【光る君へ】第9話「遠くの国」感想
道長は家人の手前、そして何より直秀個人に対する怒りから一味を見逃すことができませんでした。彼は直秀らに私刑を加えようとする家人をいさめつつも、検非違使に引き渡すことにします。散楽の住処を訪れたまひろもまた、検非違使にとらわれてしまいますが、そこは道長によって救われます。道長は検非違使に賄賂を渡して一味の助命も試みますが、それも虚しく一味は殺されてしまうのでした。政治力を発揮して直秀らを救ったかに見えた道長にまひろは感服しましたが、彼らを喪った悲しみを共有し、一緒に散楽一座を葬るのでした。
一方、東三条殿では兼家が息を吹き返します。兼家は途中から病を装い、晴明の意見も容れながら花山天皇の追い落としを量っていたのでした。道兼を操り、詮子の思惑を喝破しながら、兼家の猛追が始まろうとしています。
なぜ直秀らは殺されたのかを大真面目に考えてみる
賄賂は正しく働いたのか
道長は検非違使に賄賂を渡して直秀らを救おうとしましたが、それにも関わらず直秀らは検非違使庁の役人によって殺しました。個人的にはこの展開が、現段階ではどうしても呑み込めませんでした。X(Twitter)では賄賂が曲解された(=検非違使は「道長が盗賊を始末したがっている」と考えた)...との見方が強かったのですが、後述の理由から、賄賂は「道長による助命」を願うものだと受け取られたのではないかと思います。そういうわけで賄賂の受け渡しのシーンをもう一度見て見ました。会話の要旨は次の通りです。
道長「早めに解き放ってもらいたい」
(たぶん)検非違使「なぜそのようにお情けを?」
道長「頼む」
検非違使「何せ盗賊ですからね。腕を折って二度と盗賊をしないようにさせるのが私の仕事です」
道長「手荒なことはしないでくれ(賄賂を差し出す)」
検非違使「承知いたしました(賄賂を受け取る)」
私が道長の願いが誤って解釈されたのではないと考える理由は、検非違使が「お情け」と言っているからです。「お情け」というからには、検非違使は道長の「盗賊をおとがめなしにしたい」という意図を正しく汲めているのではないかと思います。現にこの検非違使は、この後で「盗賊一味」と勘違いされて捕縛されたまひろを、道長の意を受けて速やかに解放しています。私見ですが検非違使は、「道長が助けたいと思っていたのが(既に収監された散楽一味ではなく今捕まってきた)まひろである」と考えたのではないでしょうか。道長は盗賊を助ける理由を話していないため、「道長とまひろが男女の仲であり、それゆえに道長はまひろを助けたがっている」と考えたのだとしても不思議はないかなと思いました。
大きすぎた罰の理由は
とはいえ、まだ直秀らの死には疑問が残ります。道長は当初、一味が「罪一等を減じられて流罪となる」ことを望んでいましたが、兵衛府の同僚の発言によれば、本来私邸への強盗の刑罰はそれよりも更に軽い鞭打ちで済むようです。また、散楽の一味も同様に「刑罰はむち打ち30回程度だろう」と見積もっており、この認識の方が正しそうです。道長が量刑を誤ったのは、単純に道長が刑罰に明るくなかった...というだけの話なのかもしれません。しかし遡ってみると、道長は彼らが内裏にも強盗に入っていたことを知っていました。そして、散楽の一味が内裏にも入った強盗であることを検非違使は知らないはずです。だからこそ、道長(だけ)が、彼らの罪を重く見た可能性はあります。
一方で、内裏に散楽一味が押し入った日は、ちょうど忯子の死去した日と同じ日でした(第6話より)。散楽の一味が忯子の死と同じ日に内裏で強盗をしていたことが、例えば花山天皇に知られでもしたとしたら...もしかしたら花山天皇やその近くの人間が、強盗と忯子の死を関連付けて考えて犯人たちに厳罰を下したという可能性も無くはないのかもしれません。
それからこれも完全な想像なのですが、兼家が子供たちに宣言した通り、彼はこのあと総力を挙げて花山天皇を退位させようとしています。そのために、内裏近辺で別の余計な騒ぎが起きる可能性を極力排除したいと考えて、前科のある散楽一味を是が非でも排除したいと考えたのかもしれません。
