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短編小説『Hurtful』

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私には心の患いがあります。これは数年前に精神科病棟に入院した時の、約一カ月間の物語です。 病棟で出会った人々と私の毎日の感情や葛藤。ちょっとした事件。笑えたり鬱だったり。愛おし… もっと読む
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短編小説『Hurtful』 第1話 「没収の儀式」

あらすじ 【「今日から私のハピネス・ウィル・サンクチュエール精神科病院での日々がまた始ま…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 最終話 「さようなら、ハートフル」

その日、何人かは嬉しそうに売店でアイスなんか買って来るなどして、こっそりとパピコを分け合…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第2話 「病院ルール、人情、煙草めぐり」

第1話はこちら 午後、喫煙所に行くと、由美子さんが一人だった。ちょっと気まずかった。何か…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第3話 「マサ兄の登場、そして松葉杖」

第1話前話 薄ら目で腕時計を見ると、十七時だった。 となると、私は四時間も昼寝してしまった…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第4話 「隔離室、お爺の独白、売店にて」

第1話前話 翌日の午後になってようやく、杏ちゃんは松葉杖を持つことが許された。 膝はだいぶ…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第5話  「鳴宮さーん」

第一話前話 ハピネス・ウィル・サンクチュエール精神科病院。五階・西病棟。 今日も鳴宮さんと…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第6話 「嫌われたくない性格と煙草事件」

第1話前話「禁煙が退院の条件」になった鳴宮さんは、時たま喫煙所に入室しては、副流煙を吸いに来るようになった。 みんな一様に気まずい。だってそりゃそうだろう、口には出さないものの、 「煙草、いいなぁ。俺も吸いたいなぁ。誰か、一本、くれないかなぁ。 いや、あくまで俺が言うんじゃなくてね、そちら側の誰かがね、「あ、鳴宮さん、キツそうだね!一本どう?」なんて言ってね、そういう気ごころがないのかなぁ君達には。副流煙なんて、おいしくないに決まってるじゃない。 僕としてはね、副流煙を求め

短編小説『Hurtful』 第7話 「時計が読めなくなった杏ちゃん」

第1話前話 昼食を取り終え、銘々がそれぞれ好きなことをやったり、作業療法に出向いたり、外…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第8話 「愛しい彼女」

第1話前話 「行先」という欄に、駅の喫茶店と書く。「目的」の欄に、レポート作成の為と書く…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第9話「新たな彼との出会い」

第1話前話 杏ちゃんが隔離室に入れられてから、デイルームにはひっそりとした重苦しい静けさ…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第10話 「ダンスフロアー妄想、銀メッキピアス」

第1話はこちら前話はこちら 「俺はね、今年三十五で、嫁がいるんだけど。俺のほうは、離婚し…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第11話 「第一の手紙、そしてコメダ珈琲」

第1話はこちら前話はこちら 部屋にはベッド、棚付きの箪笥、丸椅子が一脚あるが、机がない。…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第12話 「外泊許可、第二の手紙、いくつかの緊迫」

第一話はこちら前話はこちら 車で病院に戻ってきたのが五時ぎりぎりだった。 私は夕食までのわ…

satomi
3年前
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短編小説『Hurtful』 第13話 「病院のお風呂場マナー」

第1話はこちら前話はこちら 私は、杏ちゃんが看護師とともに風呂場まで行く姿を、これまで一度も見かけていなかった。 私が見逃しているだけなのか、それとも今は風呂にも入れない状態にあるのか。 今日も、やっぱりここには来られないのかな。 脱衣所で誰かがヒソヒソやっていた。 「お風呂に入ることも、本人が拒否してるらしいよ」 だから、そういう情報どこから手に入れてくるんだよ。特殊な脳波の共鳴でもあるのだろうか?患者同士には。 私は脱衣所で裸になり、タオル一枚を軽く体にかぶせて、順