【殺人企業~実録・裏社会の人間との闘いの日々~】第二章:起業⑤オープン初日
第五節:オープン初日
2014年7月ー。
他店からの妨害も無く無事にお店がオープンした。
私は今までお世話になったお客様に開店のお知らせメールをした。
「久我さん、頑張って500人ぐらいにメールしますね!!」
「いや、まずは30~50人ぐらいでいいよ。そんなに一気に来られても入れないだろうし」
「気合い入れようと思ったんですがww」
そんな私と久我さんのやり取りを見ていた美咲ちゃんが
「凛華さん、店前に行列出来ちゃいますよ!!」と笑っていた。
美咲ちゃんは前のお店でもナンバー上位で、
私は彼女とペアを組む事が多かった事からお店の女の子で一番良く話す子だった。
彼女は色が白くて目が大きいのが特徴で、とにかく笑いのツボが浅い。
何かにつけて大きな声で笑う子だ。
彼女は私の昔からの友達に似ていた。
それだけに何かと思い入れが強い仲間の一人だ。
だからかな…
あの時、私の話を信じて欲しかった。
けれども、彼女にとっては私よりも久我さん達の方が信頼出来る存在だったんだろうね。
出来る限りサポートしてあげたかったけど、私の力量が足りなくてごめんね………。
キャバクラ「ピアニッシモ」オープン初日ー。
その日、私はピアニッシモで会計、キャッシャーの仕事をしていた。
21時を過ぎた頃ー。
ダイニングバーにお客さんが来たと加賀見から電話があった。
加賀見ことカッキーは瀬名君の友達であり4階のダイニンバーの店長だ。
カッキーは、くだらないギャグと体毛が濃い事をネタにしている事から男性の客受けが良かった。
料理の腕は良いか別として使っている食材が良いのとカッキーの人柄で後々、お店は繁盛する事となる。
だけど、開店当初はスタートダッシュが重要だったので私は沢山のお客様に営業した。
美咲ちゃんも彼女の指名に呼び掛けてくれたおかげで4階はお客様で溢れ返っていた。
なので、キャッシャーの仕事をしていたとは言え、私は手塚さんに会計をバトンタッチし4階へ。
正直、この日はキャバクラと4階にあるダイニングバーを非常階段で何往復したか覚えていない。
それだけ忙しかったのだ。
途中、あまりにも急ぎ過ぎて足を攣って、引きずりながらお客さんに挨拶したのは鮮明に覚えているけど(笑)
その時ー。
2階のピアニッシモでは、瑠璃さんの神懸った営業によって瑠璃さんのお客さんでお店はパンク状態だった。
経営者・国家公務員・職人・ニートに至るまで様々なお客さんが瑠璃さんことヴィーナス移籍初日に駆けつけていた。
瑠璃さんは私が現役時代、共にナンバー上位を競い合っていた。
私の一つ下でサーフィンやロードバイクが趣味だけあって日焼けした肌。
クールな顔立ちからクールビューティー系のお姉さんだ。
ただし、酔うと客席だろうが平気で客の膝を枕にして寝てしまう強者(笑)
オープン初日ー。
現役時代も彼女の営業の凄まじさを尊敬していたが、改めて私はヴィーナスと称えられている瑠璃さんの実力を目の当たりにしていた。
今、振り返ってみるとお店のスタートダッシュとしては良い滑り出しだったと思う。
ただ、この時は問題が表面に出なかっただけだったのかもしれない。
「伊能ぉ~!ヘルプばっかで疲れちゃうよぉ~」
問題児ゆいがぶりっこ口調で店長である伊能君に愚痴っていた。
確かに瑠璃さん、美咲ちゃんの御蔭でお客さんが殺到している分、指名を呼べない子はヘルプ回りになる。
それが、この世界では当たり前だった。
私はヘルプも大事な仕事だと思うし、
ヘルプもちゃんとやる事でお客さんに評価される事もあるから…
ゆい…彼女がそんな事を言ってしまう事が正直、理解出来なかった。
「稼げない子は売れている子を妬んだり悪い子になる」
「だけど、彼女達だって元々は良い子だったんですよ」
私は久我さんの言葉を思い出していた。
だから、自分を指名していたお客さんを紹介したり指名で入って貰う様にお願いした。
稼がしてあげれば、文句も出ないだろうし女の子が快適に仕事を出来るのかもしれないと思っていた。
だけど、現実はそんなに甘くはなかった。
実際、私の主要なお客さんはキャスト時代、
良くペアを組んでいた美咲ちゃんの事を知っていた事から美咲ちゃんを指名で入る事が多かった。
それ以上に美咲ちゃんもメールなど、こまめにお客さんと連絡を取っていたのもあるのかもしれない。
そう言う努力をしていたからこそ棚ぼただけでなく指名を貰えていたのもあるだろう。
だけど、それを快く思わない女の子もいた。
贔屓だと………
何にしても夜の世界は格差が生まれやすいもの。
売れている子は売れているなりの理由がある。
枕営業で体張って頑張っている子もいれば…
自分の時間を犠牲にして長時間、お客さんの電話に付き合う子…
贈り物など気配りを頑張る子…
整形したりして見た目を磨く子…
何かを犠牲にしたり、どの形であれ努力しているからこそ、成果が上げられるのだと思う。
けれど、周りのサポートによって、やる気が出て台頭して来る女の子もいるのも事実だ。
だからこそ、私は出来る限り公平に指名を振って来ていたつもりだったが、それでも皆が皆、それで満足している訳ではなかった。
ゆいもその一人であった。
ゆい…彼女に私は後々、大いに悩まされる事になる。
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