榊 寿(Hisashi SAKAKI)

まずは、92歳の母のことを書いてみます。

榊 寿(Hisashi SAKAKI)

まずは、92歳の母のことを書いてみます。

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もう一歩、踏み込んでみようか (1)

「もぉええ、早くお迎えが来んかなぁ。。。 こうやって、生きとっても何にもならん。。。 皆に、迷惑をかけるばかりだ。。。」 「婆(ば)さま、また、そんな憎まれ口叩くんだったら、帰るよ。」 私は、傍らに立つ妻に目配せして、立ち上がった。 妻は、「じゃあ、お義母さん、明日、また来るね。」と言って、カーテンに手を掛けた。 私は、それ以上口を開くことなく、病室を後にした。 妻の運転する車の助手席で、「アレやられると、嫌になっちゃうよな。」とぼやいた。 「ねっ。気合を入れて、リハビリに

    • もう一歩、踏み込んでみようか (15)

      「人生に命を吹き込んでくれるのは、損得ではない。」 「それは、責任感ではないのか。」 韓国映画『国際市場で逢いましょう』を見ながら、トーストを頬張る日曜日の朝。 時計に目をやると、11時ちょい前。 日曜日なんだから、何時に病院へ行っても構わないのだが、この時間が習慣になってしまったようだ。 映画を見ながら僕は、『素晴らしき哉、人生!』のジョージ・ベイリイを思い出していた。 そして、三姉妹の次女であり、実質家長であった母を思い浮かべていた。 『責任』を積極的に取りに行った人

      • もう一歩、踏み込んでみようか (14)

        心筋梗塞で救急病院に運ばれた義母の見舞いと、ずいぶん気弱になってしまった岳父の世話の為、仙台の実家に帰省中の加奈子。 そんな加奈子から、朝一番で電話があった。 母が病院で転び、耳の後ろから出血したという。 骨折等も無く、大したことはなさそうだが、血の付いたパジャマを見たら驚くかもしれない、と考え、病院の担当者が加奈子の携帯に連絡をくれたのだ。 加奈子は先週木曜日の最終の新幹線で仙台入りし、その後、義母の見舞いを始めたのだが、3日目には、LINEにこんなメッセージが届いた。

        • もう一歩、踏み込んでみようか (13)

          「もう90歳を過ぎたら、何やっても無駄だわ。」 「婆様、あの人、見てごらん。」 私は、隣のテーブルに座るお婆さんを指さした。 お袋と同じくらいの年恰好で、お袋よりも若干シャンとしていない。 でも、昨日、この方を見ていて、思った。 この人は、「ちゃんとしてる」っと。 テーブルの上に、ノートと手帳が揃えて置かれ、ボールペン2本が手帳の上で几帳面な姿勢を保っている。 不自由な指先に力を込めて、車いすのロックを外し、テーブルの上の手帳に正面から向き合えるよう、車いすを微調整してい

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        もう一歩、踏み込んでみようか (1)

          もう一歩、踏み込んでみようか (12)

          20年ほど前に同居を始めて、私は、気が付いた。 母が理系頭の持ち主である、ということに。 とはいっても、神経衰弱がすこぶる強いというだけだが。。。 約束通り「数独」を購入し、コピーを持って、見舞い。 いつものように、斎藤さんと二人で、食堂の定位置に掛けている。 齋藤さんは、塗り絵をしていた。 そして、母の前には、病院の談話室から借りてきた書籍が一冊、伏せられている。読んだ振りしてんなっ。と思ったが、そこは、つっこまない。 「数独」を手渡すと、早速、数字を書き込み始めた。

          もう一歩、踏み込んでみようか (12)

          もう一歩、踏み込んでみようか (11)

          「加奈子さんのお母さんは、どう?」 数年前に要介護の認定を得て、一時はボヤッとしていた時期もあったが、最近、頭がすっきりしているようだ。 私一人で見舞いに行くと、「加奈子さんはどうしたのだろうか?」と思うといけないと考え、義母(加奈子の母)が先週木曜日に心筋梗塞で救急病院に運ばれ、今、入院中であることを母に伝えたのだが、その報告内容をしっかりと記憶しているようだ。 「まあ90歳を超えてるから、手術はできないようだけど、今は、落ち着いたようだよ。」 「ほうか。」 「加

          もう一歩、踏み込んでみようか (11)

          もう一歩、踏み込んでみようか (10)

