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つまり、佐藤の本棚。

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今まで読んできた本にまつわる「記憶」の記録です。
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#エッセイ

「宮澤賢治 最後の手紙」 社会人のための日本文学入門(6)

今回紹介するのは「宮沢賢治の手紙」です。宮沢賢治というと、銀河鉄道の夜、風の又三郎、注文の多い料理店など、多くの素晴らしい作品がありますけれども、今回は「手紙」をとりあげ、言葉について色々と考えてみたいと思います。 それでは、さっそく紹介します。 どうか今のご生活を大切にお護り下さい。 上のそらでなしに、しっかり落ちついて、一時の感激や興奮を避け、  楽しめるものは楽しみ、苦しまなければならないものは苦しんで 生きて行きましょう。 (宮澤賢治 柳原昌悦氏宛の手紙より一部抜

古本をめぐる冒険「春と修羅 宮沢賢治」

わたくしが「古本の装丁」に興味を持つきっかけになったのが「春と修羅」でした。しかし当然のことながら、初版本はとても手がとどく金額ではありませんでしたので、復刻版を探すことにしました。何軒か古書店を巡ったり、ネットで検索したりして、ようやくこの一冊に出会えた時は「お宝を発見!」したような気分になったことを覚えています。 布の表紙にアザミが描かれています。賢治は「青黒いザラザラの布」を探していたらしいのですが、実際に見つけてもらったのは「まったく違った色の布」だったそう。すると

古本をめぐる冒険「性に目覚める頃 室生犀星」

最初に「性に目覚める頃」という題名を目にした時「性教育に関する内容なのか。それとも性欲に悩む主人公の葛藤を描いた作品なのだろうか」と。そして、機会があれば読んでみたい、と感じたことを覚えている。 今年の春に金沢へ旅した時、雨宝院で「この作品は、編集者のアドバイスで変更したそうです」と教えていただいたのだが、編集者の方は良い仕事をされたと思う。この題名だけでも(もちろん、すばらしい作品であることはいうまでもない)魅力が大幅にアップしていると感じる。実際に私も、こうして紹介

四十年間、探していた本。

小学一年生の時、図書館で借りて読んだ本があった。それは、奇妙で不可思議で、今までに目にしたことのないような言葉が並んでいて、わからないところも多かった。それでも、どこか惹かれる部分がある。もっとこのような世界を探検してみたい気がする。そんな雰囲気のある小説だった。 「もう少ししたら、また借りて読んでみよう」 小学校一年生の僕は、そう考えて本を閉じた。しかし、転校などで環境が変わったこともあり、その本を借りて読むこともなく小学生は中学生となり、社会人になっていた。 題名も

古本をめぐる冒険「吾輩は猫である 夏目漱石」

多くの日本人が知っている小説のひとつといえば「我輩は猫である」であろう。書き出しの「我輩は猫である。名前はまだ無い。」も、空で言える人も多いと思う。そんなにも著名な作品であるにも関わらず「読んだことがない」「あらすじさえ、わからない」という人も多いのではないだろうか。 いや、別に責めているわけでも上から眺めているわけでもない。このようなことを書いている私自身「我輩は猫である」を完読できたのは、社会人になってからだった。それまでに何度も挑戦しては、途中で挫折してしまっていた。

最終回:佐藤の本棚100冊目「明暗 夏目漱石」

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。100冊を目指して更新してきた「佐藤の本棚」。ようやく100冊目に到達しました。時代は平成を越え令和となってしまいましたが、なんとか締めくくることができました。 予定通り「佐藤の本棚」は、ここで更新を終了します。次は何に挑戦しょうか? いや、わざわざ挑戦する必要もないのですが、何かしら新しい「はじまり」を探ってみたいと思います。 さて最後の100冊目に登場するのは「夏目漱石 明暗」です。どうぞご覧ください。 明暗 夏目漱

((僕の手元には「一冊の古い本」だけが残った)

今から15年以上前の話。その時僕はある古本を探していた。数ヶ月ほど地元の古書店を回ってみたものの見つけることができず「縁があれば、いつか出会えるかもしれない」と半ばあきらめの気持ちになっていた。 当時ホームページに設置していた掲示板に「〇〇を探しているけれど、なかなか見つからない」と書き込んでみた。何か新しい情報が得られることを期待したわけではなく、ただつぶやいてみたのだった。 数日後ある方から「〇〇なら、△△に在庫がありましたよ」とコメントが書き込まれた。それを

