見出し画像

半側空間無視の臨床検査

皆さんこんにちは、作業療法士の大松です。半側空間無視の研究を2014年くらいからチームで取り組んできました。自分の備忘録も含めてnoteにも少しずつ整理していこうと思います。

無視シリーズ第3弾(遅)!!
今回は細かい机上検査について紹介していきたいと思います。
※後半、視線計測のところで「自動車運転動画」視認時の視線についてもちらっと触れてるます。

1.BIT行動性無視検査など紙とペンを用いた検査

この検査はWilsonさんらによって開発され、日本語版は石合先生らによって製作され1999年に出版されました。細かい方法などの詳細は本検査のマニュアルを参考にしていただき、ここでは割愛します。

1.1 探索要素の無視検査(線分・文字・星印抹消検査)

 線分・文字・星印抹消検査の他にも、Bell test(ベルを探す)やMesulam task(工場の地図記号に斜め線が引かれたものを探す)などが知られており、自己中心座標系の無視症状の検出に有用とされています。ターゲットやノイズなどの情報量が増えると無視空間の見落としが増える場合は、前頭機能低下の影響が考えられます。
 BITでは減点方式で得点化し、カットオフ値以下かどうか確認しますが、無視症状であれば左右差(左空間の見落としが多い)に注目する必要があり、左右ともに見落としがある場合であれば無視症状というよりも注意障害が疑われるます。
 同じターゲットを何度も印付けるような行動(リキャンセル)がある場合、自分がチェックした印のフィードバックが入っていない、チェックしたとわかっているのに動作が止められない(1回印をすれば良いというルールを忘却している可能性がある場合は改めて口頭指示を行い修正できるか確認)状況であることから、抑制障害等が合併している可能性があるため、その他の生活上の観察で同じような特徴があるか確認してみると良いと思います。特に、同じ線分に対して連続してチェックするような場合は運動保続に関連するようです(Kim et al., 2009

この抹消検査…  制限時間がありませんっ!!
そのため、何度も見直しを行うなど時間をかけて課題を遂行する場合と、短時間でさっと遂行した場合、どちらも見落とし数が同じであれば同得点となります。そこで、小泉ら(2004)は健常者45名の所要時間から正常値の上限(平均+2SD)を算出してくれました。
線分抹消 55秒
文字抹消 160秒
星印抹消 100秒
この時間を延長するような場合は、無視症状や注意障害が残存している可能性があり、特に素早い対応を求められる場面など問題が生じる危険が考えられます。

1.2 物体中心座標系無視検査

物体中心座標系の無視評価としてOtaテスト(Ota et al., 2001: 札幌医科大学の太田久晶先生)やアップルテスト(Bickerton&Samson, 2011)、ダブルデイジーの模写課題や文章読解などがあります。

待って、物体中心座標系無視ってナニ?

そんな方のために以下。
自己中心座標系の無視症状は自分を中心として左空間の対象に対する認識・応答が難しくなりますが、物体中心座標系の無視症状(以下、物体中心無視)は物体の中心に対して左側の認識・応答が難しくなります。
Otaテストで下図のようにキレイな物体中心無視がみられる方には滅多に出会わないかもしれませんが、数字の「12→2」や「8→3」、ひらがなの「あ→お」、漢字の「姉→市」や「 林→木」、「ハンドクリーム→リップクリーム」や「薄力粉→強力粉」などの読み間違いといった様子で観察されることがあります。

※視覚要素の形状や空間位置によって大きく影響をうけるので、いろんな状況から総合的に評価する必要があります。

完全な〇には丸印を、欠けた円にはバツ印をつけるよう指示されたもの(Otaテスト)

1.3 視空間性無視検査

線分二等分(線分の真ん中に印をする)や模写(見本の図形を書き写す)などで評価されます。
ただしエラーにはバリエーションがあり、例えば花模写では下図のように左が欠けている場合だけでなく、右の花びらがやたら多くなったり、何度も線を重ねる、大きく構成がゆがむなどの特徴を示される方も。
また、自分が書いた結果を改めて見て、二等分で来ているか確認を促すと「あれ?右にずれてるな」と判断できる方もおられます。そのような方は線の長さ判断は出来ているけど、自分で正中に印ができない、ということとなるので、改めて自分の結果を振り返ってもらうことも1つの視点となります。

