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全国水族館の旅【41】道の駅紀宝町ウミガメ公園

5月下旬~8月上旬(地域によって差違があります)はウミガメの産卵シーズン。全国各地の海では、きっと研究者の皆様が産卵行動の記録や保護活動を実施されていると思います。
ウミガメの学術的秘密を学ぶなら、研究保護施設を訪れるのが一番。全国屈指の清廉さを誇る真っ青な三重県の海には、魅力的なウミガメたちと出会える学術スポットがあります。


海岸線を走ってウミガメの研究施設へ!

紀宝町ウミガメ公園は道の駅の中にあります。ウミガメをはじめ、多種多様な海洋生物が棲む紀宝町の海。全国屈指の美しさを誇る紀伊半島南部の海域に到達するには、相当な長距離ドライブを覚悟せねばなりません
ウミガメたちに会うためならば望むところ。筆者はレンタカーで和歌山側から熊野街道を走り、三重県との県境を越えました。

美しすぎる海! 紀伊半島南部の海域は、全国でも指折りの清廉な環境なのです。
紀宝町の海岸線に広がるマツ林。林内には下層植生が豊富で、様々な生き物が棲んでいます。

壮麗な海と空のコントラストは、最高の眺め。地球最高、紀宝町の自然は最高!
ここまで来たら、生物観察をしたくなるのが生き物好きの性。ちょっと海岸付近は暑かったので、近くを流れる井田川へ行ってきました。流れの緩やかな場所では、ちょっと石をひっくり返すだけで水棲生物と出会えたりします。

海の近くを流れる井田川。生き物好きなら「ここには絶対いそう!」と思うでしょう。
川石をひっくり返すと、カゲロウ類の幼虫を発見! 水棲昆虫は石の裏側や水草の隙間に隠れていることが多いので、ぜひ探してみてください。
川石の裏にゼリー状の物体? 実はこれ、淡水貝類の卵塊です。元気な赤ちゃんが孵るように、そっと川に戻しました。

井田川での生物観察を終えると、再び海の方へと戻ります。道の駅紀宝町ウミガメ公園は海岸線の熊野街道に面しており、海から心地よい潮風が吹いてきます。
名産品いっぱいのショップや雰囲気の暖かいレストランがあるのは道の駅ならではであり、壮美な海の空気を感じながら、ゆったり休息できます。筆者も幸せなリラックスタイムを過ごし、長距離ドライブの疲れを癒しました(笑)。

ウミガメ公園に到着。長いドライブだったので、ここでたっぷりと停まって学びたいと思います!
飲食店やお土産屋さんを有する「物産館」。水族館の観覧後に軽食を取るのも大いにありです。

それでは、いよいよ愛しのウミガメたちに会いに行きます。ウミガメの研究保護施設は物産館の隣に立っています。
施設は解説資料展示やウミガメグッズショップを有する「ウミガメ資料館」、大小様々な水棲カメ類が生体展示されている「ウミガメ水族館」から成っています。ウミガメの生態を学び、彼らの魅力をたっぷりと知って、これからの人間との関係について考えてみましょう。

飲食店の隣に位置しているのがウミガメたちの展示施設。ここでは野生のウミガメの保護活動も実施されていて、本施設で多くの生命が救われています。
「ウミガメ資料館」にはショップが入っています。可愛いウミガメグッズが目白押しです。

ウミガメの魅力と謎を学べる海辺の秘密基地

学術的にウミガメの実像を理解しよう!

まずはウミガメ資料館にて、標本展示の観覧からスタート。
最初に目を奪われるのは、大きなオサガメの剥製標本です。オサガメは現生種の中で最大級のウミガメであり、本館で展示されている剥製は、紀宝町の海岸に死亡漂着した個体です。大きさだけでなく、甲羅の形態も他のウミガメと異なっているので、剥製同士をじっくりと見比べてみてください。

ウミガメたちの剥製。その中には、一般の方から寄贈された標本もあります。
オサガメの剥製標本。ウミガメ公園に近い井田海岸に死亡漂着した個体です。
ウミガメの基礎知識を標本でわかりやすく解説。生体展示を見る前に、ウミガメについて情報をたくさんインプットしておきましょう。

