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全国自然博物館の旅【41】いわき市石炭・化石館ほるる

年代を問わず、ドラえもんのファンならばフタバスズキリュウのピー助をご存じだと思います。フタバスズキリュウ(フタバサウルス)は日本を代表する古生物と言っても過言ではなく、1968年に日本で初めて発見された首長竜であり、当時かなりのセンセーションを巻き起こしました。
福島県いわき市はフタバスズキリュウの発見の地。この日本古生物学の聖地には、化石マニア垂涎の博物館が立っています。


愛しのピー助の故郷に来訪

映画大長編『ドラえもん のび太の恐竜』をご覧になって、古生物大好きになった人もきっと大勢いらっしゃるでしょう。可愛らしいピー助の原点となった聖地を訪れるとなると、とてもテンションが上がります。なお、念のため述べさせていただきますが、フタバサウルスは恐竜ではなく水棲爬虫類の一種です
古生物ファンもドラえもんファンも、一緒になって化石学習を楽しみましょう。

博物館の最寄り駅はJR湯本駅。上野駅から常磐線の特急ひたちに乗り、いわき市にやってきました。温泉地ということもあり、駅前は観光客やタクシーで賑わっていました。

JR湯本駅に到着。東京からアクセスしやすい地域ですので、日帰り旅行で来られた方も多いのではないでしょうか。
本地域は温泉が湧く観光地。なんと、駅のホームに足湯があります
昭和らしさを残す街の雰囲気。博物館での古生物学習と合わせて、街歩きを思いきり楽しんでみましょう。

湯本駅から線路沿いに歩いて陸橋を渡れば、博物館はすぐそこです。本館は展示の迫力も解説資料の濃密さも素晴らしく、化石マニアの人なら確実に相当な時間をかけて観覧することになります。たくさんの古生物と出会う太古の旅を最大限楽しむために、ぜひとも時間的余裕を十二分に確保して博物館へ繰り出しましょう。

いよいよフタバサウルスの聖地にやってきました。博物館の敷地内には大きな駐車場がありますので、車での来館も大いにありです。
ピー助のモデル、かっこいいフタバサウルスのブロンズ像。本館の開館10周年を記念して製作されたアートです。
かっこいいイラストを見て、入館前からテンションが上がっております。いよいよ太古の世界への旅が始まります。

豪華すぎる展示標本! 化石マニアよ、いわき市に集え!!

フタバサウルスにいざなわれ、地球史探究の旅へ!

入館直後、いきなり主役が降臨。いわき市の誇り、首長竜フタバサウルスの登場です。繰り返しますが、首長竜は恐竜ではありません。本展示の骨格はレプリカであり、模式標本は国立科学博物館に収蔵されています。
いわき市でフタバサウルスを拝むという古生物ファンの夢、ここに叶いました。この地が大海原だった頃、本種が縦横無尽に大洋を泳ぎ回っていたのです。図鑑でフタバサウルスを眺めながら、太古のロマンに浸っていた懐かしい頃を思い出します。

フタバサウルスの骨格レプリカ。全長は6~7 mほどであったと考えられており、首長竜としては中型サイズです。
フタバサウルスの産状化石のレプリカ。奇跡の大発見から36年後、最先端の古生物学研究を経て、新種フタバサウルス・スズキィとして記載されました。
フタバサウルスの復元模型。長い首を活かして、水中の魚を巧みに捕食していたことでしょう。

これからエントランスを抜けてメインの展示ホールへ向かいますが、そこに通じる路でも魅力的な古生物たちがたくさん待っています。筆者の推しは、いわき市で発見された海洋哺乳類イワキクジラ。四倉町では多数のクジラ化石が産出しており、新生代のいわき市にも雄大な海洋が存在していたことがわかります。
すでに太古への旅は始まっています。化石たちと共に楽しい学びの時間を味わいましょう。

エントランス横の通路。いわき市のみならず、国外の古生物標本が展示されています。
巨大な植物食恐竜スーパーサウルスの化石にタッチできる体験展示。前足の一部分の骨だけで、これほどの大きさがあります。とことん触って、巨大恐竜の力強さを感じてください。
ジュラ紀の首長竜クリプトクリドゥスの頭骨。フタバサウルスよりも古い時代に生きていました。
約400万年前に生きていたイワキクジラ。コククジラに近い古代の海洋哺乳類です。福島県立命四倉高等学校の付近で化石が発見されました。
天井から吊るされたニタリクジラの骨格。イワキクジラと同じヒゲクジラ類です。

