もう一歩、踏み込んでみようか (12)
20年ほど前に同居を始めて、私は、気が付いた。
母が理系頭の持ち主である、ということに。
とはいっても、神経衰弱がすこぶる強いというだけだが。。。
約束通り「数独」を購入し、コピーを持って、見舞い。
いつものように、斎藤さんと二人で、食堂の定位置に掛けている。
齋藤さんは、塗り絵をしていた。
そして、母の前には、病院の談話室から借りてきた書籍が一冊、伏せられている。読んだ振りしてんなっ。と思ったが、そこは、つっこまない。
「数独」を手渡すと、早速、数字を書き込み始めた。
齋藤さんが、母の手元を覗き込んで、「速いねっ!」と言った。
私も、そう思った。
「齋藤さんも、一枚どうですか?」と手渡すを、手帳を取り出して、「数独」の切り抜きが張られたページを見せてくれた。
二人分コピーを用意すべきだったかな、と思っていたので、ホッとした。
「婆様、加奈子だけどさあ。仙台のお義母さんは、もうリハビリを始めてるようで、思ったより元気みたい。」
「ほうか。」
「でも、お義父さんが気弱になっちゃってるみたいで、もうしばらく、仙台に居ることにしたよ。」
「ほうか。」
「兄夫婦も同居してるんですけど。。。」
私は、斎藤さんに視線を移して、言った。
「こういうときは、やっぱり娘がいいようですね。」
「そう。私も、今回の入院で、ホントにそう思います。」
「あはっ。ウチは、切られちゃいましたけどね。」
齋藤さんは、慌てて目を伏せた。
ワシも、ブラックじゃね。
咄嗟に憂さを晴らせるのは、性格の悪い証拠じゃね。
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