見出し画像

体験者の心を動かすARコンテンツを作るためのコツ

こんにちは、Satoh瞳です。
私は、スタジオ「eye de art-アイデアート-」で、AR(拡張現実-Augmented Reality)アートデザイナーをしています。

https://www.eyedeart.com/

今回は、「AR体験者の心を動かすコツ」について書いていきたいと思います。これは私自身の経験から得たコツです。スマフォでARコンテンツを見る一般の方の心を動かすにはどうすればいいか。作品作りを通して試行錯誤を繰り返してきた内容をまとめました。


※この記事は
STYLYアドベントカレンダーの参加記事となります。




私は作製したARコンテンツを、ARについて知識のない一般の方に何度か体験してもらったことがあります。
けれど、体験後に

「これは一体なに?」
「うーん」

といったリアクションをされたことが、過去に何度かありました。
率直な感想を伝えて欲しいとこちらからお願いしたものの、期待していた反応とはあまりにもかけ離れていて残念な思いでした。相手の方に感動してもらいたくて制作したものだったので、なおさらでした。

それからは、なぜAR作品を体験したときに、一般の体験者とAR製作者の間に感動の温度差が生まれるのかについて、作品作りを通して考察してきました。
また、そういった考察から生まれた仮説を、実際の作品作りの中で試してきました。

①なぜ感動が生まれないのか

まず、一般の方に「で、これは一体何?」と言われてしまった私のARコンテンツに共通しているものは何かと考えてみました。
結論から言いますと、それらの作品では「ARの技術」と「一般の人にとって関心や馴染みがないもの」を組み合わせている、という共通点がありました。

ARコンテンツを制作している私にとって、ARは馴染み深いもの、好きな技術です。
だからこそ、つい忘れてしまいがちなのですが、現時点でARクリエイター以外の一般の体験者にとって、ARは「馴染みのない、またはさほど興味のない技術」だと考える必要があるのではないでしょうか。
実際には、AR技術は様々な形で私たちの日常生活の中に浸透してきています。
しかし一般の方がそれに興味を持ち、認識しているかはまた別の話です。この前提を強く意識する必要があると思えました。

そう考えると「馴染みのない、またはさほど興味のない技術」をメインに打ち出しても、一般の方がその技術に対して感動するのは難しいことなのかもしれません。

更に、スマートフォンを介した短い時間で体験するライトなARコンテンツについて考えます。
これらは現在、主にInstagramなどで、スマートフォンの小さな画面を通して作品が体験されます。小さな画面越しでは、没入感に限界があります。

このような環境の限界がある中で、普段、YoutubeやTikTokなどの動画で刺激的なコンテンツを大量に摂取しているユーザーに振り向いてもらうためには、どうすればいいでしょうか。

私が立てた仮説は、「みんなが既に知っている遊びや体験の文脈(共通認識)」、「多くの人にとって関心が強いもの」をフックとして使用してみる、です。
そのうえで、ARならではの表現、それは魔法のような印象を与える、を加えると良いのではないかと考えました。

②AR三兄弟・川田十夢さんの例


「みんなが既に知っている遊びや体験の文脈(共通認識)」を軸に据えたARコンテンツの制作において、卓越している人と言えばAR三兄弟の川田十夢さんだと私は思っています。
川田さんの作品は、だいたいみんなが知っている【共通認識】から始まり、ARで不思議なことが起こって【文脈の変化】、体験者・鑑賞者の感情が動くと思っています。

例えば川田さんの道路標識を衣をつけてあげてしまうARのツイートを下記のリンク先からご覧ください。


道路標識はどこにでもあり、誰でも目にしたことがあるものです。
このARを見た人の心の中では

①あ、標識だ(認識する)
②え、なんか衣で揚がった(不可能なことが可能になり、驚きの感情がわく)
③でもなんで衣で揚がるの?まぁ、串揚げっぽいけど(驚きが、面白さ、楽しさに変わる)
④というかどうしてこんなことができるんだろう?(体験に興味を持つ)
という心の動き、感情の変遷が起こるのではないでしょうか。

「道路標識=みんなが既に知っている遊びや体験の文脈=共通認識」設定がされている上で「道路標識を衣で揚げるという文脈の変化」が起こり、①~④の感情がきれいに橋渡しされる絶妙なバランスではないでしょうか。