いざ、メインの化石展示室へ。広大なホールに出た途端、立ち並ぶ大型動物たちの骨格に誰もが圧倒されることでしょう。
人々の注目を集めるのは、多様で勇壮な恐竜たち。ホール中央のマメンチサウルスのスケールは圧巻であり、長大なボディは迫力満点! もちろん他の恐竜たちも魅力たっぷりですので、彼らのたくましさにとことん酔いしれてください。

メイン展示ホール「化石展示室」。恐竜をはじめ、世界中のスターが大集結しています。中央に立っている首の長い恐竜がマメンチサウルスです。
大型植物食恐竜マメンチサウルスの胴体。あまりにも大きすぎるので、ワンショットで写真に収めるのはとても難しいです
超かっこいい肉食恐竜アルバートサウルス。後足が長くスマートな体型をしているので、かなりの高速で走ることができたと思われます。
ランベオサウルス類の子供の実物化石。この子は小さくて可愛いですが、本グループの恐竜の多くは成長すれば全長10 m以上にも達しました。
いわき市で発見された恐竜の歯の化石。この歯の主は白亜紀の竜脚類(カミナリ竜)であると考えられています。

古生物で強くてパワフルなのは恐竜だけではありません。同時代の海洋爬虫類の中には、地上の恐竜たちにも負けない猛者が大勢いました。そう、本館では海の竜たちの標本展示も充実しています。
その中でも、圧倒的な強者感を放つのは大型肉食爬虫類プリオサウルス。ものすごいパワーの顎を備え、他のあらゆる海洋生物に襲いかかっていたと考えられます。太古の海には、我々の想像を絶する怪物たちが泳ぎ回っていたのです。

肉食性の大型海洋爬虫類プリオサウルス。モササウルス類と並び、中生代の海洋生態系の上位に君臨する恐ろしい捕食者です。
プリオサウルスの力強い頭骨。この大顎で噛みつかれたら、どんな動物でも無事では済まないでしょう。
史上最強の海洋生物とも言われるモササウルス類。もし自然界でプリオサウルス類と激突したら、いったいどのような闘争が繰り広げられるのでしょうか。
白亜紀後期の北アメリカに生きていたタラソメドン。フタバサウルスよりも大きな首長竜です。
白亜紀の大型ウミガメ類・プロトステガ。全長は約3 mにも達し、現代のウミガメよりもはるかに巨大です。

海の竜の次は、空の竜。中生代の天を支配した翼竜の登場です。食性もサイズも様々な多種の翼竜の骨格標本のラッシュに、古生物ファンは大歓喜です。これほど豪華な翼竜展示はなかなか見られませんので、たっぷり観覧して記憶に刻み込んでください。
やっぱり翼竜は最高! 天空を舞う彼らの勇姿が脳裏に浮かんできます。

飛行態勢のトゥプクスアラ。その翼開長は5 m以上と推定されています。
歩行姿勢のアンハングエラの実物化石。地上に降りると、翼竜たちは主に4足歩行で移動していました。
プランクトンを食べる翼竜プテロダウストロ。口の中にブラシ状の剛毛を備え、水中の微生物を濾し取って食べていました。
筆者が愛するランフォリンクスの実物化石。かっこよさと可愛さを併せ持ち、全ての古生物の中でもダントツに好きです。
ランフォリンクスの実物化石を用いて、飛行様式を解説。翼竜の飛行能力はとても高く、鳥やコウモリに勝るとも劣りません

新生代の動物たちも美しい子ばかりです。個人的に惚れたのは、いわき市でも化石が見つかっている海鳥プロトプテルム。彼らはペンギンそっくりな姿をしており、狩りの際は海洋に繰り出し、コロニーを形成して岸辺で子育てしていたことでしょう。
いわき市ではフタバサウルスの大発見が超強調されていますが、中生代以外の時代の化石資料もとても豊富なのです。今一度、展示全体を通して、地球史への包括的な理解を深めましょう。

更新世の大型植物食哺乳類エレモテリウム。「オオナマケモノ」という広義のナマケモノ類に含まれます。
長大な犬歯を備えるスミロドン。俗に「サーベルタイガー」と呼ばれる更新世のネコ科動物です。
いわき市で発見されたクジラ類の頭骨。貴重な実物化石がたくさん展示してあるのは、古生物マニアにはとても嬉しいところですね!
大型の水棲鳥類プロトプテルム。ペンギンに似ていますがペリカンの仲間です。いわき市を含めた環太平洋地域で化石が見つかっています。

