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小説「モモコ」【最終話:42話】第8章〜エピローグ〜

 ルンバは雉谷病院の自動ドアをくぐった。受付のほうに向かいながら「雉谷さん」と奥の部屋に呼びかける。

「あら、お客さんが来た?」奥から白衣姿の雉谷が出てきた。「そうじゃないんですけど」そう言ってルンバは持ってきた1枚のチラシを雉谷に見せた。

「宗教勧誘のポスターなんですけど、この『碧玉会』って、以前話してくれたカルト宗教と同じ名前ですよね?街頭で配ってたのを見て気になっちゃって」

「ええ」と雉谷がにっこりとうなずいた。「これは碧玉会の勧誘チラシね」

「碧玉会は潰れたんじゃなかったんですか?それに教祖として載ってるこの人、話に聞いていた坂田という人とも違う」

「きれいなお姉ちゃんが載ってるでしょ」と奥からモモコが出てきた。

「モモコも知ってるのか」ルンバは教祖として掲載される女性と顔をじっくりと見つめた。「たしかにすごい美人だ。こう言ったら失礼かもしれないけど、完璧過ぎて、ルックスの整い方がまるでリアルなリカちゃん人形みたいだ」

「記憶を無くしても同じことを言うのね」雉谷とモモコが声を上げて笑った。「この子は私たちの仲間よ」

「でもミンジョンさんはどうして碧玉会を継ごうなんて思ったのかしら」モモコが首を傾げる。

「面白そうだったからじゃない?」と雉谷は笑った。「そうかもね」とモモコも笑う。

「でもあの子、ああ見えて優しいからねぇ。坂田という絶対的な支柱を失って、人生どうしたらいいか途方に暮れる会員たちを放っておけなかった、というのもあると思うわ」

 ルンバはチラシの女性をもう一度見た。が、一度とは言わず何度も会った仲間だと言われても、全くその記憶は思い出せない。

「それに、わたしも助かってるのよ」と雉谷は口角を吊り上げたような笑みを浮かべた。「客を紹介してくれるからね」

「それは、病院の客? それとも裏の客?」とモモコが楽しそうに尋ねる。「さあ、どっちでしょうね。きっと、どっちもよ」雉谷が言った。

 談笑する二人を眺めながら、この景色も5日間で忘れるんだよな、とルンバは思った。だが、不思議の悲しい気はしなかった。記憶は失くしても、つながり続けるものがある、そんな気がした。

 病院の待合室には誰もおらず閑散としていた。横長の簡素なソファに腰を下ろす。

「入会してみるかな」

 ルンバはリカちゃん人形のような美女が微笑みかける勧誘チラシを見ながら、小さくつぶやいた。

〜完〜

※この物語にはまだ続きがあります。続編としていずれ書き上げる予定なのでお楽しみに。

▼41話


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