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未来の自分を信頼する〈プチ帰省の話〉

連休中にプチ帰省をした。ただ単に東京という場所から距離を置きたかったからとか、いろいろ理由はあったのだが、一番の目的は、車の契約をすることである。

東京では、「駐車場があるコンビニ」を滅多に見かけない。上京してから3年間、車という乗り物に縁のない生活を送ってきた。大学1年の時に免許は取ったので、レンタカーを借りてドライブに出かけることもできるけど、慣れていない車で慣れていない道を走る勇気は、僕にはない。

それとは対照的に、来年度から再び暮らすことになる地元・大分では、車が必要不可欠である。ご時世的に車の納期が遅れているので、3月までに確実に車が届くよう、この連休中に契約してしまうことにした。

どんな車にしたいかは、かなり前から考え始めていた。まずは、トリニータのスポンサーをやっているダイハツか、高校の同級生が就職したトヨタの車を買おうと決めた。それから数ヶ月間、街ゆくダイハツ車とトヨタ車をひたすら眺めていたら、とあるダイハツの車に一目惚れした。トヨタに勤めている彼には申し訳ないけれど、2台目以降でお世話になることとしよう。

帰省してすぐのこと。前もって販売店へ話を聞きに行ってくれた母親から「ぜひ試乗してくださいってお店の人が言ってたよ!」と伝えられ、背筋が凍った。約3年、車を運転していないペーパードライバーが、いきなり試乗車に乗るのは危なすぎるから、親の車で練習させてもらうことにした。(親の車ならぶつけていいというわけではないけど。)

百合「今の若い子って、車持たないわよね。」
風見「無くても困りません。電車やバスで大概の所は行けます。」
百合「そうね。でもね、あなたが思っているより、ずうっと遠くまで行けるのよ。」

『逃げるは恥だが役に立つ』第8話

久しぶりに運転してみたら、思いの外何事もなく目的地まで到達した。東京で乗り慣れた電車やバスとは違って、1人で(または心を許している人と一緒に)、自分の好きなタイミングで、好きな道を選んで、どこまでも行ける。そんなドライブの魅力に、改めて気づかされた。

🚗🚗🚗

近所にある販売店を訪ねると、担当のディーラーさんが名刺を差し出して出迎えてくれた。実際の車を見せながら、内装や機能を紹介してくれ、試乗の時には、まるで教習所の教官みたいに助手席で声をかけてくれた。それから、契約や保険のことについて、細かく丁寧に説明してくれた。

話を聞きながら、未来のことをひたすら想像した。「大卒教員の初任給がこれくらいで、車のローンにかけられる額はこのくらいだから、頭金はこれくらい払っておいたほうがいいか…」といった調子。他にも、自分以外の人が車を運転するかどうかで保険料が変わるらしく、何年後に結婚しているんだろう、みたいなことも考えた。

当たり前のことだけど、ディーラーさんは車のことをなんでも知っていて、すごいなーと感心していた。手のひらの分厚さ、脚の筋肉のつき具合、「まだ書いてもらう書類があるので、手首あっためて待っといてください」という言葉遣いから、野球経験者であることがうかがえる。そんなことを考えていたせいで聞き逃した話もあったけど、この人なら信頼して大丈夫だろう。そう思える人だった。


大学生になってから、1人で家の契約や、役所での手続きをするようになったけど、その度に宅建士の人や職員の人の助けを借りた。自分はまだまだ知らないことだらけだな、と感じるけれど、それでいいのだと思う。みんながそれぞれ「何か」のプロとして誰かに尽くすことで、この世の中は回っている。

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おそらくこれが、今のところ人生最大の買い物だ。契約書にサインする直前はさすがに緊張したけれど、一呼吸おいて、未来の自分を信頼することにした。お前ならしっかり大学を卒業してくれるだろう、と。仕事は大変かもしれないけれど、お前ならなんとか続けているだろう、と。

とりあえず、卒論を書かないとなー。

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