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全国自然博物館の旅⑪三笠市立博物館

化石マニアの中で統計を取ってみたら、きっとアンモナイト好きの人口はかなり多いと思います。アンモナイトは絶大な産出数・多様性・可愛らしさ(?)から大人気の古生物であり、アンモナイトが好きで研究者になった人もいるほど魅力的な存在なのです。
三笠市を含む北の大地は化石の一大産地であり、アンモナイトの化石も多数発見されています。まさに当地はアンモナイト専門の博物館が立つのにふさわしい場所です。


アンモナイトで地域おこし! 化石は街の強い味方

北海道はあまりに広大なので、レンタカーで旅行していると道の駅に立ち寄る頻度はとても多くなります。旅行者にとって嬉しいことに、道の駅三笠の隣にはスパリゾート「三笠天然温泉太古の湯」があります。
さっそく入ってみると、ここが化石の豊富な地域であることを実感いたしました。

温泉スパリゾート「太古の湯」。ここが化石の名産地という事実を感じます。
なんと、温泉の入口にアンモナイトの化石がありました! 化石を街おこしに活用しているのがわかりますね。

期待を膨らませつつ、三笠の市街地をどんどん進みます。すると、三笠ジオパークをPRする旗が各所で目につくようになりました。三笠市は化石産出地として名高い地域であり、地元の強いプッシュが伺えます。ジオパークにつきましては、下記リンクをご覧ください。

市街地に近づいていくに連れて、三笠ジオパークの宣伝が強くなってきました。初めて訪れる人にも、ここが化石産出の有名地であることがわかりますね。

三笠市役所を通りすぎ、116号道路をどんどん進みます。山の方へ行けば行くほど、化石マニアの魂は熱く燃えてきます(笑)。
入館前から過度に興奮している状態で、お目当ての三笠市立博物館に到着! ここがアンモナイト愛好家の聖地です。

博物館に到着。屋根の上には古生物の大きなモニュメントがあります。この記事を投稿する頃には、周辺に雪が積もっているかもしれません。
本館の主役であるアンモナイトがモササウルスに食べられています。少し気の毒かも……。

アンモナイトマスターになれる豪華な化石展示施設!

展示ホールを埋め尽くすアンモナイトの群れ

展示エリアに入った瞬間、来館者は「すげえ数のアンモナイト! そして、でけえ!!」と思うことでしょう。
幾列にも並べられているのは大型種の化石。古代の海には、これほど大きなアンモナイトが無数に泳いでいたのです。

巨大なアンモナイトの群れが展示ホールに並んでいます。殻の直径1 mクラスの個体もゴロゴロあります。
巨大アンモナイトの一種パキデスモセラス。直径1.3 mにも及び、化石の重さは580 kgにもなります。
壁面には多数の展示ケースが並び、その中には数えきれないほどたくさんの標本があります。収蔵庫を含めたら、超々膨大な化石が保管されていることでしょう。

なお、アンモナイトとはタコやイカの親戚で軟体動物の一群です。専門的には頭足類のアンモナイト亜綱に分類される生物であり、約4億1000万~約6550万年前(古生代デボン紀前期~中生代白亜紀後期)まで生息していました。
本館では導入として、アンモナイトとは何なのかをキャプションで詳しく説いてくれます。はるか大昔の海をイメージしながら、アンモナイトの不思議を見ていきましょう。

現生のオウムガイとアンモナイトの比較解説。姿は似ていますが、殻の構造に多くの相違点があります。
各種アンモナイトの進化の系統樹。時代年表と合体させることで、どの時代にどんなアンモナイトが生きていたのかをわかりやすく視覚化しています。
殻の直径2.5 mにも及ぶ超大型アンモナイトの復元模型。ただし、軟体部は化石に残らないため、生前のアンモナイトはまったく違う姿をしていた可能性もあります。

アンモナイトの最大の特性は、そのすさまじい多様性だと思います。殻の形態を見れば一目瞭然と思いますが、アンモナイトの形態はとてもバリエーション豊かで、奇抜な姿をした種類もとても多いです。

筆者が大好きなアンモナイトの一つ、アカントセラス類。たくさんのイボが強そうで素敵!
信じられないかもしれませんが、これらはアンモナイトの殻です! この2種の化石はディプロモセラス類に分類され、俗に「異常巻きアンモナイト」と呼ばれます。
再び言いますが、これらも全てアンモナイトの殻です! 彼らノストセラス類は、螺旋状の殻を備える異常巻きアンモナイトです。

本館はアンモナイトに強く特化しており、その専門性は他の博物館をリードしていると思います。なんと本館の学芸員さんやボランティアスタッフの活躍により、新種のアンモナイトの記載が成し遂げられたのです。もちろん、その素晴らしい成果を展示で見ることができます。

新種のアンモナイト、ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム。本館の学芸員さんによって記載されました。
同じく本館より発表された新種のアンモナイト、モシリテス属の化石。名前の一部にはアイヌ語が使われていて、北海道のアンモナイトらしさを感じます。
本館の研究により、既知のアンモナイトの進化について新たな可能性が提唱されました。名実共に、三笠市立博物館はアンモナイト研究の大権威です!

