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気ままに、エッセイ

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立派なカメラを買って嬉しくて、写真を撮って文章をつけたことがあります。私のエキサイトブログの方に載せてありますが、ここでも、ご紹介します。
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記事一覧

【記憶を刺激する写真6】ドイツ・ミュンヘンを散歩中に

こんなふうに霧が深いところを、 長い時間、歩いていたことをがある。一人で。ゆっくりと。 そこは、スイスのとある場所だった。 そうやって自分のいる場所が分かっているというのに、歩いている間、私は不安だった。 周りに、誰も歩いていなかったからかもしれない。 お店も全然ないような、寂しい場所だったからかもしれない。 ただ怖かった。 これまでに、同じような 感覚を味わった。 田舎から東京へ引っ越したとき。 東京からイギリスへ、そして、イギリスからスイスへ移り住んだとき。そ

【記憶を刺激する写真5】フランス・リールのパン屋PAUL

パンを焼いて、パン屋になりたい。そう思ったのは、小学2年生の社会見学で町の大きなパン工場を訪れたとき。たくさんのパンが作られる工程に「すごいなぁ」とただ感心し、菓子パンの甘い香りに、すっかり参ってしまった。 私が育った家では朝ごはんも米飯だったから、家でパンを食べることは、それほど多くはなかった。それだから、パンを買ってきて食べるというのは少し特別なことだった。 成長するにつれ、家でパンを食べる機会は増えた。 学校の近くにあったパン屋さんでは、友だちとパンを買って分

【記憶を刺激する写真4】スイスの駅の掛け時計

駅の時計はいつも、シンプルで見やすい。そういえば、私も、こんな円型のシンプルな壁掛け時計を仕事部屋で使っている。 東京で一人暮らしを始めた記念に買った時計だ。イギリスへ渡るとき、たくさんの持ち物を処分したが、この時計は手放す気持ちになれなかった。 スイスへ渡るときも、心機一転して新しい時計を買おうという気持ちに、どうしてもなれなかった。 普段はもちろん時間を見るために使っているが、時折、ふっと、あの東京の住まいやイギリスの部屋にいるような感覚になる。 私の円形の時

【記憶を刺激する写真3】誕生会で訪れたスイス人宅にて

秋を感じさせる美しい葉。 壁一面を覆い尽くす赤い色が、血を思い起こさせた。 あれは、小学校3年生くらいのことだったろうか。 ハサミを右手に仰向けに寝そべっていた私は、 なぜだかカシャカシャと空気を切り始めて、しばらく続けた。 そのうちに、目を細めてみたりまた開いてみたりと遊びは発展した。私の遊びは更なる発展を遂げ、今度は左手をハサミに近づけたり離したりした。 ハサミの動きが面白かったのか。音が面白かったのか。 どちらだったのだろう。 そして、左手の指がハサミにぐ

【記憶を刺激する写真2】スイスの山奥のバス停

子どものころ、ここで降りますと知らせるバスの降車ボタンを押すのが嫌いだった。 あの音がおもしろいと感じる子は多いだろうから、 押したがる方が普通なのだろうが、味気ないあの音を聞くのも、 自分が降りる場所を運転手やほかの乗客に知られることも、嫌だと感じた。 バスに乗ることは数えるくらいしかなかったものの、 いまでも鮮明に残るシーンは、母の田舎でバスに乗ったときのこと。 働いていた母は、私や私のきょうだいを祖母によく預けた。 そこは冬には雪深くなる山の村だったから、 一番

【記憶を刺激する写真1】親戚宅の洗濯物スタンド

洗濯物を木製の洗濯バサミで、ビニル製のワイヤーに干すということを知ったのは、イギリスで居候生活したときだった。 洗濯バサミを「ペグ」と英語でいうのを知ったのも、その家の居候になって、 私とあまり年齢が変わらない女性家主が教えてくれたときだった。 日本のようなプラスチック製でも、イギリスの木製でも、 洗濯バサミの小さな跡が乾いた洋服に残るのが同じだったことは、 自分だけの小さな発見のような気がした。 ある日、彼女と私の2人ともが庭に洗濯物を干していた。 雲行きが怪しくな