短編小説『Hurtful』 第7話 「時計が読めなくなった杏ちゃん」
第1話前話
昼食を取り終え、銘々がそれぞれ好きなことをやったり、作業療法に出向いたり、外出をしたりする行動的な時間帯に、杏ちゃんが神妙な面持ちで喫煙所に入って来た。
「さとみー。あのね」
「どした?」
「時計が読めなくなった」
今なんて言ったのだろう。
「なにが?」
「なんか今日起きてしばらくしたらね、なんか、腕時計が読めなくなってた」
杏ちゃんはいつも、話を本題から話せる人だった。
「たぶん、昨日は読めてたとおもうんだけどね」
杏ちゃんが身に着けている腕時計