アンモナイトに負けない多様な古代の生命たち

アンモナイトの知見を高めたら、満を持して中生代の大物たちと対面です。肉食恐竜アロサウルスの全身骨格や大型翼竜プテラノドンの実物大模型には、往年のスターならではの迫力があります。

ジュラ紀の肉食恐竜アロサウルス。この骨格はレプリカですが、実物の大腿骨化石も展示されています。
天井から吊るされた翼竜プテラノドンの実物大模型。北海道ではプテラノドン類の化石が発見されており、国内最大級の翼竜である可能性が高いです。

アンモナイトは中生代の海の生き物。ということは、同時代の地層から他の海洋生物の化石も見つかるのが必然です。
三笠市の大地では、白亜紀の海の強大な捕食者モササウルス類の化石が出土しています。当該標本は発見地の三笠市にちなんで、エゾミカサリュウという和名が与えられました。きっとエゾミカサリュウは、大昔の北海道の海で魚や他の海棲爬虫類を捕食していたことでしょう。

エゾミカサリュウ(学名タニファサウルス・ミカサエンシス)の復元模型。超かっこいい!
エゾミカサリュウの頭骨の一部。発見部位は断片的であり、全長は5 mほどだったと推定されています。
エゾミカサリュウと同じモササウルス類のプラテカルプス。全長4.5 mほどの小型種です。

大型古生物の展示により、かなりテンションが高ぶりました。ここからは、化石マニアがさらに燃える展開です。北海道で発見された動植物の化石ラッシュが急加速します。
なんと、様々な動物の各分類群ごとに分けて生物化石を展示解説してくれています。これは学ぶ側にとって嬉しいサービスと言えます。

世界的にも珍しいウミガメの卵の化石。死亡したカメの体内にあったものが流出し、その後で化石として保存されたと思われます。
長さ1 mにもなるコンボウガキの化石。棍棒のような形ですので、クラスオストレア・コンボウという学名が与えられました。
アンモナイトに付着したゴカイや貝類の生痕化石。付着痕まで勉強できるとは最高すぎです!

化石の展示数がとっても多く、マニアなら時間を忘れて熱中できるほど濃い内容です。アンモナイトだけでなく、かなり広範な古生物の知識が身につくと思います。

また、別館には森林資料展示室が設けられています。北海道の大森林を構成する植物の標本に加え、多様な動物や昆虫の標本を見ることができます。

少し離れたところに別館「森林資料展示室」があります。昭和の博物館っぽさを感じさせるレトロ感が素敵。
エゾヒグマの剥製。迫力がすごいです。
動物だけでなく植物の展示も充実しています。北海道の植生の豊かさがよくわかります。

三笠市立博物館 総合レビュー

所在地:北海道三笠市幾春別錦町1-212-1

強み:アンモナイトの多様性と迫力を活かした怒涛の展示、世界レベルの圧倒的なアンモナイト研究の知見、様々な古生物化石と各標本にまつわる濃密なキャプション解説

アクセス面:とにかく車です。他県からの旅行者はレンタカー推奨! 多くの道民の方は車をお持ちだと思いますので、自家用車で来館しましょう。事情があって車を使えない場合は、JR岩見沢駅からバスに乗って行くことができます。

アンモナイト愛好家のみならず、全古生物ファンが絶対超大満足できる博物館です! 本館は決してただの地方博物館ではなく、アンモナイト研究において世界レベルの実績を上げている超すごい施設です。濃密な展示内容を見れば、一瞬でアンモナイト探究の世界に引き込まれてしまうでしょう。
マニアックな化石のオンパレードに古生物オタクは舞い上がること確実です。コンボウガキなど学べる機会の少ない無脊椎動物についても、標本とキャプションでしっかり解説してくれるので誠に感謝感激です!
巨大アンモナイトの復元模型がありますので、その迫力に子供たちも大興奮だと思います。存在感なら、アロサウルスの全身骨格やプテラノドンの実物大模型といったスターたちにも負けていません。

博物館の手前のマンホール。アンモナイト専門の博物館なのでオムナイトがいるのは納得できますが、なぜにロコン? 北海道に棲むキタキツネをイメージしているのでしょうか……。

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