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『一人称単数』(村上春樹)「謝肉祭(Carnaval)」を読んで。⑥

 村上春樹、6年ぶりの8作品からなる短編集です。自分は村上春樹好きで、本書を1作品ずつ紹介しています。ネタバレあり閲覧注意です。今回は6作目「謝肉祭(Carnaval)」。これは面白かったです。

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【あらすじ】
 僕は50歳、その「美しくない」女性は、10歳ぐらい年下。とある演奏会で友人の紹介で出会う。音楽についての会話の中で、究極のピアノ曲として、僕はシューマンの『謝肉祭(カーニバル)』を選んだ。

 彼女は既婚者で、高級マンションに住み、身なりも良く、会話のセンスもある。何度か「謝肉祭」の会合を続けるが、ある日連絡が取れなくなった。ひと月ほどして彼女の姿を見たのは、ニュースで逮捕される姿だった。

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【解説】
 すみません、この物語はネタバレ全開でいきます。正直に言うと、読後感が少し悲しい物語でした。その「美しくない彼女」が逮捕されたのは、純粋に残念です。ただ残念が故に余韻が残る物語でした。

 冒頭は「彼女」の説明から入ってます。本文ではもっと直接的に、「知り合った中で最も醜い女性」という表現を使っています。こういう言い方は、言葉にも文章にもしにくい表現でちょっと困りますね。

 この物語の主題は仮面。外見が中身を隠す、というイメージです。裕福に見えた彼女は、結局は詐欺で逮捕される。美しいのか? 醜いのか? それは外見なのか? 中身なのか? 想像は膨らみます。

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・醜い外見だが ⇔ 音楽の知識など豊富な、美しい人間性
・裕福な暮らし ⇔ 詐欺で稼いだお金

 更に本書では、補足内容として、逮捕された「彼女」の相棒である夫は、モデルかと思えるぐらいの年下の美形男性であった、ということと、主人公の僕は若い頃(20歳)、あまりかわいくない女の子を紹介され、「かわいくないから」という雰囲気で、連絡をしないという対応をしてしまう(実際は過失で連絡が取れなかった)過去。この二つが補足場面になります。

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【感想】
 美しくはない彼女だったけれど、人間性は美しかった。そのような物語を期待していました。単純ですが。 ただ本書では、最後にどんでん返しが入って、その彼女は詐欺で逮捕されてしまいます。

 シューマンのカーニバルは『天使の仮面』と『悪霊の素顔』が見える曲、という比喩で使われています。シューマン自身の表裏を込めた楽曲。本書、彼女の詐欺行為の下には、更なる「美しい」素顔があったのでしょうか?


【読書感想文31冊目】


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