本館の素晴らしさの1つは、たくさんの実物化石展示であり、化石マニアの心を一気に鷲掴みにしてくれます。超絶嬉しいことに、実物化石に触れられる体験展示がいっぱい!
貴重な標本にタッチし、キャプションを読んで学びながら、化石に宿っていた命に想いを馳せてみてください。時を越えて、太古の生命の鼓動が聞こえてくるかもしれません。

恐竜の卵の化石にタッチできる体験展示。この中に小さな命が宿っていたと考えると、とても愛しい心地になりますね。
植物食恐竜エドモントサウルスの脛の骨。こちらもタッチ可能ですので、ぜひ化石の感触の虜になってください(笑)。
恐竜の足跡の化石(タッチ可能)。骨だけでなく、足跡や巣穴も立派な化石標本なのです。

いわき市に秘められた太古の記憶を学ぶ

壮大な地球史と生命史を学んだら、さらに掘り下げていわき市の古生物学を仔細に学んでいきましょう。本館2階の学習標本展示室では、いわき市の大地の歴史を多数の標本と濃密な解説キャプションで学習できます。
地域の古代の生物相に関する展示となれば、化石マニアは大興奮。いわき市に大地に秘められた謎の探究の始まりです。

2階「学習標本展示室」の一角。いわき市の古生物学を深く詳しく学べます。
立ち並ぶ化石の展示ケース。古生物マニアが大好きな博物館の光景です。
たくさんのキャプションパネルで古生物学を解説。化石がどのようにできるのか、どのような化石の種類があるのかについても、スムーズに理解できます。
わかりやすい化石に関する図説。古代環境特定の指標となる化石を「示相化石」、地質年代特定の指標となる化石を「示準化石」といいます。

では、太古のいわき市の生命を時系列的に古い順から見ていきましょう。
まずは古生代。いわき市にはペルム紀(約2億9900万~約2億5000万年前)の地層が存在しており、当時の海洋生物たちの化石が多数出土しています。フタバサウルスの生息年代よりもはるかに古い時代から、いわき市の歴史は続いてきたのです。化石標本の観覧を通してアンモナイトや三葉虫が生きていた頃の世界を感じてください。

いわき市の古生代の環境についてのキャプション。当地においては、フタバサウルスよりもずっと昔の時代の生物化石が多数発見されているのです。
いわき市から出土したペルム紀の海洋生物化石。発見された生物の種類から推測して、産出地は陸に近い海域環境であったと考えられます。
腕足類レプトダスの化石。現生のシャミセンガイに近い種類です。
古生代のアンモナイト類ワーゲノセラス。いわき市ではペルム紀の地層が見られ、様々な海洋生物の化石が発見されています。

ペルム紀が終わると、恐竜たちの大王朝が始まります。中生代の地層を有するいわき市では、首長竜やアンモナイトのみならず恐竜化石も発見されています。最新の研究から、日本には雄大な恐竜たちの王国があったと判明してるので、今後いわき市からさらなる恐竜の大発見が出る可能性は大いにあります。これからの研究に期待しつつ、中生代の化石展示をたっぷり楽しみました。

先述の通り、いわき市では恐竜の化石が発見されています。もしかすると、この地から世界を揺るがす大発見があるかもしれません。
様々な種類の恐竜の標本が収められた展示ケース。写真右下の標本は、いわき市で発見された恐竜たちの歯です
アンモナイトに関する詳細な解説。本キャプションを読めば、殻の構造や生息域などの幅広い地域が一気に身につきます。
アナゴードリセラス。いわき市では立派なアンモナイトが多数出土しています。
ダメシテス。アンモナイトは古生代から中生代を駆け抜けた頭足類の猛者なのです。

続いては、中生代の海洋爬虫類。フタバサウルス以外にも、いわき市では海の竜たちの化石が発見されています。その多様性はかなり高く、様々なタイプの爬虫類がフタバサウルスと共に海を泳いでいたとわかります。本コーナーの展示解説を見れば、白亜紀の海の様子が強くイメージできるようになると思います。

フタバサウルスをはじめとする海洋爬虫類。大切なことなので繰り返しますが、彼らは恐竜ではありません
首長竜の肋骨の複製。矛盾していますが、「首の短いタイプの首長竜」も存在しており、その化石はいわき市からも見つかっています。
いわき市産の首長竜の脊椎。首長竜は中生代の末期まで繁栄し続けており、かなり成功した海洋爬虫類のグループでした。

