マガジンのカバー画像

【長編SF小説】銀河皇帝のいない八月

38
宇宙を支配する銀河帝国が地球に襲来。 軍団を率いる銀河皇帝は堅固なシールドに守られていたが、何故か弓道部員の女子高生、遠藤アサトが放った一本の矢により射殺されてしまう。 しかも〈…
運営しているクリエイター

2022年1月の記事一覧

銀河皇帝のいない八月 ⑰

銀河皇帝のいない八月 ⑰

1. 下層区のギャングたち

 落ちる……落ちる……

奈落の底へと落下するリパルシング・デッキの上で、遠藤空里は今度こそ最期かもしれないという覚悟を決めようとした。
 破壊された校舎や惑星改造船の上からの落下でも生還したが、今度はそれらとは決定的に違う。
 ネープがいない。
 この事実は大きい。大き過ぎる。
 今まで自分を護っていた彼の力が、いかに大きなものだったか。それと切り離された途端、こ

もっとみる
銀河皇帝のいない八月 ⑱

銀河皇帝のいない八月 ⑱

2. サロウ城の虜

 薄紅色の液体で満たされた透明な球体の中に、全裸の少年が漂っている。

 エンザ=コウ・ラは、確かにネープが美しい生き物であることは否定出来ないと考えた。この美しさに惑わされ、何とか完全人間を自分の慰みものにしようと試みた者も少なくない。だが彼らは皆、それがあまりにも引き合わぬ行為だと思い知らされることになったのだ。

 こうして完全に自由を奪った状態でネープを捕らえることが

もっとみる
銀河皇帝のいない八月 ⑲

銀河皇帝のいない八月 ⑲

4. 完全人間の脱走

 その若い医務官は、緊張に疲れ切っていた。

 ラ家への仕官をへて帝国軍に属して以来、こんなに勤務で緊張が続いたことはなかった。目の前の液体檻に閉じ込められた美少年が、見た目とはかけ離れた危険な存在であることは重々承知の上だ。理屈ではわかっているが、その理解がかえって目に見えているものとの落差に戸惑いを生じさせていた。

「サンプルの様子はどうだ?」
 上官が部屋に入って来

もっとみる