剥製の他にも、ウミガメに関する様々な標本が展示されています。紀伊半島ではときおりウミガメの死亡個体が漂着し、彼らの遺骸は研究のために役立てられます。自然界では無駄な死がないように、生物学研究においても、生き物の肉体は大いなる恵みを与えてくれるのです。
命が消えても、彼らから得られた研究成果は生き続けます。ウミガメたちに敬意を払いつつ、標本をくまなく観察しました。

死亡漂着したアカウミガメの頭蓋骨。ウミガメの遺骸は、重要な標本として研究や教育に活用されるのです。
アカウミガメの卵の液浸標本。砂中にあるときは地熱で温められ、約60日で孵化します。
ウミガメの種類を解説する図鑑風のパネル。海洋適応したカメたちは、世界の広範囲に分布しています。

資料館で生態的な知識を身につけたら、ウミガメたちの舞う水族展示エリアへ移動しましょう。
爬虫類は変温動物であるため、ウミガメ水族館のプールは飼育個体にとって過ごしやすいように室温が調整されています。夏はちょっと涼しく、冬は暖かく感じられるのではないでしょうか。外からは陽の光が差し込んできて、心身共にリラックスしながらウミガメたちの観察ができる展示空間です。

資料館のすぐ隣は、ウミガメ水族館のプールです。大小様々なカメが飼育されていて、爬虫類マニアの方は大歓喜すると思います!
広大なウミガメプール。室温はウミガメたちが過ごしやすいように調整されています。
広大な円形プール。たくさんのウミガメたちが悠々と泳いでいます。
プールの隣には階段があります。下りていってみると……。
階段下にも観察窓がありました! 至近距離で水中のウミガメたちを拝めます。

プールで泳ぐウミガメたちの姿からは、可愛いらしさだけでなく力強さも感じられます。海へ進出し、ヒレ状の四肢を獲得した彼らがどのように躍動してるのか、じっくりと観察しましょう。

立派なアカウミガメ。産卵シーズンには紀宝町の浜にも現れる種類です。
本館の大型プールでは3種類のウミガメ(アカウミガメ・アオウミガメ・タイマイ)が飼育されています。種類ごとの形態的な違いを見比べてみましょう。

館内ではキャプションやイラストによってウミガメの豆知識が解説されており、読めば読むほど関心が強く沸いてきます。ウミガメの意外な能力や習性には、きっとたくさんの来館者の方々が驚くと思います。また、ウミガメについて質問事項があれば、水族館や資料館のスタッフさんに訊いてみましょう。

本館では生体の撮影を通して、ウミガメの生態研究を実施されています。ウミガメたちの個性や社会性についての謎、とても興味深いですね。

ウミガメと共に生きる未来を目指して

本館は国内屈指のウミガメ飼育技術を有しており、飼育下でのアオウミガメの繁殖に成功した数少ない施設なのです。ウミガメ公園生まれの可愛い幼体たちは水族展示にて拝めますので、彼らのラブリーな一挙手一投足をしっかり観察しましょう。これほど愛らしい子たちを数多く育める飼育員さんの情熱と努力と技術に、心から敬服します。

横長のプール。小さな影が泳いでると思い、近づいてみると……。
アオウミガメの赤ちゃんがいました! 本館の飼育繁殖によって生まれた個体であり、アオウミガメの繁殖成功は国内では指折りの快挙なのです。
通常水槽でも、アオウミガメの幼体が展示されています。この子は活発な泳ぎっぷりを見せてくれました。
2021年生まれのアカウミガメの幼体。生態調査のため、個体識別用のタグをつけて海に放流される予定です。

「足がヒレ状になっているのがウミガメだ」という意見を聞くことがありますが、決してウミガメだけがヒレを有しているわけではありません。スッポンモドキのように、ヒレを備える淡水性のカメもいます。
続いては、ウミガメと他の水棲カメ類との違いを学んでみましょう。本館ではウミガメ以外にも様々なカメたちが生体展示されており、どの子も個性的な姿を披露してくれています。ウミガメと形態や動き方を比較しつつ、多様な淡水カメたちの観察を楽しみました。

