もう一歩、踏み込んでみようか (14)
心筋梗塞で救急病院に運ばれた義母の見舞いと、ずいぶん気弱になってしまった岳父の世話の為、仙台の実家に帰省中の加奈子。
そんな加奈子から、朝一番で電話があった。
母が病院で転び、耳の後ろから出血したという。
骨折等も無く、大したことはなさそうだが、血の付いたパジャマを見たら驚くかもしれない、と考え、病院の担当者が加奈子の携帯に連絡をくれたのだ。
加奈子は先週木曜日の最終の新幹線で仙台入りし、その後、義母の見舞いを始めたのだが、3日目には、LINEにこんなメッセージが届いた。
「母は、素直に言うことを聞いてくれるので楽です。(笑)」
加奈子、すまん。
ワシの母親は、初対面のケアマネさんにさえ、「榊さんは、天邪鬼ね。」と言われるほどの聞かん坊なのである。
大きな仕事が始まりそうなので、今日は見舞いはいかないでおこう、と思っていたが、こういう状況では、行かざるを得ない。様子を聞いてきて、加奈子に連絡しないと、きっと心配するだろう。
いつものように、病室のベッドわきのホルダーから洗濯ものを回収。
「車いすに乗る時、トイレに行きたいときは、ナースコールのボタンを押して下さい。」と張り紙が張られていた。昨日までは無かったものだ。
母としては、人に迷惑を掛けたくない、という気持ちもあるんだろうが、必ず今日みたいなことになり、結局、皆に迷惑をかけるんだが。。。
転倒して、病院に運び込まれるのは、この一年だけでも、3回。今朝の転倒で4回目である。是非、学習して欲しいんだが。。。そこは、いや、そこが「天邪鬼」たる所以か。。。
とりあえず、いつも母が過ごす食堂を覗いた。
母は、転倒したこと、けがをしたことを覚えていた。
「ちゃんとトイレに行くときは、ナースコールするんだよ。」
と私は、母に言った。
きつく言うモチベーションが、なぜか今日の私には無かった。
母は、また叱られるのかなと、じっと私を見つめている。
仙台の義母のように素直であれば、自分自身がもっと楽に生きられたのにね。。。
つづく