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まるで恋するみたいに受験した、息子の話②

前回のお話はこちら。
東京に戻った息子は、それからというもの、その高専に関するあらゆる情報を集め出した。SNS関連はもれなくフォロー&すかさずイイネ!、年明けから着々と始まった学校説明会はオンラインもオフラインももれなく参加、関連イベントにも積極的に参加する。相手が「学校」だからいいものの、これが「人」だったら完全なるストーカーである。動画の再生回数UPにも貢献していたから、もはや推し活か。

最初の壁、サマースクール

中3になった5月。
弾んだ声で、息子が叫んだ。
「サマースクールがあるらしいから、参加したい!」
現地で「学校生活」をまるっと5泊6日体験できる、サマースクールの応募受付が始まったのだ。
これまでと全く違う環境で過ごす5年間。
飛び込んでみたら「意外と無理だった」なのか「思ったとおり最高!」なのか、それは実際に体験してみないと分からない。
「良い機会だし、参加しなよー」と軽く言いつつ募集要項をみたら「600字のレポートと3分以内の自己PR動画」という課題がマストになっていて、目が飛び出た。
なんと、選考があるらしい。

(わ、いきなり高い壁!!もしかすると体験することさえ、できないかもしれないのかぁ。。)
面食らったが、すでにやる気満々の息子。
やるしかない。

キリン、ゾウ、タヌキのせめぎ合い

幸い、息子は中1から動画編集にハマり、この2年で140本近い動画を作っていたので動画作りは苦労しなかった。
問題は、600字「入学後にやりたいこと」レポート。
ここを読んでるみなさんは「600字なんて、一瞬じゃん?むしろ削るのが難しそう。」って思うでしょう?
小学生の時からの作文苦手男子の筆の遅さ、あなどらないでいただきたい。

スマホで何度も打ち直し、相当時間をかけて「・・・なんとか書けた。」と負傷兵ぐらいの勢いでリビングにやってきた息子。「どんな感じ?ちょっと送ってよ。」というと、渋りながらも送信してきたそれは・・・

「キリンさんが好きです。でもゾウさんはもっっと好きです。」

みたいな文章だった。
実際はキリンとゾウではないし、詳細は割愛させて頂くけれど、とにかくそんな手に汗にぎるヤバさ。
これは・・・しばし呆然として、私はカレンダーを確認した。
締切まであと2週間ほど。間に合うのか?

「とりあえずさ、一番好きな【ゾウさん】に集中して書こか。あと文字数も全然足りへんから、ゾウさんを好きになった理由と、なんでゾウさんを作りたいのか?それがどう世界を変えるのか?を加えてみたら?」とアドバイスしてみる。

このやりとりを幾度となく繰り返す、2週間。
途中で、これまで全く出てこなかった【タヌキさん】なども突然ひょっこり登場したりして家の中は大混乱。
「いやいや、なんでタヌキさん今でてくんのよ?」「いや待てよ、むしろタヌキさんを膨らませた方が・・・?」
などと難航し、ワケがわからなくなってきた。
私が直接、文章に手を入れるわけにはいかないので、とにかく息子が最後まで文字数ピッタリ書き切るよう、見守る。これが一番しんどかった。

締切日に、データをポチッと送信した時はもう母子ともに「受験終わった・・・」ぐらいの疲労感だった。

まだ何も、始まってもいないのだが。

画面がにじんで、見えない

結果的に4倍を超える倍率の中、無事に選考をクリアし、参加することができた。
この時の息子の喜びっぷりは、過去最高だったと思う。
私も夕方の買い出し時に吉報を聞いて、思わずスーパーで小さくガッツポーズをした。

サマースクールは、通常のカリキュラム体験に加えて、与えられた課題の解決案をグループで話し合い、最終日にプレゼンする。という内容だった。
自由時間はほぼ返上してそれに取り組んだらしく、4日間、息子からはなんの連絡もなかった。よく考えたら息子と過ごした14年と数ヶ月、そんなことは生まれてはじめてだった。

最終日のプレゼンは、保護者向けにzoom配信される。
5日ぶりに画面越しに見る息子は、遠目にもわかるほどガチガチに緊張していたが、なんだか別人のように見えた。
現場には経営陣はもちろん、BBCやNHKなどのメディア取材も入っていて、大人ですら緊張しそうな空気感。。。

私たち一家は徳島市内のホテルで、PC画面を固唾を飲んで見つめていた。
他チームのプレゼンが終わって、短い休憩時間中のザワついた室内。
その時、「あ!」と夫が声を上げて、画面の端を指差す。
そこには、ステージ脇で息子たちのチームが小さな円陣を組んで、掛け声をかけ合っている様子が固定カメラ画面の端っこに、小さく映っていた。

「なんかさ、もうこれだけでも参加して良かったよね、、、」
全国から集まったはじめましての15歳たちと、寝食を共にしながら作り上げたチームの絆。を感じて、思わず画面がにじみそうになる。
あの、不器用が服を着て、歩いているような子が。

プレゼン内容も「中学生ならでは」の視点で、荒削りだけどなかなか面白い。
錚々たるベンチャー企業の偉いさんたちの前で「Beacon(ビーコン)とは何か」を必死で説明する息子の姿、ちょっと笑えた。知ってるっちゅうねん。
油断すると泣きそうになるので、カメラオフで最後まで見届けた。

しかし、本当の厳しい戦いはこれからだった。

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