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【光る君へ】第4話感想:緊迫と緊縛

紫式部…このドラマでいうまひろが藤原道長の娘に仕え、道長と関りを持つことはこのドラマにおいて欠かせない(であろう)史実です。また、まひろの母を殺した道兼が道長=三郎の兄であることは、このドラマで打ち出された設定です。ということは、まひろはいずれ知己の三郎の素性を知り、そしておそらく三郎と道兼の間柄を知ることになるだろう...とは想像していました。
そして今回、この両方の出来事が同時に起きました。五節の舞を、舞を苦手とするまひろが舞う本番の緊迫感というスパイス、夜空の下で着飾った姫たちが裳を引きながら舞う優雅さ(真上からのショットの美しさときたら!)も相まって、二大事実が発覚するドラマチックな瞬間にドキドキしました。


花山天皇の【秘】エピソード

今回即位した花山天皇の史実…もとい逸話として、即位の日に高御座(帳を巡らせた玉座)の中で女官と(禁則事項)をした…という話があります(『古事談』より)。今回、即位の式典の様子が一瞬だけ写りましたが、天皇はきちんと座って式典に臨んでいるように見えます。一方で、この高御座チョメチョメエピは後程登場し、伝聞という形をとって雅信の口から語られています。ドラマにおいて、天皇はきちんと儀式を執り行った後(あるいは前)に事に及んでいたのでしょうか。
ここで遡って注目したいのが、この即位に先立つ兼家とその息子たち(道隆・道兼・道長)の場面です。兼家は花山天皇の速やかな退位をどのように実現するか、三人の息子たちに意見を求めています。その中で長男・道隆が天皇の好色ぶりを噂として民衆に流布させることを進言します。このことを踏まえた「このドラマの」「私の」解釈にすぎませんが、天皇は清廉に式典をやりとげたが、道隆はそうではないかのような噂を流し、それが当世、後世に受容されて語り継がれた...というのが、このドラマにおける天皇のトンデモな逸話への態度かなと考えることにしました。とはいえ謎の女御緊縛シーンが挟まっているので、花山天皇の奇矯さ自体は否定していないようですね。
天皇即位をめぐるこうしたストーリー展開は、右大臣家の朝廷対策が抜かりないことを示唆しつつ、花山天皇の「人格はさておき仕事はちゃんとする統治者である」、加えて雅信が噂を信じるような無垢な(?)人物だったという彼の今作でのキャラクターを示しているように思います。

まひろの葛藤:理想と現実と三郎の間で

今回もまひろは父・為時への態度に葛藤を抱えています。まひろの親しむ漢籍の世界は政治のあるべき姿を説く理想の世界です。そして幼い日のまひろにとっての為時は、その世界をよく知る水先案内人でした。そんな記憶の中の父と、娘を利用し自身の栄達に役立てんとする現在の父の間に乖離を認めるまひろは、父への不信や学問への失望を宣孝に語ります。宣孝はそんなまひろに「父上も人だからじゃ」と諭し、まひろが父の指示に反発を覚えつつも、それで出会った倫子に興味を抱かずにいられない様子との共通点を指摘するのでした。
宮中での政治模様に否応なく翻弄され、同時に道長への思いを抱えるまひろは、これからも理想と現実の間で葛藤していくことでしょう。それをまひろがどのように処理するかを想像する上で、今回竹取物語について語るシーンが印象的でした。かぐや姫が貴公子の求婚を贈り物の要求によって突っぱねる理由を、まひろは貴族の専横ぶりに求めて、かぐや姫の姿勢を評価します。史実でのまひろ(紫式部)は、この先自分で物語の世界を創り出していくことになります。まひろの物語は、その葛藤に対して自身で見出したひとつの回答になるのではないかなと想像しました。
一方、そんなまひろにとって道長が今後よき理解者になるのではないかとも思いました。今回、父・兼家が企図して円融天皇に毒を盛っていたことを詮子が道長の目の前で暴露します。兼家の朝廷工作に対して、道長はやはり怪訝な顔で臨んでいます。公任・斉信・行成の前では、「東宮の毒殺」などという不穏なことを口にして3人との間に寒々しい沈黙を浴びてしまいます(逆に、公任や斉信の「出世が近い」だの「祇子が皇子を産めば…」という会話が、大人を真似した夢想的なものであることが浮き彫りになってくるような場面でもあります)。まひろと道長は立場こそ違いますが、宮中の陰謀や人間模様への鬱屈とした思いは共通しているように見えました。道長は身分を隠しつつ、まひろの「男を騙って代筆仕事をしていた」ことを「代筆仕事をしていたのは自分ではなく別の男である」という嘘(これだけでもじゅうぶん物語的)を見透かしています。道長の観察眼、政治的勘がまひろの前でどのように働くのか、そこにも注目したいです。

倫子への興味が止まらない件

ますます重要性を増すであろう倫子の立ち振る舞いが今日も鮮やかでした。相変わらず赤染衛門先生や令嬢たちの前で空気の読めない発言をお見舞いするまひろを、時に柔和に受けとめ、時に自分の父の政治的立ち位置を挙げながらけん制した上で笑い飛ばします。「リスク」のある舞姫という役目を自分の代わりに引き受けたまひろに対する感謝の笑顔には、天性の人心掌握術が滲んでいます。一方で、自分の幸福を自立的に見据え、天皇の后妃となることに現実的な予見を示す冷静さも覗かせます。
【以下重大かもしれないネタバレ】
倫子はこの先、第一級の政治家の妻として政治力を求められ、あるいは発揮していくことになるのかと思われますが、その片鱗を覗かせる見事な姿でした。

その他

◆義懐と惟成が突然登場して突然でかい顔を始めました。公卿たちの前で天皇の威を振りかざす様子があまりにふてぶてしいので、いっそ関白頼忠に見習ってほしいです。烏帽子を天皇から取られていたのは、天皇が即位式で烏帽子を外した逸話へのオマージュか、はたまたここ数年で烏帽子の重要性を目の当たりにしてきた大河クラスタへのサービスなのでしょうか(?)。そういうわけで、「烏帽子を取られるのは現代人にとって下着を脱がされるのと同じ」というナレーションには「知ってる~」と言いたくなってしまいます。

◆相変わらず直秀の正体が謎です。それとは別に、まひろと道長の距離を冷静に見極める動機もよく分からないですね…気になる。

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