スッポンモドキ。ウミガメと同じく四肢がヒレ状になっていますが、本種は淡水性のカメです。
マッコードナガクビガメ。日本のカメとは異なり、曲頸類というグループに属するカメです。
ヤエヤマイシガメ。沖縄諸島の多くの島では絶滅危惧種ですが、宮古島では外来種に指定されている少々変わった立ち位置のカメです。
砂から鼻だけ出したニホンスッポン。彼らの嗅覚はイヌにも負けません。
ウミガメと他のカメの違いを学べるキャプション。アカウミガメとアオウミガメの見分け方も解説してくれています。

ウミガメ保護施設に来たからには、海洋生物の保全についてもしっかり学んでおきたいところです。本館の資料は標本だけに留まらず、ウミガメの保護業務で使用される器具も展示されています。ウミガメの保全とはどういった仕事で、どういった意識のもとで行われているのかーー将来、野生動物関係の仕事を志望されている方には、ぜひ本館の展示で学んでいただきたいと思います。

ベンチの上に設置された資料。ウミガメの保護研究に関するアイテムもあるので、キャプション含めてしっかりチェックしましょう。
ウミガメの産卵場所に埋める識別マーカー。ウミガメの産卵巣の位置を明確にするために役立つ道具です。
ウミガメの頭骨と鱗板。彼らは脱皮して成長するので、その際に鱗板が体から剥がれ落ちます。
ウミガメと人間の共生についての解説パネル。我々人類の活動はウミガメの生活にも大きな影響を与えており、ウミガメたちの楽園を守るために私たちが何かすべきか、改めて考えなければならないのです。

研究と保護活動に携わられている素晴らしいウミガメ専門施設。美しく愛らしいウミガメたちとの出会いと、本館で学び得た多くの知識は、筆者にとって素敵な宝物となりました。
今年の夏も、澄みきった紀宝町の海にはウミガメたちがやってきて、新たな命を産み落としています。本館の方々の保護と研究の活動があるからこそ、ウミガメたちの楽園は維持されているのだと思います。

壁に貼られた質問用紙。来館者がウミガメに関するクエスチョンを書き、スタッフさんがわかりやすく回答してくれています。
質問に対するスタッフさんのナイスな回答。確かに、カメは人類よりもはるか昔に地球上に誕生したので、「カメのいる世界に人間が生まれた」という表現は超正論です(笑)。

道の駅紀宝町ウミガメ公園 総合レビュー

所在地: 三重県南牟婁郡紀宝町井田568-7

強み:ウミガメたちと間近で対面できる開放的な生体展示空間、長年のウミガメ保護活動で培われた卓越した飼育技術と膨大な学術的知見、ウミガメの生態的知識をわかりやすくコミカルに学べる独特な解説資料

アクセス面:自家用車かレンタカー推奨です。JR紀勢本線の熊野市駅から路線バスが出ていますが、他にも観光地を巡る場合は車での移動がベストです。三重と和歌山の県境に近い場所にあるので、かなりの長距離ドライブになることは確実です。できれば泊まりがけの旅行を計画し、ホテルや商店の多い新宮市で1泊するのがリーズナブルだと思います。

生体展示・標本展示・明瞭な解説キャプションによって、ウミガメの広範な秘密が学べる専門施設です。魅力的なウミガメたちの姿を拝み、生態学的な知識を得られるだけでなく、飼育繁殖や野外個体調査などプロの保護業務の内容を知ることができます。野生動物保護の仕事に関心のある方には、ぜひとも強くオススメします。
魅力いっぱい生体展示と並ぶ本館の強みは、全国屈指のウミガメ飼育繁殖技術と、広範な研究による生態学的知見です。個々の展示がとても勉強になるうえに、解説資料や質問コーナーにはスタッフさんたちの遊び心が発揮されており、楽しみながらスムーズに知識を身につけられます。
水族館としてウミガメを飼育展示し、研究と保護活動によって野生動物保全にも努めておられるという、本当に素晴らしい学術スポットです。プロの研究者の知恵と努力が多くの野生動物を今も救い続けているのだと、各種展示を通して改めて実感しました。ウミガメたちへの学術的な理解を深めると、紀伊半島南部の壮麗なマリンブルーの海洋が、とても愛しく感じられますね!

防災用に建てられた町の一時避難所。ウミガメの装飾が施されており、紀宝町らしさがよく現れています。

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