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深夜のドーナツショップで

ドーナツショップでアルバイトをしていた。

深夜と早朝は少し時給が高くなるので積極的に深夜帯にシフトを入れた。

━━ううん。時給が高くなるから、なんてのはウソだ。

当時好きだった人が深夜の担当だったから。

閉店前から少しずつ閉店準備をして、23時で完全にクローズになるとテーブルの上に椅子を逆さに乗せ業務用の掃除機で店中をピカピカにする。ポップなBGMは消え、1日の営業を終えた店内も私たちも心地よい疲労でまったりとしている。

その日余ったドーナツは捨てる。

「もったいない」と言ったらその人は「持って帰りなよ」と笑う。もちろんルール違反だけど、たくさん持って帰らせてもらった。

がらんとした店の中を二人で掃除するのは楽しかった。それはたぶん私だけだったのだけれど。

帰りは0時頃になるので、彼は遠回りをして私を家まで送ってくれた。2つ年上の近隣の大学生だった。口数の少ない人で私が何かしゃべると「はははっ」と猫背で笑う。九州出身だって言ってた。

閉店後のそうじと深夜の散歩のような帰り道(たっぷりのドーナツ付き)は十代の私にとっては最高に楽しい夢みたいな時間だった。夜空がそう思わせた部分は大きいと思う。

そういう夜が何日も続いて、ある天気のいい夜に楽しい気分が止められなくなった私は(好きって言いたい!言いたい!)となってしまった。レイザーラモンRGが「あるある言いたい」と歌う感じで。流れでうっかり夜道で告白をしてしまったが、

「妹みたいにしか思えない」

という無難なセリフで断られ私のハートは夜道に砕け散った。

その後すぐ、その人はバイト仲間の高校1年生の女子とつき合っていることが明らかになった。商店街のそば屋の娘さんで、私も知っている子だ。

「・・・私には妹みたいだからなどと断っておいて、高校1年生とつきあうたぁ、いい根性してるなあ!おい!! もう二度と深夜シフトなんか入るかい!おんどりゃあ!」

と心の中で叫び、来月のシフト申し込み票に早朝シフト希望と強い筆圧で書いた。

早朝のドーナツショップは深夜の店とはまるで違うきびきびとした空気で、「いらっしゃいませ」でなく「おはようございます」とお客に声をかけるのも新鮮でよかった。

ものすごい早さで朝の女にもどった私だったが、深夜の余ったドーナツで増えた体重とちょっぴりの胸の痛みはなかなか消えないのであった。

女の子たちよ、深夜のドーナツショップには気をつけた方がいい。

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