【殺人企業~実録・裏社会の人間との闘いの日々~】第三章:暗雲①災厄の始まり
第一節:災厄の始まり
昨年、良いスタートを切って、とても良い締め括りだったが…
この年はそうはいかなかった。
年明け早々、一人のボーイが飛んだ事から示される様にこの年は多く問題が上がる年だった。
私にとって災厄の日々の始まり。
2月ー。
その日は営業前から慌ただしい日だった。
「何かあったんですか??」
「将利が飛んだ」
手塚さんは私に言うと1階のお店に入って行った。
(将利、とうとう…飛んだんだ。)
将利が秋山に日常的に暴力を振るわれていた事は女の子ですら知っていた。
1年前……
杏樹ちゃんが1階で働いていた時、杏樹ちゃんは将利君に警察に行けと言っていた。
だけど、将利君は秋山に何されるか分からなかった為に我慢していた。
まさに恐怖政治…
パワハラと言っても良かった。
秋山はお客様の目があるから顔は殴らなかった。
だけど、将利の体にはいたる所にアザがあった。
ある日…。
いつもの様に私達、経営陣は営業終了後にお店で話していた。
その時に久我さんが溜息交じりに愚痴りだした。
杏樹ちゃんが1階の女の子達と将利君を誘って秋山の悪口大会と称して仕事終わりに飲みに出ていたからだ。
「杏樹も余計な事ばっかしやがって」
「あーやって、ここら辺で飲んで秋山の悪口を言うじゃん?それが回り回って秋山が聞いたら気分悪くなるのに」
「あいつはいつも余計な事ばっかするからな~数子のくせに」と続いて瀬名君も言い出した。
この頃の私は出来る限り管理側の目線で物事を見る様にしていたので、
瀬名君達が昔、女の子同士で飲みに行くのを快く思ってなかった事とか…
秋山が女の子達に嫌われてまで何を優先しようとしていた事が何となく分かって来ていた。
だけど、キャストだった事もあって女の子達の気持ちも分かる部分もあった。
それもあって経営側と女の子側で見方が違う事に戸惑いやジレンマも感じながら仕事をしていた。
だけど…暴力はどうしても認められなかった。
秋山だって…悪い奴じゃないのに何で、そんな事するんだろう?
私も短気な方だけど、上の人間は手を挙げたらダメだって思っていた。
水商売って…こーゆー業界なのかな?とも思っていた。
実際、この頃は何が常識で何が正しいのか、私は友達に相談していた。
社長である以上、女の子達には言えない事も多く、利害関係の無い友人に相談するのが一番、会社に影響がないと考えたからだ。
友人はこう言った。
「暴力はいけないけど、業界によるんじゃないかな??多分、水商売は職人気質が強いから暴力とかあるんだと思う」
それでも、私は会社…
久我さんのお店を入れてグループ全体で自分の理想としている組織じゃない事に頭を抱えてしまった。
理想論かもしれないけれど、誰かのせいだけにするんじゃなくて誰かが失敗したら、その問題解決に努め、システムの改善を行うのが上の役割なんじゃないかって思っていた。
だけど、それは理想であって現実は私の思う様にはいかなかった。
次の日、人事異動があって、私のお店でバイトしていた男の子が1階に異動となった。
私はお客さんの予定が入っていた事からお店のキャッシャー業務を手塚さんが見る事となった。
手塚さんがキャッシャーに入ってから3日後。
営業終了後に4階に上がって来るなり、開口一番に手塚さんは私と瀬名君にこう言った。
「明日からキャッシャー、交代制な!!」
どうやら、イケメンである手塚さんは女の子から人気が高い事からキャッシャーにいると、ゆいさんや杏樹ちゃんが常に裏に居座る様になったらしい。
手塚さんは彼女達に色々と店長の文句やら愚痴を聞かされ続けて、グッタリしている模様。
「モテる男の人は大変ですねーww」と私が言うと…
「本当にキツイ。あの狭い場所に、数子やゆいに張り付かれて…はぁ~」
「本当にホラーだもんな。数子なんか、また太ってマツコ・デラックス化してるもんな~!!数子・デラックス!!ギャハハ!!」
「瀬名君、言い過ぎだよ」
何にしても見た目の事で悪口は好きじゃない私は瀬名君を一言、注意した。
瀬名君は元ホストで容姿端麗である事から、他人の容姿の事をバカにする傾向があった。
それはお客さんから女の子まで多岐に渡っていた。
また、ゆい達へのストレスが溜まっていたのか手塚さんの愚痴は止まらない。
「ゆいなんか…しかも、俺の前で着替えたりするから…はぁ~」
「俺だったら目が潰れるな」と瀬名君は手塚さんに向かって他人事の様にゲラゲラ笑っている。
「ゆいとかセルライトがあるのにTバック穿いてて汚ねぇーし!!」
「よく、あんなケツでよく人様の目の前で着替えられるよな………」
そんな手塚さんと瀬名君のやり取りを見ていた久我さんが口を開いた。
「女の子募集の広告を打って。もし、いい子が現れたら、ゆいや杏樹は食べ飲み専」
(えっ…??)
「4階でもバックが出る訳だから、いっぱい食べさせて太らせて、太った結果、クビで良いんじゃない?」
私は久我さんからその話を聞いた時、ぞっとした。
確かに水商売は成果主義だし、スタイルなど自己管理能力が求められるけど……家畜扱いって。
「女の子募集の広告を打って。もし、いい子が現れたら、ゆいや杏樹は食べ飲み専」
その言葉が私に警鐘を鳴らした。
今思うと、あくまで久我さんにとって女の子は駒の一つでしかなかったのかもしれない。
会議が終わり解散した後、私はタクシーで家に着いた。
家では父親が仕事に行く前だった為、トーストとハムエッグを用意していた。
「お父さん…売上がない女の子は食べさせまくって家畜にしてお払い箱って、どうなんだろう」
気が付いたら、私は父親にお店の女の子をどうやって稼がせたり売れる様にしたらいいか話していた。
父親はサラリーマンだったしお酒が飲めない事から夜の世界とは無縁の人だったが…
私は話す事で解決の糸口が見えて来る事もあると思い、父親が会社に出るまで、ひたすら話し続けた。
この日、私は自分がその時、キャストでは無い事に安心しつつ、久我さんの裏の一面を見た気がした。
だけど、それは…まだまだ序の口だったのかもしれない。
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