【殺人企業~実録・裏社会の人間との闘いの日々~】第二章:起業⑥伝説のシャンパンタワー
第六節:伝説のシャンパンタワー
8月ー。
1階の久我さんのお店「ホワイトリリー」で大きなイベントが執り行われようとしていた。
妃姫ちゃんの卒業イベントだ。
私や美咲ちゃんがキャバ嬢にあまり見えないのと違って、
妃姫ちゃんは金髪ロングに細身のギャルで何処からどう見てもキャバ嬢って感じだった。
とにかく細くて、脚の細さは普通の女の子の腕と同じぐらいの細さで前の店では一番細い女の子だった。
彼女は舌足らずの甘えた喋り方と妹系のキャラで色恋の天才だった。
そんな彼女がとうとう卒業する事になった。
会社は違ったものの、「ホワイトリリー」は久我さんのお店。
所謂、親戚付き合いのある店だった為、無線で下の様子はこっちにも飛んで来ていた。
数百万はするシャンパン台がセットされ、
スパンコールやビーズが繊細に縫縫われていた白い煌びやかな衣装を身に纏った妃姫ちゃん。
外にはバースデーと卒業を祝ってスタンドの花が溢れんばかり並び、
ドンペリ、アルマンドなどの高級シャンパンが足りなくなる始末。
そして…後々、伝説となるリシャールでのシャンパンタワー。
とにかくお祭り騒ぎだった。
全席、妃姫ちゃんのお客さんだった為、1階の女の子は常にヘルプ回り。
また、人が足りない事からウチのお店からは杏樹ちゃんが借り出されていた。
妃姫ちゃんのバースデーイベント営業終了後ー。
「マジで邪魔しやがって、ふざけんなよ!!」
久我さんが文句を言っていた。
いつになくイライラしている久我さんを見て、
「手塚さん、何かあったんですか??」とこっそり聞いた。
「数子が妃姫のヘルプの太客の席でやらかしたんだ」
数子とは杏樹ちゃんの事だ。
私達の業界では女の子の事を話す場合、隠語と言ってあだ名で呼ぶ。
瀬名君が杏樹ちゃんは細木数子に似ている事から数子と名付けたのだ。
なので、経営陣の間で数子と呼んでいた。
「秋山がバカみたいにピンドンとか仕入れまくったから、そのピンドンを妃姫の太客に押し付けようと思ったのに、数子のせいで計画狂ったじゃねーか!!」
いつになく久我さんはイライラしていた。
それもそうだ。
妃姫ちゃんの卒業イベントって事で久我さんのポケットには何千万…億と言うお金が流れて来る絶好の機会だから。
ただ、1階のお店は私の会社とは関係無い事だったので、何となく自分に関係ない事として聞いていた。
でも、今となっては、久我さんは着々と準備していたのかもしれない。
自分は表には名前を出さず、税金から逃れ、法の目を潜り、いっぱい儲けた後は、少なくても良いから色々な所から収入を得る事を。
実際、この後、久我さんは秋山から月々50万のオーナー料を貰って1階のお店から手を引く事にしたらしい。
そんなこんなで色々あったが、妃姫ちゃんは記録を達成した。
最終日にA●B48の某アイドルの引退式さながらの空気をお店全体で作り出し妃姫ちゃんはお客さんや女の子達の前で挨拶をした。
皆、泣いていたそうだ。
それを見て久我さんは裏で爆笑しそうになるのを必死で堪えていたらしい。
「親方なんか、いい年して号泣してるし、ミスターなんか壁に顔背けて肩プルプル言わして泣いちゃってるんだもん。こっちは笑いを堪えるのに必死ですよ!!」
人は皆、ドラマを求めている。
お客様の人生はそれぞれ、お客様が主役だ。
だから、彼らは各々こう思っていたに違いない。
「妃姫をやっと手に入れられる。やっと結婚出来る」
うん、残念。
妃姫ちゃんには5年も付き合っている彼氏がいた。
しかも、彼らは、妃姫ちゃんの彼とはお店で接していたのに気付かなかったなんて…
本当にお疲れ様。
だけど、この世界はそう言う世界だから仕方無いのかもしれない。
でも、皆、自分の人生は自分が主役だから、そう思っても仕方ない。
久我さんは、そこを巧妙に利用し脚本を作るのが上手かった。
何にしても『妃姫』と言う一時代を築いたキャバ嬢の卒業は大成功だった。
一通りの片付けを終えた後、1階の女の子とウチのお店の女の子で妃姫ちゃんの送別会をした。
手塚さん、瀬名君、私と一通りのお祝いの言葉を述べ、各自お酒を飲んだり御馳走を食べたりしていた。
「妃姫、卒業おめでとう。」と美咲ちゃんが目の前の席にいる妃姫ちゃんに向かってお祝いを言っていた。
「ウチもいつまで、この仕事出来るかな………」
私、妃姫ちゃんと相次いで記録を立て卒業したのもあって美咲ちゃんに掛かる重圧は大きく、彼女は自信無さげにポツリポツリと呟いた。
その不安を払拭する様に「次は美咲ちゃんの番だね!!」と私は笑顔で言った。
「美咲なら、きっと出来るよ」妃姫ちゃんも頷く。
そして、妃姫ちゃんと美咲ちゃんは互いに手を取り合った。
長年のライバルが互いに認め合い和解した瞬間だった。
お互い、想う所がいっぱいあったのか瞳には涙を浮かべていた。
その時…瀬名君に呼ばれた。
「ちょっと、あの二人…しんみりしてるから盛り上げて来てよ」
(えっ!?…あぁ、そうか。…なるほど)
そうか。美咲ちゃんはトンジー…秋山の元カノ。
妃姫ちゃんは美咲ちゃんから略奪して秋山の現カノ。
確かに二人の間は色々あって複雑なものがあるよね、うん。
瀬名君に呼ばれた後、私はかつての戦友を盛り上げる為に元気良く余ったドンペリをラッパ飲みした。
約5年…お疲れ様でした。
妃姫ちゃんはこの地区で記録的な数字を叩き出して華やかに引退した。
本当に色恋営業の天才とは彼女の事を言うのだと常々、私は思っていた。
中には借金まみれになって自殺した人もいるかもしれないが………
後々、久我さんから教えて貰ったが彼女はほとんど枕営業だったらしい。
前のグループで、ナンバー常連だった美咲ちゃんから秋山を略奪した結果、秋山は二重の風紀代を手塚さんに請求された。
彼女はまだ貧乏だった秋山の為に身を削る努力をして不動のナンバー1となった。
私にはとてもじゃないけど真似は出来ないなと思った。
それだけ、彼女は秋山を愛していたのかもしれない。
私自身は彼女がいたから私は彼女に追い付こうと営業努力を続けた。
知識を増やしたり、心地よい話し方を学んだり、本を読んだりと。
その結果、前のグループで全グループ歴代1位になった。
だけど、それでも彼女の凄さはずっと一緒に働いて来ていたから私は彼女の方が上だと思っている。
本当の彼女の性格は私は分からないが…
それでも前の店で一つの時代を一緒に過ごした彼女に心から言えた。
本当にお疲れ様でしたと。
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