          「もう退院できるの?」 私が見舞いに行くたび、母の第一声は、これだ。 「まだ、あと2ヶ月はリハビリだよ。」 「そかー。」 車いすの母が、いかにもがっかりしたように、大きなテーブルに大袈裟なほどに上半身を倒れ込ませる。 「退院したら、寿のところへ帰ろうか?それとも見栄のところへ帰ろうか?」 私は知っている。 このテーブルには、母を含めて5人の患者さんが座っている。 食事の時の席だから、恐らくお馴染みの方々だ。 母は、見栄っ張り。 息子の元へ帰ろうか。娘の元へ帰ろう

          もう一歩、踏み込んでみようか (10)

          もう一歩、踏み込んでみようか (9)

          昨日は、お袋さんの誕生日。 92歳である。 おめでとうございます。 救急病院からリハビリテーション病院に転院。 新しい習慣を作って下さい。 もちろん全力でサポートします。 つづく

          もう一歩、踏み込んでみようか (9)

          もう一歩、踏み込んでみようか (8)

          加奈子が、見栄(寿の姉)からのメッセージをじっと見つめている。 「寿は血が繋がってるから、辛いね。」とポツリと言った。 そして、携帯を寿に渡した。 寿は、深く考えて(この↑)メッセ―ジを送った。 辛辣な内容であることも理解していた。 ある程度の反撃を覚悟していた。 そして、ある種の期待もしていた。 結果は、「渡りに船」といったところか。。。 相変わらず、自分のことだけしか考えられない人なんだ。と寿は想った。 この時、寿は、悔しさとか、呆れとか、何らかの意味を成す感情

          もう一歩、踏み込んでみようか (8)

          もう一歩、踏み込んでみようか (7)

          究極の場面で、義を通すか、己を守るか。 義を一切考えず、只管 己を守る人には、勝てないのかも知れない。 「利は義を通した先にしかない」、と考えて生きてきたが、この考え方が正しいのかどうか、と考えさせられる一日でした。

          もう一歩、踏み込んでみようか (7)

          もう一歩、踏み込んでみようか (6)

          「夢かっ!?」 僕は、栗山監督の言葉を思い出していた。 ほんの数年前、僕は、お袋が疾走している後ろ姿を見たことがある。 普段ヨロヨロろとお年寄り風に歩くお袋が、車の通りが途絶えた一瞬をとらえて、道路の向こう側へと駆け抜けたのだ。 僕のお袋に「青春」を! 僕の夢は、いつも勝手に始まる。 まずは、リハビリだね。お袋さん。 つづく

          もう一歩、踏み込んでみようか (6)

          もう一歩、踏み込んでみようか (5)

          人は、「成長のチャンス」を掴むことよりも、メンツを保つことを重んじがちなようだ。 今回のお袋の一件で、「成長のチャンス」がいくつか見えてきたような気がする。それを自分のモノにすること、そして、あなたにもそれに気付いてもらうこと、どちらもやりがいがある。 「努力を楽しむ」 そんな境地に達するのは稀有なことなのかもしれない。

          もう一歩、踏み込んでみようか (5)

          もう一歩、踏み込んでみようか (4)

          私は、この人に、どんな風に伝えるべきだったのだろう? この一家にも「もう一歩、踏み込んでみようか 」と、思うのです。 懲りない私です。

          もう一歩、踏み込んでみようか (4)

          もう一歩、踏み込んでみようか (3)

          「90歳代陸上競技会」と入力して、Enterを叩いた。 目に飛び込んできたのは、こんな記事だった。 思えば、お袋には「青春」と呼ぶに値する時代があったのだろうか? 50代に始めた早朝テニスがお袋の「青春」だろうか? 思い当たるのは、それくらいである。 この日、病室を出た妻と私は、お袋の転院先の病院を見てくることにした。といっても、まだ手続きもしていないので、外観とアクセスを確認するだけだが。。。 脚の手術をしてそのまま入院している病院は救急病院であり、長くは置いてくれな

          もう一歩、踏み込んでみようか (3)

          もう一歩、踏み込んでみようか (2)

          妻と私に、穏やかな時間が戻って来た。 時々襲ってくる、お袋の左足の激痛は、手術直後、直ぐに消えたようだ。 思えば大変な数日であり、従って、仕事が山のように溜まってしまった。 だが、家族に痛みを抱えている者がいない状況が、妻と私の苦痛を取り払ってくれたようで、穏やかな気持ちになれていることが、互いによくわかる。 病院の駐車場から見える夕焼雲が、私たちの心情を映し出しているように思えた。 デイケアセンターから戻ったお袋は、玄関で転び、上がり框に左足を強く打ち付けたそうな。 妻に

          もう一歩、踏み込んでみようか (2)