海洋生態系を理解するうえで欠かせないのが魚類研究です。いわき市では軟骨魚類・硬骨魚類共に数多くの化石が発見されており、白亜紀の海がとても豊かだったと判明しています。きっとフタバサウルスは、おいしい魚をたらふく食べながら繁栄していたと思われます。

中生代の海の地層からは、魚の化石もたくさん見つかっています。フタバサウルスと同じ海域には、どのような魚たちが棲んでいたのでしょうか。
スカパノリンカスの歯。深海性の軟骨魚類であるミツクリザメの仲間です。
サケ類エンコーダスの化石。フタバサウルスもサケ類を食べていたと思われます。

素晴らしいことに、いわき市には化石の豊富な新生代の地層もあります。実に多様な鳥類・哺乳類の化石が産出しており、豊かな動物たちの王国が広がっていたとわかります。フタバサウルスが滅んだ後の時代も、いわき市には魅力的な古生物がたくさんあふれているのです。

新生代の古生物に関しても、いわき市は大きな発見を成し遂げています。本当に魅力的な探究フィールドですね。
大型哺乳類化石についてのキャプション。彼らの棲んでいた時代、いわき市は熱帯性もしくは亜熱帯性の気候だったと考えられています。
新生代の海鳥の尺骨。ペリカンの仲間であり、種類によっては翼開長が5 mにも達しました
ツチヤタンジュウの臼歯。エンテロドン類というイノシシそっくりな雑食哺乳類です。
鰭脚類(アシカやアザラシの仲間)の骨の化石。彼らは海鳥プロトプテルム類と競合していたと思われます。

本館の名前に入っていることからおわかりだと思いますが、いわき市は石炭の名産地でもあります。石炭とは大昔の植物が変化した鉱物です。つまり、豊富な石炭が産出する地域には、かつて豊かな植生があったのです。
石炭に姿を変えて、人類の発展を支え続けてくれた植物たち。彼らへの謝意を抱きつつ、美しい植物化石を観覧しましょう。

古代の植物の化石は、石炭という形で我々の生活を支えてきました。人類一同、古代植物に感謝!
いわき市では植物化石も豊富。こちらは白亜紀のナンヨウスギ類です。
新生代のメタセコイアの葉。かなり巨大に成長する裸子植物です。
植物化石を含む岩塊。動物化石のみならず、古代の植物を研究したい人にとっても、いわき市は最高のフィールドだと思います。

いわき市石炭・化石館ほるる。化石マニアが大声を出して感激するほど素晴らしい博物館です。古生代から新生代にかけて、これほどたくさん化石が産出している地域は珍しいと思います。
古生物ファンにとって、いわき市は究極に魅力的なフィールド。フタバサウルスとの出会いから、無限なる古代の世界への旅が始まるのです。

ミュージアムショップにて、フタバサウルスが描かれたお酒を発見。福島県のおいしいお米を使用した純米酒です。もちろん即購入しました(笑)。

いわき市石炭・化石館ほるる 総合レビュー

所在地:福島県いわき市常磐湯本町向田3-1

強み:幅広い地質年代に及ぶいわき市産の古生物化石標本、各時代の多様な動物群がそろう圧巻の骨格標本展示、当地での数々の大発見に裏打ちされた古生物研究の膨大な知見

アクセス面:JR常磐線の湯本駅から徒歩10~15分ほど。東北地方からアクセスしやすいのはもちろん、東京方面からも特急ひたちに乗ればスムーズに到着できます。東北地方・関東地方にお住まいの方ならば、自家用車で来訪することも十分可能です。本館の観覧と合わせて、湯本の温泉地を車で巡るのも最高に楽しいと思います。

いわき市の古環境を詳しく学べるうえに、恐竜をはじめとする多種多様な骨格標本のオンパレード。加えて、全古生物ファン憧れのフタバサウルスをシンボルに据えているという、至れり尽くせりな化石聖地の博物館。マニアはもちろん、パワフルな恐竜が大好きな子供たちも大いに満足できる学術施設だと思います。
そして、貴重な実物化石を数多く拝めるのも本館の魅力です。本物の化石に触れるタイプの展示が多く、恐竜の卵や足跡の化石にタッチふるのとで、子供たちの古生物学への関心は強まることでしょう。
古生代・中生代・新生代のそれぞれの時代において、素晴らしい発見が続く福島県いわき市。これほどまでに化石にあふれた地域は超貴重であり、古生物学の宝とも言える聖地です。いわき市を訪れれば、フタバサウルスをはじめとする古生物たちが壮大な地球史の神秘へと導いてくれます。

いわき市は石炭の名産地。本館では、石炭採掘の歴史や最新の技術についても学べます。

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