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社長の始末書 21 枚目〜時速285kmの自責〜

綺麗に掃除をしてから出ました

あなたは新幹線のトイレの中で、声を出して泣いたことがありますか? 

恥ずかしながら、私はあります。

しかも、泣いたなんてもんじゃありません。

大声で号泣しながら、吐きもしながら(お食事中の方はごめんなさい)、便器にずっとしがみついていたことがあります。

※これは私がネットでデマを流されたり、誹謗中傷を受けたりする以前のお話です。

さて、PCソフトの使い方を教える内容から、デザインのノウハウを伝える内容へ。私の職業経験から得た実践的デザインノウハウを伝える映像教材は、ウォンツ史上初のヒットとなりました。

「アタリを引いたら拡張」はビジネスにおける鉄則です。私は鼻息荒く、一気呵成に攻めに転じました。

販売実績を活かして国内有数のデザイン専門学校に営業に行ったり、出版社に持ち込んで書籍化の提案を行ったりと、いわゆる「横展開」を狙っていったのです。

しかし、それらはいずれも実を結びませんでした。それどころか、会社の売上はまたもや下降し始めました。じつはこの頃、私達のような映像教材を販売する会社にとって、誰も経験したことのないような逆風の時代に突入していたのです。

台風の目は、YouTubeでした。この動画サービスの大流行によって、様々なノウハウを無料で観ることができるようになったのです。その圧倒的パワーに、私はなすすべもなく完敗したのでした。

ちなみに後日、日清食品さんの二代目社長が書かれた本を読み、この当時の私を思い出し、自分の無様な失敗の原因をまざまざと見せつけられたことがあります。

そのご本によれば、日清食品さんは自社の主力商品だった「カップラーメンをぶっつぶせ!」をテーマに対抗商品を開発したとのことで、それで大ヒットしたのが「どん兵衛」や「焼きそばU.F.O」なのだそうです。

社内で共食い状態になるリスクを顧みずに新商品を作ることにより、どちらの商品も活性化した好例です。同じような事例として、KIRINさんにおけるラガービールの社内対抗馬として企画し大成功を収めた「ハートランドビール」があります。

そうです。本来であれば私はYouTubeにこそ、新作の映像教材を思い切り投稿していくべきだったのです。が、気づいたときにはもう手遅れでした。私はその意味で「ウォンツをぶっ壊せ!」と言ってくれたどんちゃんの期待に沿うことができなかったのです。

会社は再び倒産の危機に立たされました。そしてついに、社員のお給料も払えない程の苦況に陥ってしまったのです。

もう、絶望しかありませんでした。明るい未来など全く想像できない、真っ暗闇の状態です。私にはやはり経営の才能なんて全く無かったんだと、自分を責め続けました。

その中で社長としての責任を果たすためには、まず自分の給料をゼロにすること。そして、スタッフ一人ひとりと誠実にお話をすることしかありません。

重苦しい空気の中、全員に現状を隠すことなく伝え、近々減給になる可能性があること、それにより退職を決断されてもやむを得ないと思っていること、もし転職を希望する際は全力でサポートします、という話を個別にしていきました。

しかし、結果、退職希望者はゼロでした。あるスタッフは、私の謝罪の言葉を遮るように「お給料は好きにしてください。私は辞めません。一緒になんとかしましょう!」とまで言い切ってくれました。

私はその場で泣き崩れました。

あれほど苦しい状況に陥ってなお、私とウォンツを支えようとしてくれた仲間達は、私の一生の恩人です。

ですが、現実は、これでもか! という程シビアでした。支出を極限まで切り詰めても収入自体が増えないものですから、好転の兆しは一向に見えません。

それにつれて、私の精神状態もだんだんおかしくなっていきました。

心は常にお金に追い立てられ、休まるときがありません。毎晩深夜まで事務所に一人ポツンと残って仕事をしていました。私はもともと腰痛持ちなのですが、座っていることもできないほど腰が痛くなり、それでも我慢していると、今度はひどい頭痛がやってきます。

深夜に家に帰っても、心は休まりません。眠れないのです。いや、本当は眠ることが怖かったのです。毎回、ひどい悪夢を見るからです。いろんな人に罵倒される夢です。

そうやって心が荒んでくると、物の見方や考え方も歪んできます。今では信じられないのですが、会社の仲間や、家族さえも敵に見えてきたのです。

「みんなが僕をバカにしている」と思い込み始めると、もうどんな顔をして会社に行けばいいのかすら分かりませんでした。

なにより耐え難かったのは、お給料が減ったことで、スタッフのご家族に迷惑をかけることでした。会社とスタッフは二人三脚ですが、そのご家族、ましてや子ども達には何の落ち度もありません。

そんなある日、新幹線に乗っていると、小さなお子さまを連れたご家族が通路を挟んだ隣の席に座られました。お子さまは3歳くらいでしょうか、当時の私の子どもと似た年齢で、可愛い盛り。思わず目を細め、微笑んで眺めてしまいました。

「なんて幸せそうなんだろう。ずっとこうやって、このご家族みんなが幸せに暮らせますように。」

こうやって見ず知らずの人の幸せを祈ること。これは随分昔にどんちゃんから教えてもらい、それ以来私もクセでやっていることです。それは私が心の中で勝手にやっていることですし、別段問題はないと思うのですが、このときは少し様子が違いました。

そのご家族の顔が、先日お給料の減額をお願いしたスタッフの家族の顔に徐々に置き換わっていったのです。それはまるで映画のモーフィングのような滑らかさでしたが、すごく恐ろしく、衝撃的な映像でした。

その瞬間、私はパニックに陥りました。

「私のせいで、この家族が子どもと一緒に暮らせなくなってしまう!」

その悲しみが全身を駆け巡った瞬間、身体がバラバラに千切れそうになりました。そこから呼吸がおかしくなってしまい、うまく息ができません。冷や汗も出てきました。それでもなんとか我慢をしていたのですが、今度は吐き気を催してきました。

たまらず席を立ち、泳ぐようにトイレに駆け込んで、繰り返し吐きました。しばらくすると吐くものも無くなったのですが、まだ吐き気だけは収まらず、涙も出てきて止まりません。自分の吐瀉物にまみれながら、思いました。

「ーーー僕なんて消えてしまえばいいんだ!」

便器にすがりついて、ただ泣き続けました。

情けない話です。

しかし、底を打てば必ず上がってくるものがあります。それは人生のバイオリズムというか、なにかしらの周期のようなものがある気がします。

ジェットコースターのような人生を送ってきた私の経験上、状況がずっと下がりっぱなしなんてことはありません。

だからいま辛い思いをしている方がいらっしゃったら、どうぞ安心してください。あなたの人生はきっと良くなります。

ちなみに私の場合、そのとき底から浮上してきたのは、どんちゃんという名の潜水艦でした。(謎)


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