羽をもがれた妖精は復讐を謡う-過去編-[10]
◇
さて、どこから話すか。私はルカにアルカナについて説明する為、執務室に呼んでいた。
真剣な面持ちで、取り敢えず席に座る様に促す。話が長くなると思い、二人分の紅茶を入れた。
「さっきは外だから詳しくは話せなかったけど、まずアルカナが何故出来たのかを話そう」
取り敢えず、アルカナがどんな組織かは知っているか?とルカに問うた。
「人工能力者を造ってる企業だろう」
自分達の技術力の高さを知らしめる為に、人工能力者を造っている企業。そう認識している。
ルカの答えに、私は頷いた。
「そうーーなら、何故アルカナは自分達の価値を示したいんだと思う?」
「どう言う意味だ?ーーそれは企業として普通の事なんじゃないのか?」
会社が経営の存続と利益の為に、研究に精を出すのは別に不自然な事ではない。
私は首を横に振った。
「人工能力者ーー非人道的と非難されながらか?アルカナなら、非難などされないもっと別の研究をやって利益を出した方がいいだろう」
言われてみれば確かにそうだ。ルカは頭を捻るが分からず、私は宣言した。
「それが他国に提示された、国民として受け入れてもらえる条件だからだ」
『発展の世界』は自分達の世界を犠牲にして発展し、壊した世界。
環境問題や魔術障害を放置し、技術力を上げる事ばかりを行った結果、『発展の世界』に人が住める様な場所がなくなった。
別の惑星を転々と移住し、遂に住める星がなくなると今度はパラレルワールド、異世界へと渡ってきたのだ。
そして自分達の技術力・価値を示せば、受け入れて貰えるーーと、思った。
「別世界の奴等に、自国民と同様の権利をそう易々と与える筈がない」
ましてや向こう(発展の世界の者達)が欲しい物は分かっているーー当然、足元を見るのが普通だ。
「高い技術力、労働力を格安で手に入れる、またとないチャンスだ」
受け入れてあげよう、雇ってあげようーーただし自国民の半分の賃金で。
そんな差別を、当然受け入れられる筈がない。発展の世界の人々はクーデターを起こそうとした。しかし
『また破壊するのか?』
理の上に立つ存在が口を挟んだ。ーー別に繁栄の世界の連中を助ける為ではない。別の箱庭の奴等が、他の箱庭を壊すのが気に入らなかったからだ。
「ならば、どうすれば自分達も同等の権利が貰えるのかーー世界会議で提示されたのが人工能力者の製造だ」
おそらく人為的に能力者、魔法使いを作るなど不可能だろうと思い、提示されたのだろう。何せこれが決まったのは
「今から150年前の事だ」
アルカナの悲願、それは自分達に人権が認められる事である。
折角淹れた紅茶が、冷めてしまった。私は冷めた紅茶で喉の渇きを潤す。
空になったティーカップに、ポトトトッと注ぎ込んだ。
「それからアルカナは非人道的、犯罪組織扱いを受けながら研究を続け、無能力者を能力者にする方法を編み出した」
それが現在までの研究成果だ。
暖かい紅茶の水面を見ながら、私は言葉を続けた。
「それでも今度は自己流詠唱(オリジナル)が発現していないとか難癖つけられて、未だに認められていないのが現在の状況なんだ」
「……」
私の話に、ルカは押し黙る。脳内処理が追い付いていないのだろう。
暫く経って押し出す様に吐いた言葉は
「何故、『発展の世界』の連中は早々に攻撃なり侵略なりしなかったんだ?」
武力行為を上位存在に咎められたのは、クーデターを起こそうとした時である。異世界に渡った直後、先手必勝とばかりに侵略してしまえば良かったのではないか?
「それこそ、当時の技術力には遥かに差があった筈だ」
何せ、当時の『繁栄の世界』には異世界への転移装置などなかったーー開発する程の理論も技術力も。
私も同意見とばかりに頷く。
「本当になーー当時の奴等がどう判断したかは分からないが、おそらく不毛の地にしてしまう事を恐れたんじゃないか?」
何せ自分達の世界を一度破滅させているのだ。たとえ勝利したとしても、争いによって生まれる汚染や資源の消費を考えたのかもしれない。ーー例えば、核爆弾などを使用すれば、本来の目的である安住の地は手に入らなくなるのだから。
砂漠に花を咲かすのは難しい。
ルカも納得した様に頷いた。
「戦争による資源や環境へのリスク、上位存在からの牽制、他の事情も含めて打算したんだろうな」
「おそらくねーーそれに『自分達の技術力は重宝される。故に殺される事はない』と言う意識が必ずあった筈」
その賢(さか)しさが、後(のち)に人工能力者の製造ーー多くの被検体が苦しめられるとは知らずに。
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