ここだけの話・・・(web上だけど)
この通常検査には様々な下位課題(抹消課題・模写課題・線分二等分課題・描画課題)が含まれます。日本ではこの下位課題をすべて行うことが望ましいとされています。しかし海外では「え、もしかして全部やってるの?!なんで??」という感覚のようです(論文で査読してもらった際のコメント等から)。確かに、各項目で特徴が異なることから推奨はされていますが、抹消課題3種類、模写課題4種類、描画課題3種類と内容が多く所要時間も45分ほどかかるため、どうしても急性期などで時間が十分にとれないと検査しきれないってことありますよね…スクリーニングとしてSIAS(Stroke Impairment Assessment Set)の視空間認知項目やNIHSS最後の項目(消去現象と注意障害(無視))、BIT通常検査の一部のみ実施しているところも多いと思います。結局、机上検査を多くやっても検出できない症状もあるので、現場としてできる範囲で実施するというのが現実的かと思います。

1.4 紙とペンを用いた検査の限界点

カットオフ値より得点が高く、机上検査で無視症状なしと判定されるにもかかわらず、生活上の無視症状は残存している…というケース、会ったことありますよね??(なかったらゴメンナサイ)
いわゆる「机上検査と無視症状の乖離」と表現をされていると思います。
でもこの”乖離”という表現は間違っており「机上検査では検出されない」だけなのです…急性期はともかく、特に慢性期における軽微な無視症状の検出が難しいとされています(Rengachary et al., 2011

結局、現時点で一番無視症状が検出されるのは、生活上の観察なのです。
生活上における無視症状の観察に関しては、ここの「日常生活の観察」という項目にまとめてあるので、参考にしてみて下さい。

机上検査の検出が難しい原因として以下2点が考えられます。
①評価バッテリーの感度の問題
②受動的注意(外発的な刺激に対する応答性)が反映し難い

①に関しては、課題に対する学習効果や代償戦略の影響で、無視症状が残存していても見落としなく遂行できるということです(Bonato et al., 2012)。
Hasegawa先生たちの症例報告では、線分二等分は正中からやや左寄りに印できているのにオムレツを半分に切ってもらうと右に寄っているケースが紹介されています。実動作の状況を把握しておくってとっても大切ですよね。

②に関して、半側空間無視の神経基盤から説明しないといけないのですが…
以下参考まで。

このように、無視は注意ネットワークの障害とされていますが、その1つとして外発的な刺激に対する応答などに特徴づけられる受動的注意の側面は、従来の紙とペンを用いた検査では一定の限界があります。

2.視線計測

近年では、視線計測を行う方が机上検査よりも検出感度が高いと報告されており(Kaufman et al., 2020)机上検査を補完するものとして視線計測による評価の有用性がシステマティックレビューでも報告されてきています(Cox & Davies, 2020)。

私たちが行った研究もここのページで紹介しているので、参考までに。

人の視線は、輝度・色彩・コントラスト・方向・動的要素など物理的要素に影響を受けますが、その他、文脈や意味合いといった認知的要素によっても影響をうけます。

大好きなお孫さんの写真では自然に左空間に探索できるケースなど(赤口、大松他、2016)、無視症状が絶対空間上の決まった空間を認識できないということがわかると思います。

運転動画での視線計測も行っており、無視症状の特徴がわかりやすいと思うので、ここに共有しておきます。

視線を使用した、無視症状に対する代償戦略(左空間への反応遅延を補うように意図的に左へ視線を向ける)についてはこのページの「半側空間無視の回復過程における代償戦略」をご覧ください💡

3.まとめ

今回は、半側空間無視の臨床検査という内容を、私たちが報告してきた内容も含めてまとめてみました。少し尻すぼみになりましたが…

最後まで読んで下さりありがとうございました!!

今後少しづつまとめて行こうと思います。

でわでわ~👋


いつもありがとうございます。皆さまにフォロー頂きながら試行錯誤していきます!