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地域おこし協力隊 思ったのと違った!リアリティショックにどう対応するか

みなさんの周りには地域おこし協力隊の方はいらっしゃいますか?

2009年に制度化され、初年度31自治体89名でスタートしてから2021年度では1,085自治体6,015人まで広まっています。政府は2026年度までに10,000人に増やすという目標を掲げ、さらに事業を拡充していく方針です[1]。

任期修了後、そのまま活動していた地域または近隣市町村に定住する隊員は約65%と報告されていますが、一方で、地域おこし協力隊になったにもかかわらず途中で地域を離れてしまう人もいます。弘前大学の調査によると、1年も経たずに退任してしまう隊員は25%。その主な要因として住民や行政との関係に対する悩みがあげられています[2]。

今回はこうした地域おこし協力隊と受け入れ地域の間に生じるミスマッチについて、隊員が感じるリアリティ・ショックの観点から調査した論文を紹介します。

柴崎浩平・中塚雅也(2018) :地域おこし協力隊のリアリティ・ショックと克服過程,農林業問題研究,54(2),25–35.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arfe/54/2/54_25/_pdf/-char/ja

結論

本研究では地域おこし協力隊員が感じるリアリティ・ショック※の内容およびその克服過程を明らかにした。そのうえで、リアリティ・ショックに関して受け入れ側が留意すべき点を整理した。

※「地域おこし協力隊員が地域に赴任する前に予想していたことと、赴任後に認知した現実とのギャップ、あるいは予期せぬ状況に直面したことで生じるネガティブな感情」


1.リアリティ・ショックの内容

  • 隊員は赴任初期(赴任 1~3 ヶ月後あたり)に多くのリアリティ・ショックに直面している

  • リアリティショックの内容は以下の4つに分類された
    ➀設定された活動に関するリアリティ・ショック・・・活動の自由度、要請される業務量
    ➁キャリアの方向性に関するリアリティ・ ショック・・・起業への認識の違い
    ➂自身のスキルの未熟さに関するリアリティ・ ショック・・・おこないたい活動を設計する難しさ、経験・スキルの役立たなさ
    ➃立場や待遇に関するリアリティ・ショック・・・雇用形態や指示系統の曖昧さ、協力隊に向けられる画一化されたイメージ、住居に対する失望

  • なかでも➁キャリアの方向性に関するリアリティ・ ショックはネガティブな影響が大きいと考えられる

  • ➀設定された活動に関するリアリティ・ショックは、人脈の広がりや予期せぬ活動展開のきっかけとなる場合もある


2.リアリティ・ショックの克服過程

  • 他者への働きかけとして、相談、要望、連携するといった対処をおこなっていた

  • 自身への働きかけとして、活動に対する態度・解釈の修正、自己学習といった対処をおこなっていた

  • 自らの働きかけによって効果的なサポートが受けられるように外部環境を改善し、リアリティ・ショックを克服していた


3.自治体行政によるリアリティショックへのサポート

  • リアリティ・ショックを予防する
    ・リアリティ・ショックの内容を受け入れ側で共有する
    ・隊員を採用する前に活動環境についての情報を伝える
    ・任期終了後のキャリアをどのように考えているのかを共有する

  • リアリティ・ショックが発生した後は、隊員とのやりとりを経て効果的なサポートが作り出されることに留意する必要がある


調査方法

1.隊員 9 名(X 村 6 名,Y 町 3 名)に対する聞き取り調査
 ・ギャップを感じた出来事や予想外の出来事はあったか
 ・その時期はいつか
 ・その時どのように感じたか
 ・どのような態度や姿勢でどのような行動をおこしたのか
 ・その結果リアリティ・ショックはどうなったか など

2.各自治体の担当職員に対する聞き取り調査
 ・採用時に重視した点
 ・活動内容の設定の仕方 など


編集後記

新しい環境に飛び込むとき、移住にしても、進学、留学、転職にしても、少なからず理想と現実のギャップはあると思います。しかし、リアリティ・ショックがあるからこそ、人は自分と周囲との関係を深く考えますし、それを乗り越えていこうと努力するのだと思います。とすると、リアリティ・ショックを完全に予防することが本当によいことなのかよくわからなくなってきました。人間関係と同じで、人と地域との関係も合う合わないはありますしね。

本論文で示されたように、リアリティ・ショックの内容も多様かつ個人差があります(サンプル数を増やしたさらなる研究に期待!)。キャリアの方向性や自身の未熟さに関するリアリティ・ショックであれば、個人にとっても地域にとっても成長機会として捉え直すことができるため、そうした隊員に伴走できる人や仕組みを設けることは重要だと考えられます。一方で、業務や待遇に関するリアリティ・ショックについては、事前に擦り合わせることで期待値のズレを小さくしておくべきだと思います。

近年、各自治体で地域おこし協力隊のOB・OGネットワーク組織の立ち上げを推進したり、「おためし地域おこし協力隊」(2泊3日程度)や「地域おこし協力隊インターン」(2週間から3か月)といった制度も導入されたりしているので、これらの制度活用についても注目していきたいと思います。


お読みいただきありがとうございました!新しい里づくり研究室(さとけん)では、都会と田舎、山と海、自然と人間のあいだにある「里」に光をあてた研究や実践を紹介しています。記事の感想や里づくりのお悩み、気になるテーマなど、お気軽にコメントお待ちしております😊

参考

[1] 総務省『「地域おこし協力隊」とは?』,https://www.chiikiokoshitai.jp/about/(参照2023-03-19)

[2] 日本経済新聞(2020)「地域隊員、1年で25%退任 住民・行政との関係に悩み」,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61904840U0A720C2CR8000/(参照2023-03-19)

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