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「書けない時と来た日には、どうしても書けるものではない」

1月29日

「人類が生み出した最大の発明は締切だ」

誰かに聞いたことがあるけれど、本当にそうだと思う。

「いつか時間ができたら、やろう」と思ったことを実際にやれた経験は、ほとんどない。
隙間があると埋めたくなるのも、人間の抗えない性質だから、まず「時間ができる」なんてことが、ほぼない。あったとしても、たいていはぼーっとしているうちに1日が終わっていく。

編集者としての16年のキャリアのなかで、締切を決めずに原稿をあげてくれた方は、ほんの数名、数えるほどだ(中には既に書いていたという方もいる)。
数えるほどいるだけでも、本当にスゴいことで、現実は、締切は反故されて、どんどん遅れていく。だから多くの編集者は、遅れることを前提に締切を決める。そして、書き手もそのことがわかっているからさらに遅れて……なんていう締切をめぐるシーソーゲームが生まれたりもするのだけど。

それでも、とにかく締切。
なにはともあれ、締切。

その人への信頼・信用とはまったく別の次元の話として、“とりあえず“でもいいから「締切」を決める。そうしないと、ほぼ物事は動かないと思ったほうがいい。

……というわけで、私も自分に締切を課した。

その期限は1月31日。あと3日。

思った以上に進んだ部分もある。自分を褒めたいくらい十分にがんばった!
のだけど、とても完成には程遠い。
まだまだ書くこと、表現することはたくさんある。

だけど、ここにきてスランプで……

もう書けない!!!
言葉が出てこない!!!
無理なものは無理!!!!!

そう身悶えてはいたのだけど
「いっそ今日は一日なにもしないことにしよう」と開き直ることもできず、つくったweb siteのデザインの微調整に勤しんだ。

〆切が迫っているのに、どうしても書けない。
そんなとき、思い出すのはこの本。

文豪たちの「締切」にまつわる話、手記をまとめた本なのだけど、帯の文言のとおり読んでいると「なぜか勇気がわいてくる」

ちょうど開いたページから引用する。

が、書けない時と来た日には、どうしても書けるものではない。
私は家の中を歩き廻る。用もないのに、ふと気が付くと便所の中に這入っている。おや、こんな所へ何をしに来たのかなと思つて又出て来る。と、今度は格子に頭を叩きつけながら、「うーん、うーん、」という云ふ声を出している。
然しかう云ふことを書いて何になるのか。これは只労働の記録に過ぎない。

『〆切本』P56、横光利一

わかる。そうだよね。用もないのに、トイレに行って……わかりみがあり過ぎてつらい。

あと、もっとつらいのは、文章のうまさよ。
書けない状況を、こんなに美しいリズムで綴れるなんて、うらやましすぎて正直つらい。

作家レベルなんかは目指せないけれど、もう少しいい音を響かせたい。身体に届く言葉を残したい。
書き続けると、自分の下手さをつくづく実感する。
まだまだだよな、、、努力が必要だよな……そうしみじみ思う。
なのだけど、一足飛びに上手くなる方法を求めて「上手な文章 書き方」なんて検索したりなんかして。

さて『〆切本』。横光利一の次のページに、林芙美子先生の言葉が載っていた。

こつこつと仕事をしませう。
それよりほかに道なしといふところなり。

『〆切本』P57、林芙美子

そうですよね。
それよりほかに道はありませんよね。

もう反論の余地もない。

私は編集者なので「がんばり方」もわかっている。
私はまだ本気出していないだけ。

だから、がんばる、がんばるよ。明日からは。

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