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お似合いの場所

ちょっと意識したキレイなワンピースに、小さなバッグ。
間違っても、職場に持って行くようなでかめトートバッグとお弁当箱を入れてるショッパーのふたつ持ちはありえない。

いつもは動きやすいように靴下にスニーカーだけど、今日はストッキングにヒール。気合いは充分だけどすでに足が痛い。痛いのは足じゃなくて心臓も。
ガラにもない緊張は、ビルまでは大丈夫だったのに。
ビルのエレベーター乗って、その扉の前に来た時に急に、キタ。

久々だから。
久々だから当然だ、しかたない、て言い聞かせて押した扉。
これがまた重厚なやつで、くぅ、と握力も筋力もない私には力がいる。

カラン、

非日常のひらく音。
鼻に慣れない煙草の匂いと、暗いのに煌びやかな空間と。

すぐそこにあるカウンターは、よかった、一席空いてた。
笑顔でカウンターを示され、おずおず向かう。

バーが好き。
オトナな匂いと、キラキラした雰囲気と空気。酔えるほどにはまだ慣れないけど。
カウンターチェアなのに大きくて頑丈でしっかりして恐れ多くて背もたれでさえ使うこともできないし、メニューを見ている時に指先が震えていても、好きなものは好き。
一年に一回しか来れないのに覚えてくれているバーテンダーさんも好きだし、「お嬢さん」て呼んでくれる毎回見知らぬおじさまたちも好き。
お隣に座ったおじさまたちはいつも品が良くて、ダンディーで、通勤電車の中で遭う我先にドアを出ていく背広のおじさんたちとは大違い。

今日も、あまーいカクテルを奢ってもらっちゃった。

会話は特にない。
弾む会話はないけど、おじさまとバーテンダーさんの会話に耳を澄ませて、振ってもらった話題に少し乗って、また震える手でメニューを見て。
2杯目、3杯目でいっぱいいっぱいになって、今日も私はおじさまより先に椅子を降りる。

素敵、素敵。
大人になった気分。
お会計の時だけちょっと現実に戻されるけど、バーを出て冷たい風でほっぺたのほてりを冷ましながら夜の道を歩くのはまだ少し非現実。

よしよし。今年も素敵な大人になれそう。

#ほろ酔い文学

ハッピーバースデー、私。

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