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思いでばなし

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よわいを重ねると、昔のことを語りたがるのは、どうしてだろう? なんて考えながら、若いころの思いでを綴っています。
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ワタナベサダオさ~ん!

ワタナベサダオさ~ん!

 ある寒い冬の午後、予約したペインクリニックへ行った。腰椎椎間板ヘルニアをわずらい、しつこい座骨神経痛に悩まされていたためだ。

 この日は、五回目の「硬膜外神経ブロック注射」を受けるための通院だった。痛そうな注射だけど、上手な医者にかかれば、なんてことはない。最初に皮下麻酔注射を打つので、そのときだけ「チクッ」とするが、その後はほとんど痛みを感じない。

 インターネットを検索すると、耐えがたい

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天ざる蕎麦さまぁ~!

天ざる蕎麦さまぁ~!

ある早春の昼下がり。埼玉県ふじみ野市にある大型スーパーへ、妻と買いものに出かけた。

ふじみ野駅周辺は、埼玉都民と呼ばれるサラリーマンが多く住むベッドタウンだ。東武東上線に乗ると、三十分くらいで池袋に出られるので、都心へ通うのにとても便利な土地である。

 衣料品などの買いものをし、すこし遅い昼食をとろうと、一階のフードコートに向かった。昼食どきをすこし過ぎていたが、休日の午後ということもあり、多

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ラブホの悲劇

ラブホの悲劇

 その二人は、かなり焦ったと思う。まさか、ラブホの周りが、これほどの人であふれていようとは、夢にも思わなかったに違いない。

 その日その時、埼玉スタジアムの周辺は、サッカーの試合が終わり、大勢のサポーターたちが帰宅の途についていた。浦和レッズが勝利し、帰る人びとの表情が明るかったことを覚えている。

 この帰宅の流れは、大きく分けて三つある。

 ひとつは、埼玉高速鉄道の浦和美園駅に向かう列であ

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ノーパンスキー

ノーパンスキー

 まだ元号が昭和のころ。その時は突然やってきた。

 真冬の雪道は凍てつき、ヘッドライトに照らされた雪が、秋の枯葉のように舞っていた。

 午前三時。

 関越高速道路の湯沢インターを降り、湯沢中里スキー場を目指していた。あと数分で到着といういうとき、悪友Nが「トイレに行きたい」と言い出した。「もうすぐ着くから」と言うも、「我慢できない」と言われれば、車を停めるしかない。見通しの良い場所で停車する

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各駅停車「長岡行き」の思い出

各駅停車「長岡行き」の思い出

 ぼくがまだ若かった、昭和五十年ごろのはなし。

 金はないけどスキーに行きたいとき、各駅停車「長岡行き」をよく利用した。いまでこそ、スキーは車で行くのが当たり前だが、当時は電車を利用するものだった。スキーブームが到来する前で、バスツアーもそれほど運行されていなかった。

 目的地は越後中里スキー場。駅の改札を出れば、そこがゲレンデという絶好のロケーションが、時間を無駄にできない日帰りスキーヤーに

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