ここまで書いてみましたが、どれもこじつけにすぎないような気もするし、私が重箱の隅をつつきすぎて却って拙い読み方をしているだけのような気もしてきました。次週以降で何かボタンがすべてハマるような描写が出てきてスッキリできたらめっちゃ嬉しいです。
(追記:ガイドブックを読まれた方のツイートをちらっと見てしまったのですが、流罪→殺害になったのは役人が面倒がったかららしいですね。道長の同僚も「流罪は面倒(であろう)」ということを言っていたのですが、まさかその運命を暗示した発言だったとは…でも、なぜ道長の意に反して一味の罰が「鞭打ち→流罪」と重くなったのかがちょっとツイートだけでは分からず、かといってガイドブックを入手して見てしまうのもちょっと面白みとして勿体ないので、何かドラマ内で説明が出ないか、結局期待しています)
道兼の「成功」
道兼は道隆と道長に対し、「兄上や道長より、私が役に立つと父がお思いになったからです」と誇らしげに語り、他でもない自分が収めた成功に満足げです。一方で、自身の試みが成功した道兼はその割には幸せそうには見えませんでした。
信頼する父の作戦の一環とはいえ、自分の体じゅうにあのように傷をつけるのは常軌を逸しています。そしてその傷を、「己でつけたんですよ」と自分の献身と成功の証かのように触れる様子には彼の心の闇が垣間見えます。これまでもそうでしたが、道兼は兼家に、円融院に毒を盛ったことを始はじめとした、道隆や道長には任せられない悪事を担わせてきました。いうなればこの傷は、自身の良心を犠牲にしながら、父に報いようとしている道兼の心が現れているのではないかと思いました。道兼のこの境遇はちやはを殺したことに由来しますが、道兼のさせられていることは、その殺人の償いにすらなっていないあたりに闇を感じます。
その他
◆埋葬した後の道長の散楽一座への詫びがとても悲痛でした。彼の政治家としての決意に何かつながっていくのでしょうか。期待したいです。
◆ところで埋葬って一般的なんですかね?当時の葬送は、鳥辺野などの郊外にそのまま置いてくるのが通例なのかなと思っていました。それはそれとして、まひろと道長2人で埋葬をする、という行為に死者への思いが分かりやすく出ている演出だとも思います。
◆実資と妻・桐子の掛け合いが今回も出てきて楽しいです。「日記日記日記!」とガンギマリの顔で煽る桐子が愛おしい。実資の嫡妻(1人目)はこのあと程なく亡くなってしまうのですがそれがこの桐子なのでしょうか。でも、兼家だって今作では寧子と仲良しでしたし、生没年のはっきりしないその他の妻の一人と考えても良いのかもしれないですね。むしろそうであってほしい!
(追記:か、かなしい…。 https://twitter.com/Nakajima_Arisa/status/1764272263413813418?t=88rwOA3F2_PKgJWqp4leKg&s=19
)
◆雅信をめぐる穆子の感情が空回りした結果、穆子と赤染衛門の関係が冷え込んでいます。衛門の方が自由な内面を持っているので、穆子が焦るのも無理はありませんが、あえてそんな展開が出てくるとは…史実通りなら衛門はこの後も土御門殿界隈に居続けるので決裂はしないと思いますが、どうなのでしょう。
◆リアルの世界と歩調を合わせるかのように、惟規が大学に入りました。おめでとう。
◆そして為時はこのころになっても他の女の元へ通っているのですね。それを子供たちに伝えるいとの笑顔の怖いこと。やはり為時と何かあったのだろうか。
◆為時の有名な「自分が男であったなら…」をまひろ自身も口にするようになりました。紫式部にも書かれるエピソードなので、それだけ本人に焼き付いていることが窺えます。男だった世を正すというまひろ、悲しみを乗り越えて頼もしいです。
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