「衣で揚げる(串揚げ)=AR」は、「道路標識の形状から想像できるもの」と離れすぎていないし近すぎてもいない絶妙なモチーフの選定だと思います。

例えば道路標識からアジフライがたくさん出てくるだと、「唐突すぎる」という感想で終わってしまいます。
一方で道路標識から車が出てくるだと、道路標識と車という文脈が近すぎるため、予定調和過ぎて驚きがあまりないのではないでしょうか。

人によって感想は異なると思いますが、私は「道路標識」を「衣で揚げる(串揚げ)」が絶妙に面白くて、川田さんはやっぱり天才なんだな..と思ってしまいます。

こういった掛け合わせのバランスがうまくハマると、体験者の感情が動きやすいと感じています。感情が動けば、そこから体験者のARに対する興味へ繋げることができるのではないでしょうか。
そしてこの流れこそが、スマートフォンで体験するARコンテンツの現時点での面白さの一つであると私は捉えています。

③CREPOSストリートアートコンテストでグランプリを頂いたクジラのAR作品の例

ここからは、①と②で私が立てた仮説を実際に検証してみている結果についてお話します。
結論からお話しますと、①や②の内容を意識して作製したARコンテンツは、CREPOSストリートアートコンテストのグランプリを受賞しました。(コンテスト詳細と作品内容については下記をご確認ください)


こちらの作品は、製作時に
「みんなが既に知っている遊びや体験の文脈=共通認識」と「その文脈の変化をARで創り出す」を意識しました。

具体的にお話していきます。
今回選定した「みんなが既に知っている共通認識」は

・空飛ぶクジラ
・アート=絵画

の2点にしました。

「クジラが空を飛ぶ」というのは、ARクリエイターの間でだけでなく、一般的にイラストレーション表現などでもよく見かけます。
だからこそ一般の方にも慣れ親しまれていますし、ポジティブな印象を持っている人が多いのではないでしょうか。
人気のモチーフだと思います。だからこそ、採用してみました。空飛ぶクジラをあくまでも「みんなが既に知っている遊びや体験の文脈=共通認識」として、体験者へのフックとして機能させるためです。

またコンテストに応募する作品であったため、コンテストのお題である「ストリートアート」というキーワードにも着目しました。「アート」から一般の人が想起すであろうものとして「絵画」を選びました。

また絵画を画面上にただ配置するだけでなく、「重厚な額縁を付ける」工夫もしました。なぜなら、コンテスト作品を体験するであろうと想定されるターゲット(今回はショッピングモールや街にいる人達)に、しっかりと「絵画」として認識してもらうためです。

こんな感じで「みんなが既に知っている遊びや体験の文脈=共通認識」を、体験者にしっかりと感じてもらえるようにしました。
それはつまり、ユーザーが安心して体験できる土台作りと考えると分かりやすいかもしれません。

その次の段階として、リアルなクジラが体験者の近くを周遊したり、絵に戻っていくといった、ARならではの魔法のような表現を盛り込みました。
それによって、「驚き」や「癒やし」、「ストーリー性」を体験者に提供します。体験者の没入感と、心を動かす流れを作りました。

この作品は、コンテストでグランプリを受賞しました。少なくとも、審査員の方々の心を動かすことができたのだと思っています。

最後に

繰り返しになってしまうのですが、ARという技術自体は、一般の方にとって今はまだまだ「馴染みのないもの」「さほど興味のないもの」です。
今回の仮説検証を通して感じたことは、多くの人が既に持っている「遊びや体験の文脈=共通認識」に作品の中で「しっかりフックをかける」ことが、一般体験者の心を動かすコツになるのではないかということです。
こういったAR技術以外での工夫がARの魔法と上手く組み合わさったとき、スマフォを介したライトなAR作品は、驚きや面白さ、新鮮さとなって体験者に感じてもらえるのかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が少しでも面白いと思ったら、Xのリプで質問や感想をいただけると嬉しいです。
また、リポストしてくださると非常に嬉しいです!

Satoh瞳

くじらのARの体験はこちらから▼
https://gallery.styly.cc/scene/bb8e81ee-94c1-4ebd-b6b2-b8a4ec7e2804
※STYLYアプリが必要です、屋外で体験するのがおすすめです。
ぜひ感想を教えてください!


この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?