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【わたしと藻嶺#9 クスミエリカさん】

氏名:クスミエリカ
職業:フォトグラファー、ウェブデザイナー、美術作家
卒業年:2005年
学部・学科:文化学部・比較文化学科


プロフィール

▲フォトグラファー、ウェブデザイナー、美術作家、クスミエリカさん

1982年生まれ。北海道札幌市出身・在住。フォトグラファー、ウェブデザイナー、美術作家。
自身が体験した“現実”を記録し、時間も空間も異なる写真を幾層にも重ね合わせ、デジタル処理を施した「デジタルコラージュ」作品を制作。写真以外の素材は一切使用せず、全て自身で撮影した写真のみを用いている。誰もが目にすることが可能な現実の風景を再構成することで、非現実な世界でありながらも、現実・日常の延長線上、あるいは平行線上に存在する世界であることを表現する。

札幌大学在学中の思い出

Q:どんな学生でしたか?とくに心に残っていることなどがあれば教えてください。

図書館に魅了されて

札幌大学の図書館には、哲学などの人文学系の本が非常に多く、さらに書庫の方には古い聖書のレプリカや文芸春秋の第一号などレアな本があります。入学前のキャンパス見学で「ここの図書館、すごく楽しい!」と印象に残りました。本だけでなく、文化学部の先生が置かれたであろう多種多様なDVDの棚も魅力的でした。寺山修司の作品のDVDなどは、その後在学中に結構見ました。

当時の札幌大学は、文化人類学者の山口昌男さんが学長となられ、学長室の壁を撤去したり、彼の蔵書を山口文庫として大学に寄付したり。山口先生と共に文化学部に来られた教授陣も大変個性的な方が多く、また学外を絡めたイベントや講演会なども多数開催されていて、「面白そうだな」と思いました。

私が入学した文化学部比較文化学科のカリキュラムは、民俗学や哲学、社会学など多岐に渡る分野の学問を織り交ぜて学べるものでした。大学で学びたいことを絞り切れていなかった私にとっては、幅広く学べること、そして充実した施設環境(図書館)や刺激的な教授陣が決め手となり、札幌大学へ入学しました。

写真との出会い、写真をきっかけとした出会い

▲写真部の頃にクスミさんが撮影されたポートレート写真(プリントしたものをスキャン)

大学祭でキャンパス内をあちこち巡っているうちに迷子になり、たまたま辿り着いたのが2号館の地下、写真部の展示会場でした。黒い壁面にスポットライトを設置し、モノクロ写真を中心に展示されていて、ジャズが弱く流れていて。「なんておしゃれな空間だろう」と思いました。

すぐ、サークル会館に「入部したいです」と話を聞きに行くと、「自分の撮りたいものをとりあえず1本撮ってみましょう」とフィルムを渡されました。

▲同じく写真部の頃、プリントする際に薬品を吹き付けるというやり方を試した作品(プリントしたものをスキャン)

いつも見ている風景でも、フィルターを通すと普段意識したことのなかった部分が目に入ってきました。その1本のフィルムを撮るだけで写真の面白さを感じられたので、続けたいと思いました。サークル会館には暗室もあり、撮ったフィルムを現像し、プリントするまでの一連の流れを体験し、晴れて入部。それからは、先輩に教わったり自分で試行錯誤したりしながら3年半くらい写真部に所属しました。

学内での写真展が年に数回あったほか、学外の大学との合同写真展もありました。みんなで小樽などへ出かけて撮影を行う集団撮影会、略して「集撮」にも参加しました。一緒に撮るだけでなく、撮ったものを各自持ち帰り、現像して見せ合うところまでが集撮です。そうやって写真のさまざまな楽しさや広がりを知ったのもその時期です。本格志向で熱心な学生が多かったので、同世代や同じ時期に写真部に所属していた先輩・後輩で、プロのカメラマンとしてお仕事されている方も結構多いですよ。

▲サツダイ生だった頃のクスミさん(サークル会館の暗室で作業しているところ)

写真部の中でも、私はとくに部室や暗室に入り浸っていた方で、泊まりで写真を焼いたりしていました。男子が多い中だったので、女子でそれだけ熱心にやっていたのが目立っていたのかもしれません。2012年に初めての個展を開いた時、「調べてきました」と札幌大学の写真部の学生が来てくれました。とても嬉しくてたくさん話していると…「写真部にいたクスミさんは、暗室の薬品の質を確かめるために味見をしていた」という変な噂が伝わっているようで。この場をお借りして訂正しますが、薬品なんて飲んでいませんから!皆さんも絶対口に入れないように!

キャリアについて

Q:大学を卒業されてから現在までのご経歴や、現在のお仕事の具体的な内容を教えてください。

▲フォトグラファー、ウェブデザイナー、美術作家として幅広く活動されるクスミさん

気づいたらカメラマンになっていた

よく「どうしてカメラマンに?」と聞かれますが、実は「カメラマンになろう」、「フリーランスで働こう」と思ったことはありません。その時々で楽しそうなことを選んできた結果、今があります。

在学中に、大学に出入りされていたカメラマンさんと知り合い、「(職場である写真館に)遊びに来ますか」と言ってくださって。もちろん「行きます!」と先輩たちと連れ立って行きました。今度は「興味があるなら現場にも来てみますか」とお声かけいただき、また「行きます!」と。とくに深く考えず、現場をたくさん見させてもらいました。ある時「撮ってみますか」という流れになり、少しずつその写真館の仕事を手伝うようになりました。

