンジには、水で薄めたスポーツドリンクが染み込んでいます。
拡大写真と解説情報を組み合わせたチョウの紹介。わかりやすくて楽しい工夫ですね。

「チョウの園」を抜けた直後にも、楽しく学べる展示コーナーが舞っています。視覚や聴覚を刺激する体験展示や、昆虫の生育に関する資料・生体展示など、実に様々な発見と喜びに満ちあふれています。本館で得られる知識は全身で余すところなく吸収し、昆虫博士を目指しましょう!

スピーカーを活用した体験展示。それぞれの昆虫の鳴き声を聴き比べてみましょう。
様々な種類のチョウの翅を見比べる体験展示。レンズを使って拡大したチョウの翅は、いったいどのように見えるのでしょうか。
オオゴマダラの幼虫の生育についての解説。幼虫の時期から、可愛さとかっこよさを併せ持っていますね。
オオゴマダラの幼虫の生体展示。毒草ホウライカガミを食べることによって、彼らは体内に毒を蓄えるのです。

次は昆虫たちの生息環境を詳しく見てみましょう。地球上で最も繁栄している生物ゆえに、昆虫たちの分布範囲は非常に広いのです。どのような場所で、どのような昆虫たちが営々と栄えているのか、本展示によって体系的に理解できます。

白山に棲む昆虫たちを各高度にて紹介。当地の石川県ならではの展示と言えます。
標本と写真で白山の昆虫を解説。標高2700 mクラスの高山域にも、昆虫たちはたくましく生きているのです。
大陸から日本にやってきたチョウ類を標本展示で紹介。飛翔性の昆虫が風に乗り、海を越えて拡散する例は数多くあります。
ヒマラヤ型のチョウ類。ミヤマカラスアゲハ、かっこよくて大好きです。
様々な環境で生きる昆虫たちについて説く大型パネル資料。昆虫の生態だけでなく、それぞれの環境の特性も詳しく学べます。

地球の生物で、最も大きな勢力を誇る昆虫。しかし、彼らの生息状況は、我々人類の影響を受けて大きく変化しています。自然破壊や乱獲により、多くの昆虫たちが今なお苦しんでいます。
昆虫と人類の共存を考えるうえで、博物館での環境学習はとても重要です。昆虫たちが置かれている状況を理解し、彼らの共に暮らす地球を守るたまに何が必要なのか、来館者自身が考えなくてはならないと思います。

昆虫たちの現状を学べる区画。レッドデータブックの意義や、昆虫が減少している理由について、本展示で細かく理解することができます。
希少ゲンゴロウ類の標本展示。とってもとっても貴重な昆虫なので、野外で発見しても採集せずに自然観察のみに留めましょう。
石川県で発見された外来種の昆虫。何らかの経路で東アジアからやってきて、現在では日本の環境に定着しています。
石川県が発行しているレッドデータブックの選定種数の推移。改訂されるごとに選定生物の数は増加しており、余談を許さぬ状況であると言えます。

楽しくわかりやすく勉強できることが本館の大きな強み。立体造形やデジタル資料の効果によって、子供から大人まで、夢中で昆虫学の世界に没頭できます。昆虫がとっても魅力的な存在であることに改めて気づかされますね。

模型とデジタル資料を用いた展示。昆虫の体の部位をわかりやすく学習できます。
コガタスズメバチの巣。かつて本館では、スズメバチ類の生体展示が実施されていました。
カブトムシの拡大模型。いつの時代も、万人から大人気の昆虫ですね。

何から何まで最高の昆虫館! 年齢性別問わず、誰もが心から楽しく学べる施設です。昆虫たちの魅力、自然と生命の尊さについて、深く広く学習できます。
昆虫を愛する全ての方に、本館を心ゆくまで学んでいただきたいと強く願います。石川県ふれあい昆虫館、最強に素敵です!!

石川県ふれあい昆虫館 総合レビュー

所在地:石川県白山市八幡町戌3

強み:キャプション資料と絶妙に組み合わされた膨大な昆虫標本展示、昆虫の生態や環境保全について深く学べる体験展示及び解説資料、普通種・希少種・海外種問わずバラエティ豊かな生体展示

アクセス面:可能ならば、車での来館を推奨します。石川県や近隣地域の方々は自家用車で来られるでしょうし、旅行者の方は金沢市内でレンタカーを借りて向かっていただきたいと思います。公共交通機関を選択した場合、北陸鉄道石川線の新西金沢駅で乗車し、鶴来駅で下車。その後、駅前からレンタサイクルで昆虫館へと向かいましょう。歩いて行けない距離ではありませんが、夏季や冬季の徒歩移動は大変なので、自転車の利用を推奨します。

昆虫マニアならば絶っっっ対に訪れておきたいスーパー学術展示施設です。世界中の昆虫たちと出会える膨大な標本展示はもちろん、普通種・希少種・海外種を問わず魅力的なスーパースターたちの生体展示ラッシュ、さらには学術的資料も超充実しています。加えて、1年中チョウ類と出会える温室空間を擁しており、昆虫たちを間近に感じながら学習できます。
現地自然に棲む昆虫の資料も豊富で、石川県の生物相の理解したい人にもぜひオススメ。また、生態系や生物種の保全に関する展示が濃密であり、環境問題において非常に大切な学びが得られます。総合的に見て、昆虫たちとの出会いを楽しみたい家族連れから、とことん勉強したいガチな生き物好きの方まで、誰もが大満足できる学術施設だと思います。
これぞ、究極の昆虫博物館。冬は昆虫館で学びまくり、虫たちが飛び交う季節になったら、野外で思いきり自然観察を楽しみましょう!

昆虫館の敷地内には野外生態圏があります。暖かくなったら、また訪れて昆虫たちを探してみたいですね。

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