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半側空間無視の臨床評価(観察・スクリーニング編)

皆さんこんにちは、作業療法士の大松です!半側空間無視の研究を2014年くらいからチームで取り組んできました。自分の備忘録も含めてnoteにも少しずつ整理していこうと思います。今日は無視シリーズ第二弾。

右半球損傷の対象者が目の前におられたら
まず「この方に無視症状はあるのか?」ここ大切ですよね。
この記事では、無視症状を把握するための観察・スクリーニングについて整理していこうと思います。

とりあえず観察

はじめは観察から。
頭頚部が右回旋して視線も右を向いている。
左側から話しかけると反応が乏しいのに、右側から話しかけるとしっかり応答できるあるいは左側から話かけても右を向いてしまう
こういった明らかな観察初見がある場合は、無視症状を疑ってください。

また、会話中や他の検査、リハ中など視線の動きをよく観察しておきます。
上記のような明らかな右への偏りはなくても
周囲を見渡す、何かを見るとき、まず右空間から探索しはじめ、その後遅れて少しためらうように左に視線を移す…こういった視線の左右差も無視症状の可能性があります。
また、右空間からの音や物に対しては素早く反応し、刺激があった方向に頭部や視線を向けられているにもかかわらず、左空間からの刺激に対して反応が遅延していたり、頭部や視線がずれているような場合も無視症状の可能性があります(例えば右から声をかけた際はしっかりと目があうのに、左から声をかけてもうまく目が合わないなど)。


スクリーニング検査

SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)の視空間認知項目
「50cmのテープを対象者の目の前約50cmに提示し、テープの中央を指で示してもらう」という凄くシンプルな方法です。2回行い、中央からのずれが大きい値を採用します。
0:15cm以上。
1:5cm以上。
2:3cm以上。
3:3cm未満。

以上。実にシンプル。ベッドサイドでサクッとできます。

あと、NIHSSを取ってる方はそれでスクリーニングできるので良いかと。


日常生活での観察(Catherine Bergego Scale:CBS)

Azouviらによって開発されたCatherine Bergego Scale(CBS)は日常生活上で表出される無視症状をとらえる評価として世界中で広く使用されています。下の表2(石合先生の脳科学辞典から引用)で示すされるように、0~3の4段階で各項目を評価する割とざっくりとした検査です。しかし、検者間での一致率も確認されていること、また無視症状の検出は机上検査よりも高い(つまり机上検査では無視症状が検出できなくても、日常生活を観察すると無視症状ありと判断されるケースがある)ことが知られており(Azouvi et al., 2002)生活上の無視症状を検出する有用な方法であると考えられています。ちなみに、スコアが1以上無視症状ありと判断され、重症度は0点(無視なし)から10点ごとに軽度-中等度-重度と分類されます。

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またこの評価の重要なポイントは、病棟看護師や作業療法士などが評価して採点する「客観スコア」だけでなく、対象者自身が自分の感じている(あるいは知っている)症状について採点する「主観スコア」に分けて評価する点です。この客観的スコアと主観的スコアの差分無視症状に対する病識の把握に役立ちます💡
急性期や回復期初期だと無視症状を呈する対象者の多くは自分の症状に気付きにくいため、客観スコアが高く、主観スコアが低くなる傾向があります。つまり、無視症状に対する病識が低下している状態です。しかし回復過程において無視症状に対する病識は徐々に定着していきます。

日常生活での観察(Kessler Foundation Neglect Assessment Process :KF-NAP)

これはCBS客観スコアの信頼性をもっと高めるためにアメリカのBarrettグループらによって開発されたもの(Chen et al., 2012; 2015)で、CBSよりも詳細なマニュアルがあり「あなたの老眼鏡が見つかりません。どこにあるか教えてください」「このコートをどのように着るか見せてください」「リハ室にいく方法を教えてください」など具体的な指示と観察項目が記載されています。このマニュアルを参考に評価するのとよいと思います(日本語版は元慶応、現NCNPの水野先生らのグループによって作成されているようです)。
→2023年にnoteでマニュアル公開予定です。

(補足)なぜ無視症状に対する病識を評価するひつようがあるの??