佐藤の本棚99冊目 「鼻 芥川龍之介」

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。100冊を目指して更新してきた「佐藤の本棚」も99冊目となりました。目標まであと1冊。だいぶ前から「100冊目はあれにしよう」と考えていたので、あとは迷いなくゴールに駆け込むだけです。 ひとまずこの「佐藤の本棚」は、100冊で終了する予定ですが、最後に何か「特別企画」のようなものをやってみようかな、とも考えています。いや、特別なことをせずに、なんとなくゴールしてなんとなく消え去っていくのが「自分らしい」のかな。リクエストなど

佐藤の本棚98冊目 中原中也「夏と悲運」

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。この文章を書いているのは8月の1日。つまり夏真っ盛りの時期です。子供のころは30度を越えると「やばい! 今日は暑いぞ!」と騒いだものですが、最近では30度はあたりまえで、35度を越える日も珍しくなくなってしまいました。 ちょっと外を歩くだけでも、暑さに押しつぶされて、背中が丸くなっていきます。すごい勢いで冷蔵庫の氷が消費されていきます。家に帰ってシャワーを浴びる瞬間が至福の時です。みなさんどうぞご自愛下さい。 そしてこの「

同じ星 太宰治 【読書日記 九十七冊目】

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。私ごとで恐縮ですが、今月は私の誕生月になります。すべての人に必ず存在する誕生日ですが(当然ですね)この年齢になってくると「え?もう誕生日になるの? オレって何歳?」と、時間の流れる早さについていけず、自分の年齢さえも曖昧になっていきます。 先日、免許の更新に行ってきたのですが……、と長くなりそうなので、この話題は別のところで書いてみたいと思います。さて、そんなわけで今回は「誕生日」にちなんだ内容の作品「太宰治 同じ星」を読ん

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 島田荘司 【読書日記 九十六冊目】

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。今回紹介する作品は、あの文豪と名探偵がロンドンの街で出会い、事件を解決していく、ちょっと風変わりな物語です。二人(正確には三人)の会話が、リアルでコミカルで、読んでいると自然と頬が緩んでしまいます。 そして「読書日記」も、目標の100冊まで残り4冊! ゴールラインが手の届く位置に見えてきました。ここまできたら、あとは足を前に運ぶだけ。淡々と進んでいきたいと思います。 漱石と倫敦ミイラ殺人事件 島田荘司 大学生だった頃の話。

性に目覚める頃 室生犀星 【読書日記 九十五冊目】

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。令和となり、最初の「読書日記」更新です。五月の連休に、金沢の雨宝院(犀星が生活をしていた場所)を訪問した時のことを、思い出しながら書いてみました。読んでみてください。 目標の100冊まで残り5冊! ゴールにむけて、じっくりと楽しみながら積み上げていこうと思います。最後まで、よろしくお付き合いください。 「性に目覚める頃」 室生犀星高校生のころの話。僕は「文学史」のテスト対策として、作品と作者名を暗記していた。 「蟹工船 

【読書日記 九十四冊目】 厠のいろいろ 谷崎潤一郎

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。100冊を目指して更新を続けてきたこのブログも、今回で94冊目、のこり6冊です。平成のうちに完結することを目指していたのですが、どうやら令和まで持ち越しになりそうです。というか、なります。とりあえず100冊のゴールへ向けて、淡々と更新していきたいと思います。 今回は「厠 =トイレ」の話です。大丈夫な状況の方のみご覧ください。 厠のいろいろ 谷崎潤一郎今回は「厠 =トイレ」についての話である。清涼(?)な話ではないので、気に

【読書日記 九十三冊目】 春の夜 芥川龍之介

こんにちは、コピーライターの佐藤(さったか)です。100冊を目指して更新を続けてきたこのブログも、今回で93冊目、のこり7冊です。ラッキーセブンです。だからどう、というわけではないのですが、今回も淡々と更新したいと思います。 みなさんは「自分にそっくりの人」がいたら、会ってみたいと思いますか? 見た目だけでなく、年齢も仕事も趣味も住んでいる環境も。私の場合は・・・。 春の夜 芥川龍之介会社勤めをしていた時の話。私はいつものように駐車場に車を停めて会社へ向かっていた。エレベ