「卒業後も写真の仕事ができたら良いな」とぼんやり考えつつ、周りが就職活動するのを横目にフラフラしていました。いわゆるモラトリアム期間ですね。卒業ギリギリというタイミングでその写真館の方から「うちに就職する?」と言っていただき、無事就職先が決まりました。

そうして正社員として就職したのですが、体力的にも精神的にも大変で、実は1年半ほどで辞めてしまったのです。しばらくのんびりしようかなと思っていたら、知り合いのカメラマンの方が「辞めたなら手伝ってよ」と声をかけて下さって。少しずつフリーで写真の仕事を受けるようになっていました。

パラレルキャリアという働き方について

▲クスミさんが所属するクリエイティブシェアオフィス「tab」にて

そうは言っても、やはりフリーランスとしてやっていくには収入に不安がありました。しばらくはアルバイトをしながらフリーで写真の仕事を受けるという状態でした。中でもウェブ制作会社でのアルバイトでは、ウェブ制作の一連の流れを見させてもらったり、商品の物撮りを経験させてもらったりしました。物撮りについては独学なので、現場で試行錯誤しながらなんとかやっていましたが、どうしても困った時は、知り合いのカメラマンの方々に「ハムってどうやって撮るんですか?」などと相談していました。「クスミは今ハムを撮っているのか?」と驚かれながらも親身にアドバイスをいただいて。私には特定のカメラの師匠はいませんが、ある意味その当時付き合いのあったカメラマンの方々全員が師匠です。とてもお世話になりました。

収入面での安定のために始めたアルバイトでしたが、結果としてウェブ制作の知識と経験が身に付き、また写真の仕事の幅も広がりました。それが今のフォトグラファーやウェブデザイナーとしての活動につながっています。

複数の肩書を持つことはメリットもあります。例えば(商売道具である)腕を怪我してしまったら一定期間写真の仕事は受けることができませんよね。仕事ができないと食べていけません。だから写真以外の仕事も持っているとリスクヘッジになります。また、写真の仕事が大変すぎて「もうやりたくないかもしれない」と思った時期もあり、本当に嫌いになってしまったとしても大丈夫なように、もう少し別の楽しいところも探っておこうという気持ちもありました。

一方で「専業の人には敵わない」という気持ちも。とくにウェブの世界は日進月歩で、常に知識をアップデートする必要があります。私の場合は、ある程度はお受けしますが、依頼内容によっては部分的に専業の方にお任せしたり、チームで仕事したりすることも多いです。今、クリエイティブシェアオフィス「tab」に所属していますが、その事務所内でチームを組んで仕事することもありますよ。

美術作家として

▲クスミさんの作品「作品画像:ノスタルジア(2022年)」

私にはもう一つ「美術作家」という肩書がありますが、これも「楽しい」という気持ちがきっかけでスタートした活動です。写真やデザインの勉強のためにフォトショップで色々制作しているうちにその楽しさから抜け出せなくなってしまい(笑)、グループ展で写真の作品だけでなくフォトショップを使ったコラージュの作品も発表するようになりました。

2012年、ちょうど30歳になった年に最初の個展を開いたのですが、友人の「写真展ではなくコラージュだけで見せる展示にした方が良い」というアドバイスによって、デジタルコラージュ作品のみを展示しました。自分の作っているものが現代美術というジャンルに入るという自覚を持ったのはその頃からです。

▲2020年の「わくわく★アートスクール2020  ファンタジー×リアリティ クスミエリカ」 本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌)にて
▲2022年の「Through the eyes of Hokkaido Artists」 絕對空間/Absolute Space for the Arts(台湾)にて

複数の素材(包装紙や新聞の切り抜きなど)を組み合わせて一つの作品に作り上げるコラージュという美術の手法があります。私が作るコラージュは、自分で撮影した写真を素材として使い、パソコン上でフォトショップを作って制作します。写真編集の範疇に留まる程度の合成的な処置(例えば影を足したり形を整えるなど)はしますが、描画などは一切行いません。分かりやすいようにコラージュという言葉を使っていますが、写真作品でもあります。

そもそも私が写真に興味を持ったのは、日常の一部をただ「切り取る」だけで、それが表現手法になるという驚きからでした。その面白さが、美術作家としての作品制作の原点にもなっています。コラージュでは、選択するタイミングこそ違いますが、「自分の感覚で何かを切り取り選択する」という意味では写真であると言えます。それが私にとっての写真の定義であり面白さです。肩書はさまざまですが、どれも写真を軸としている点では共通しています。

札幌大学の後輩に向けたメッセージ

Q:札幌大学の後輩や同窓生に向けてメッセージをお願いします。

▲アーティストが転校生として学校で子どもたちや先生と交流する「おとどけアート」の様子

大学3年生の時、所属ゼミのマーク・ジボー先生から依頼され、文化学部の先生方全員のポートレート写真を撮らせていただいたことがありました。先生方の研究室に伺い、一人ひとりの写真を撮らせていただいたのですが、本当に個性的な方が多かったです。さまざまなことを主軸として生きている大人の方々と出会い、交流を持てたことは、私にとってとても良い経験になっています。

就職活動、就職、出世、プライベートでは結婚、出産、家の購入など、人生におけるスタンダードな道ってありますよね。それを選ぶことはもちろんとても素敵なことですが、そうではない生き方もたくさんあります。現に私はそういう道を全てはずれて生きてきましたが、なんとかできています。大丈夫です(笑)。

行き当たりばったりでも、それが許されるのが大学時代なのではないでしょうか。スタンダードな道から外れたからと言って、絶望する必要はありません。色々やりようはあるので、ぜひ大学時代に好きなだけフラフラして、色々な大人と関わってみてください。

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