① 病識が乏しいと代償(左空間を気を付ける)が働きにくく、生活動作獲得が困難となりやすい
 対象者本人が症状を認識していないのに、「気を付けましょう!」といくら言っても気を付けようがないですよね。基本的に無視症状と病識の低下は異なるメカニズム(Vossel et al., 2012)ですが、無視症状に対する病識の低下は、ADL獲得の阻害要因になります(Vossel et al., 2013)。そのため、病識の評価は大切です。
 リハビリテーションを行うにあたり、日常生活やそのほかの家事や趣味活動を含め、どの活動が本人の症状を認識しやすいのかを把握することが重要だと思います。どんな活動が本人にとってフィードバックがかかりやすいのか?を考える際に、本人が今何に困っているのか?(「特に困っていません」と言われる場合、質問されたタイミングで困っていることが思い出せないだけ可能性は大いにあるので、本人の言語化のみに頼るのは要注意!)本人が何に価値を見出しているか?本人が予測できる、予測しやすい活動や環境とは?という視点を持って、共通目標に向けたアプローチできれば良いですよね。

② 病識が定着することで無視症状に対する代償戦略(左空間を気を付ける)がとられ、代償によって日常生活が遂行されている可能性があるからです。
 生活できるようになるというのはすごく重要で、うまく代償できなくて日常生活が成り立たない状況よりはよっぽど良いのですが…現状では依然として無視症状が残存しているものの、代償によって生活が成立しているような方。ふと気が抜けてしまった時疲れがある時新しい環境に変化した時他のことに気が取られている時など、代償できなかった場合にどんなリスクや症状が表出するか事前に確認しておきたいものです。

以下、無視症状の代償に関する私たちが行った研究を紹介します。

半側空間無視の回復過程における代償戦略

回復過程において無視症状に対する病識は徐々に定着していきます。病識が定着すると、視線を意図的に左に向けるという代償戦略をとる方の存在が知られています(Takamura et al., 2016; Hasegawa et al., 2010; Pflugshaupt et al., 2004; Tham et al., 2000)。

私たちは下の動画のように、赤く点灯するオブジェクトを見てもらうといった視線課題を実施しました(Takamura et al., 2016)。

 明らかな無視症状の場合、下の図の赤色の視線軌跡で示されるように「はじめから右をみて、右のオブジェクトのみを見る(左のオブジェクトは見落とす)」という特性を示します。
 一方、紙とペンを使った机上検査(BIT行動性無視検査)では無視症状なし判定がされるけど(カットオフ値以上の得点)生活上無視症状がみられる(CBSの客観スコア>0)ような軽微な無視症状の場合、下の図の青色の視線軌跡で示されるように「オブジェクトが点灯する前から事前に左を見て」いることがわかります。青色の視線軌跡で示される軽微な無視症状の方が、回復過程で病識が定着してきているような方です。

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このような方たちは左空間に対する反応遅延を補うようにあらかじめ左空間を見ていることが考えられました。
 我々は視線と同時に脳波計測も実施し、その代償に関する神経基盤を調べました。結果、この軽微な無視症状の方々は前頭領域の活動が大きく前頭が活動している人ほど左を向いていることが分かりました(下図)。この前頭の活動は意図的注意を反映しているものと考えられます。

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 紙とペンを用いた臨床検査上にて無視症状が改善したと判定される方の多くは、無視空間への注意配分を高めることで機能低下を「代償」する戦
略をとっていることが示唆されました。
 こういった軽微な無視症状の残存は、復職の妨げとなったり、自動車運転再開が困難となるなど、社会生活に復帰する上で大きな影響を及ぼします。無視空間に注意を向けるよう「左気を付けてくださいね」など医療職が言語教示を行ったり、無視空間への注意配分を高めるような課題を実施することは従来より良く行われています。
 上手に代償できていればよいのですが、無視空間に注意を向けているにも関わらず無視空間の刺激に反応できなかったり、逆に右空間のものを見落とす、常に気を付けようと気を張ることによって疲れやすくなるなど、無視空間への注意を向ける代償を行うことによる弊害が生じる可能性もあるので、そういったリスクも考えながら、より効率的な代償の仕方を対象者とともに検討していけると良いですよね。

まとめ

今回は、無視症状を把握するための観察評価について、私たちが報告してきた内容も含めてまとめてみました。無視の代償については、奥が深いので、別記事で改めて整理してもよいかな~と思います。

とにもかくにも、最後まで読んで下さりありがとうございました!!!

でわでわ~👋





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