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社長の始末書 26 枚目〜オリジナル人事評価制度の破綻(前編)〜

いまだに夢に見ます

売上の急降下。

その原因は、優良顧客の退会が急激に増えたからだと分かりました。

私は早速、特別対策チームを組み、お客様が退会される理由をくまなく調べました。

そこで見えてきたのは、顧客満足度の著しい低下です。

当時のウォンツは急激に売上規模が伸びたため、しっかりとした教育機会を作れておらず、スタッフはみな、見様見真似、つまり自己流でなんとか仕事を回している状態でした。

自主的に勉強をする時間もない中、スタッフは独自にルールを設け、「会社のため」という理由で、お客様の利便性を後回しにさえしてしまっていたのです。

ECサイトのコンテンツも、中身よりも社内の納期優先。何より大事なお客様のワクワク感を作ることの優先度が低くなってしまっていました。

あらゆることがお客様都合ではなく、自社都合に成り下がっていたことに気がついた私は愕然としました。ECの巨人であるamazonは「顧客第一主義」を強く掲げていますが、私たちは比較できないほど小さなスケールなのにも関わらず、当時は「自社第一主義」に陥ってしまっていたのです。

これではファンも減っていくはずです。

もちろん悪いのはすべて私です。スタッフに必要な教育機会を与えず、彼らの仕事内容にも細かく目を配ることができていませんでした。日々の声がけも万全とは言い難く、ある意味スタッフをほったらかしに近い状態にしてしまっていたのです。

その原因として、私が反省とともに思うのは2 つ。

ひとつめは、会社のvisionやmissionが未成熟だったことです。

もともとパソコン教室からスタートし、教材販売事業を営んでいた私たちがEC代行会社に事業変更をした段階で、「すべてにおいてお客様の喜びを最優先する」というvisionやmissionをECというフィールドに置き換え、社内に周知徹底させるべきでした。

私はそれを怠っていたのです。

ちなみにこの問題は取締役である青木(みっこちゃん)からも度々指摘を受け、その都度私なりにバージョンアップはしていったのですが、なかなか良いものが出来上がりませんでした。リーダーとして、みんなの腑に落ちる方向性を示せなかったのが心底悔やまれるところです。(現在は、当時副社長だった伊藤とともに作成済みです)

そしてもうひとつの問題はやはり、この始末書にもたびたび出ている、私の業とすら言える「コミュニケーション不足」にありました。そうです。これは数ヶ月前に私がスルーしてしまったサインでもあります。

それまで私はスタッフ一人ひとりと深く話しをする機会をあまり作ってきませんでした。そればかりか、私自身も自分の忙しさにかまけて「ボクも忙しいんだから」という最低の言葉を使うほど、周囲に対して心無い態度を取るようになってしまっていたのです。

A事業における「顧客軽視」の問題は調べれば調べるほど、山のように出てきました。それらを一個ずつ丁寧に、しかしスピーディーに改善しながら、私は決心しました。今後は、なにがなんでもスタッフとの会話を重視していこう、と。

しかし私は生来、人の気持ちを察するのが不得手で、人付き合いに対して強い苦手意識があります。

一体どうすれば良いのだろう?

そう悩んでいたとき、ふとスタッフとの対話自体を会社の仕組みの中に取り入れてはどうだろう? と思いつきました。

そこで色々調べた結果たどり着いたのが、ある有名な人事評価制度でした。それは上司が社員一人ひとりと対話をしながら、それぞれの目標や課題を一緒に設定していくというものです。

スタッフの目標を設定すること自体が上司と部下の共同作業ですから、自然と対話も増えて一石二鳥です。さらに、その目標達成に対しての評価も継続して行っていくため、スタッフとずっと関わり続けることができます。

継続的な会話が増え、目標も作れ、スタッフは自主的に成長し、会社の業績もアップする。そしてその成長を評価して給与も算定していけば、みんなに公正な昇給チャンスを作ることができる。

これだ! これしかない!

私の「やる気ギア」はいきなりトップに入り、猛勉強を始めました。一気に何冊も本を読み、東京までセミナーを受講しに行ったり、著名な先生に会いに行って直接疑問点を聞いたりしました。おかげで私の知識は爆発的に増え、制度を社内へ導入することへの自信も付いてきました。

さらに私は、元々の仕組みをウォンツに適したものになるように大幅なカスタマイズも施しました。これは私と会社の運命を変える一大プロジェクトだと捉え、3 ヶ月以上、不眠不休でオリジナルの「目標設定型の人事評価制度」を作り上げました。まさに自信作、と胸を張りたいような出来栄えでした。

改めて、この人事評価制度導入の目的をまとめると下記の通りです。

  1. みんながやりがいをもって楽しく仕事ができる環境を作ること

  2. 一人ひとりが上司(社長)と同じ目標を目指し、一緒に成長していくこと

  3. お客様を喜ばせることで業績アップを達成し、給与に還元すること

そして私の個人的な使命として、「スタッフみんなと定期的に対話をする時間を持つこと」を胸に刻み、いよいよスタッフとの個人面談を開始しました。

周到な準備を重ねた甲斐があり、滑り出しは順調でした。私の理想に強く共感してくれたスタッフもおり、確かな手応えを感じました。私は面談が終わるたび、心の中でガッツポーズを繰り返しました。

しかし、面談人数が10 人を過ぎたあたりで、なんだか雰囲気が変わってきました。ある中堅スタッフからこんな意外な声が出てきたのです。

「社長。私はこんなに頑張っているのに、まだ頑張れって言いたいのですか?」

明らかな不満顔でそう訴えるスタッフの強い剣幕に驚きつつも、私はこう答えました。

「いや、もちろんすごく頑張ってくれていることは分かるよ。でも、ご存知の通り業績は悪化してきているし、正直会社の雰囲気も悪くなってきているよね? だから頑張り方を変えなきゃいけないと思ったんだ。

決してあなたが頑張っていないと思ってるワケじゃないよ。でもまずはあなたと一緒に目標を立て、問題を解決していきたいんだ。」

と理解を求めたのですが、なかなか私とスタッフの思いは交わりませんでした。

お恥ずかしい話ですが、そんなやりとりを重ねているうち、あまりの平行線っぷりにお互い感情的になり、ついにはちょっとした口論になってしまうことさえありました。社長のくせに、私はなんて大人げないことをしたのか、心から自分を情けなく思います。

ただ、自己弁護するわけではありませんが、私としてはみんなの幸せのために全身全霊で作った評価制度です。スタッフにはメリットしかないはずなのに、反論を出してくる心情がどうしても理解できませんでした。

私の説明が悪いのか、どれだけ言葉を尽くしても、いや尽くせば尽くすほど、相手の感情は荒ぶってきてしまうのです。

数名ではありましたが、評価制度に不満を持つ彼らとの心の距離はあっという間に開いていきました。

やがて、その険悪な雰囲気は他のスタッフにも伝わっていることが耳に入ってきます。私は社内が抜き差しならない事態に陥っていることを感じ、心が寒気立つ思いでした。

しかし、必ずみんなのためになるこの評価制度をストップさせるわけにはいきません。誰しも話せば分かるはず! 

私は会社の明るい未来のために、不退転の気持ちで立ち向かっていったのです。


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「社長の始末書」1 枚目から読んでいただける方はこちら↓


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